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デスティニーブレイカー  作者: 影野龍太郎
第3章

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第36話 狂乱と絶望の渦の中で

 女の言葉に呼応するように、群衆が一斉に武器を手に取りこちらに向かってくる。


 もう疑う余地などない。この盲目の占い師の目的は私たちだ、市民を利用し『正義』の名のもとに私たちを襲わせ殺させることなのだ!


 しかし、何故? 彼女は何者なの? そんな事をして何の得があるというの? ショファン教会の魔王抹殺派? そもそも彼女は私たちが魔王の魂の継承者の一行だと分かっているのか否か。それに魔族の襲撃との関係は……。


 ん? そう言えばさっきから魔物たちが妙に大人しいのは何故? 人間同士の事情なんて彼らには関係ないはずなのに、まるでコトの成り行きを見守っているかのように魔物たちの動きが停滞している。


 それは、あまりにも異常な事態、私は混乱し困惑する頭を必死に働かせる。


 ――ダメ、考えがまとまらない。だけど、そんな事より今一番に考えるべきは――


「ア、アリッサ。これって、かなりヤバイ状況なんじゃない……」


 クリスが市民の輪に押されるように私のそばに寄ってくる。迫りくる群衆たちは怒りや(歪んでいるとはいえ)正義感に支配されてはいても基本無力な一市民たちの群れである、率先して襲い掛かってくるような勇気のある者はそういないらしく、その歩みはゆっくりとしたものだ。その点は有難い。


 だが、その歩みがいくらゆっくりでもいつかは、そして確実に迫ってくるのだから、今できる最善の策を選択するために、落ち着いて判断しなければならない。


 だから、冷静になるのよアリッサ!


 私は自分自身に言い聞かせる。


 そうだ、私は冷静だ。何をすべきか既に理解できている……理解できてしまっている……!


「やれやれ、魔族だけじゃなくて市民も相手にしなけりゃならないとはね。仕方ない、振りかかる火の粉は払うとするか」


 私が動くより早く、ラルクは口元に不敵な笑みを浮かべつつ市民に向けて手をかざす。


「ラルク! あんた何を考えてるの!! 扇動されただけの市民に手を出す気!?」


 私は慌てて彼に駆け寄る。


「仕方ないだろ、もうそれしか方法はないよ」


 そして、私の耳元に口を寄せ小声で続ける。


「ここまでのやり取りでわかっただろう? もはや僕たちはあの女に反論する術を持たない。僕たちの中に『魔王』がいない証拠を出す以外にはこの事態は収まらないがそれは無理だ。カズキの中に『魔王』がいる。これは紛れもない事実なのだからね……」


 私はハッとしてラルクを見つめ返す。彼の表情は苦々しく歪んでいた。


「それに、もう一つまずいことがある。カズキのあの反応だ。あんな顔をしてしまっていたら女の言っていることは正解ですと白状しているようなものじゃないか」


 私は三度(みたび)カズキに視線を向ける、絶望――今の彼の顔にはそんな文字が張り付いているようだった。


 かつて魔王の意識に乗っ取られクラスメイトを惨殺し自我を取り戻した後自殺を図った時と同じ顔がそこにはあった。


 私は唇を噛み締める。


 違うのよ、カズキ。あなたは魔王なんかじゃない、魔王の呪いなんて受けていない。


 私は知っている、あなたが本当は優しい人だってことを……。だから……お願い……否定して……。誠実なことは美徳だけど、時には嘘をついてもいいのよ、いいえ、これは嘘じゃないの、あなたは『カズキ』、ただそれを主張すればいいだけなの……!


 私は胸の前で手を組み、祈るような気持ちで彼を見る。


 しかし、時は止まってくれない、市民は待ってくれない。私はあっと小さく声を上げる。


 カズキの背後では市民の一人が棍棒を片手に今にも殴りかかろうとしていたのだ。


「カズキ!」


 私が声を上げるが、彼は悲しそうに微笑んだだけだった。


 まさか……自分の背後に迫る市民に気づいてなお……!?


