第32話 謎の指輪と町を覆う不穏な空気
元・魔王城で発見した古の勇者の名が刻まれた箱。全員の期待が高まる中開かれたそれに入っていたものは指輪だった。
しかし、どう見てもただの指輪、それもなんというかかなり安っぽい作りに見える。
「なんだ、ただの指輪かよ……」
俺は落胆したように言う。
「でも、こんなところに隠すように置いてあるくらいだから、何か特別な力が宿っているのかもしれないよ?」
ラルクがそう言ってクリスさんの持つ指輪を見つめる。
「あなたはいつも短絡的なのよ」
アリッサが俺に呆れた様子でため息をつく。
うぐっ……、俺は何も言えずに黙ってしまう。
カズキにぞっこんとか言う以前にアリッサは俺をかなり下に見ている節がある。
これじゃアリッサがカズキにフラれようが何しようが俺にチャンスはないんじゃないか?
いやいや、なら今からでもアリッサに見直してもらえるようにせめてもう少し冷静さを身に着けないと……。俺はそう考えながら、クリスさんが持っている指輪を眺めていた。
特別な力ねぇ……。せめてもう少し立派な作りだったら俺ももっと真剣に考えたんだが……
「とりあえず、クリス、指に嵌めてみてよ」
カズキがそう言うと、クリスさんはまた戸惑う。
「え? わたしでいいのかなぁ」
おいおい、似たやり取りさっきも見たぞ。
「もちろん、勇者であるクリスにこそ相応しいよ」
カズキがそう言うと、クリスさんはまた顔を赤くする。
見る気はしないがきっとまたアリッサは不機嫌な顔をしており、ラルクは笑っていることだろう。
クリスさんはおずおずと左手の中指にその指輪をはめた。それは測ったようにクリスさんの指にピッタリと収まった。
おっ、これは少し期待できるのか?
俺たちの顔が期待に満ち溢れる。
しかし、ややあって、クリスさんが口を開く。
「特に何も起こらないみたいだけど……」
クリスさんがそう言うと、アリッサがあからさまに落胆した表情を浮かべる。
「そんな……期待させておいて、結局何も起こらなかったなんて……」
アリッサはそう言うと、その場にへたり込んでしまった。
「勇者が残した物は確かにあったけど、武器というのはただの勘違いで、しかもそれが何の役にも立たないものだったなんて……」
アリッサはそう言って、がっくりとうなだれてしまった。
「なんでわたしのご先祖様はこんなのをご丁寧に残したんだろう……」
クリスさんがそう呟きながら、自分の指に嵌った指輪をぼんやりと見つめる。
「まあまあ、クリス、そう落ち込むなって、この指輪にはきっと何か意味があるんだよ」
カズキがクリスさんの肩をポンと叩く。
「その可能性は確かにあるね、僕たちがその秘密に気づくのを待っているのかもしれない」
ラルクもそう言うと、クリスさんは少し元気を取り戻したようだ。
「そうよね、きっと何か意味はあるはずだわ!」
「そうだといいわね。まあ、とりあえずその指輪はそのままクリスが身に着けた方がいいんじゃない?」
アリッサがそう言うと、クリスさんはさすがに今回は素直に頷いた。
よかった、これでクリスさんが戸惑ってカズキが声をかけアリッサが不機嫌になりラルクが面白がるという一連の流れから解放される。
まったく、どうして俺がこんなに気を揉まなきゃいけないんだ。
「それで、これからどうするの?」
アリッサがそう言うと、ラルクは少し考えるような仕草をして答えた。
「そうだね、とりあえず本当にこの指輪しかないのかを確認するためにもう少しだけ探索して、それから町に戻ろう、その後すぐ町を発つことになると思うけどね、それでいいかい?」
ラルクの言葉に俺達は同意した。そして、俺達は再び城内を歩き始めた。
**********
結論から言うと例の指輪以外にはたいしたものは見つからなかった。
まあ、元々完全な廃墟だったわけだし、目につくものがあったならとっくに誰かが見つけているだろう。
それにしても、あの指輪はなんだったんだろうか。
あれから何度か試したが、特に変わったことは何も起きなかった。
試しに全員が一度指輪を嵌めてみたが、何も起こらず、結局はクリスさんが身に着けることになった。
ともかく俺たちは再び洞窟を抜け、ワッテイへの帰路についた。当然戻る道でも魔物が襲ってきたりはしたが、別段記すこともないだろう。
「……なにか、妙な空気を感じるわね……」
ワッテイの町に一歩足を踏み入れた時、アリッサがそう言った。
確かに、なにか嫌な感じがする。と言っても魔物とかそういうものじゃない。もっとこう、うまく言えないが、不安感のようなものだ。
俺はハッと気づいた。
まさか朝に見かけたあの盲目の女の演説が影響してるのか?
もしかしたら、俺たちが不在の間にまた町の人たちに不安を与えるようなことを言い出したのかもしれない。
だとしたらまずいぞ……。
「町の人たちの私たちを見る目がどこか敵意を含んでいるように感じるのは私の気のせいではないはずよ」
「アリッサもそう思うか? 実はオレもなんだ」
アリッサがそう言うと、カズキが同調する。
「これは予定通りさっさと町を出た方がいいかも知れないね」
難しい顔で言うのはラルクだ、確かにその方が得策だろう。しかし……。
「そうしたいとこだけど、今日は疲れたし、もう日が暮れてきた、今から出発すれば野宿になるぞ」
俺はそう言って反対の意を示した。
「そうね、野宿は色々な意味で避けたいし、リューヤくんの言うとおり、今日はとりあえず宿で休んで朝一で出発したほうがいいかも」
クリスさんも俺の意見に賛成してくれたようだ。
「それもそうか」
ラルクがあっさりと言うと、カズキとアリッサもうなずく。
「まあ、町の人もいきなり何かをしてくるようなことはないだろうし、ここはやっぱり休むべきだよな」
カズキの言葉を合図にするかのように俺たちは宿屋に向かった。
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