 ゴッ! 鈍い音が響く、カズキの身体が吹き飛ばされ、地面に転がった。


「その少年、その少年こそが魔王です! その他の少年少女たちは魔王によって洗脳されているのです! 彼さえいなくなればこの町の人々は救われます!」


 盲目の女の声が響き渡る。


 くそっ! くそくそくそっ! どうしてこんなことに……。


 私が唇を噛んでいる間にも、市民たちは倒れ伏したカズキに殺到し、彼を袋叩きにする。


 私は必死でカズキのもとに駆けつけようとするが、押し寄せる市民たちに阻まれ身動きが取れない。


「やめて! カズキを傷つけないで!」


 私は声を限りに叫ぶが、市民たちの怒声にかき消され届かない。


 カズキは抵抗することもなく、ただただ殴られ続けていた。


「リューヤ、クリス、ラルク! 何をぼさっとしてるの! カズキを、カズキを助けるのよ!!」


 私は半狂乱で叫ぶ。


「そ、そうしたいが、数が多すぎる。大技使って市民を殺すわけにはいかない……そんなことになれば、カズキはそのことで自分を責めてしまう……」


 リューヤが苦し気にうめく。


「それでも……」


 言い募ろうとした私の頭に激しい痛みが走る。


「魔王の洗脳を解いてやるよ!」


 振り返ると、数人の男がニヤニヤしながら私を見ていた。彼らの手には農作業にでも使うものだろう、粗末な棒切れが握られておりそれは血で染まっていた。


 私が思わず頭に手をやると、べっとりと血が付いていた。


 周囲を見回すと、リューヤも、ラルクも、クリスも市民から殴り倒され、私と同じように頭を割られていた。


 市民たちの狂気じみた笑い声が聞こえる。


 こいつら……。私たちは仲間を――カズキを袋叩きにされてもなお抵抗を躊躇しているのよ……? だというのに……!


 激しい怒りが込み上げてくる。だけど、同時に恐怖で足がすくんで動けなかった。人の底知れない悪意。ここまでの事態に晒されたのは初めての経験だった。


 怖い……誰か……助けて……! 私は必死で神に祈ったが、その祈りは届くことはなかった。


「さあ、哀れな少女を救ってあげてください! 魔王に囚われ穢れた魂をあなたたちの愛で浄化してあげるのです」盲目の女の声が響き渡った。


 何を、何を言っているの……。すべてがおかしい、何もかもが狂っている。カズキを魔王とか言う前にあなたたちこそ本物の悪魔じゃないの! 私はそう叫びたかったが、市民に踏みつけられて言葉を発することも出来なかった。ラルクを止めるべきじゃなかった、躊躇などせず市民を術でもなんでも使って蹴散らしておくべきだった! こんなクズ共の命なんて気にしてやる必要なんかなかった。


 だけど、後悔してももう遅い……。


「そうだな、俺たちは好きでこんなことをやるんじゃねぇ。魔王にそそのかされたかわそうな女の子を救うために俺たちが浄化してやるんだ」


 市民の一人がズボンのベルトを緩めながら近づいてくる。私は身を震わせる。


 思わずクリスの方に視線を向けると、すでにぐったりとした彼女が市民に羽交い絞めにされその胸をまさぐられているところだった。


 リューヤとラクルは……? ダメだ、市民の脚が邪魔で確認できない。


 ただ、時折聞える殴打音と悲鳴が二人の安否を物語っていた。


 そして、肝心のカズキは、全身から血を流し、仰向けで横たわっていた。胸が上下に動いているのが分かるので死んではいないようだが、意識はないみたいだ。


 どうして、どうしてこんなことになってるの……私は、私たちは、ただ普通に暮らしたいだけなのに……。


 男たちの手が体を這う感触を感じながら、私は泣きそうになるのを堪えていた。

お読みいただきありがとうございました。

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