第29話 洞窟も人間関係も複雑だ
やれやれ、疲れた……。
俺は手近な岩の上に腰かけ息を吐く。
一応体力にはそれなりの自信のある俺だが、それでもさすがにこの洞窟の複雑さは精神的にも肉体的にも堪えた。
「クリス、大丈夫? 疲れてない?」
「大丈夫よ、まあ疲れてないと言えば嘘になるけど、少し休めば平気よ」
そんな会話が耳に聞こえてきたので、そちらに視線をやると、カズキとクリスさんが仲良く並んで座っていた。
相変わらず仲が良さそうなことだ。それはいいのだけど、そうなると……。
俺はチラッとアリッサの方へと視線を移す。彼女は一人少し離れた場所で泉から水筒に汲んだ水を飲みながら休憩していた。
そんな彼女もカズキとクリスさんが仲睦まじく並んで座る姿を目にしているはずだ。
彼女の心境はいかばかりか、気になるところだが……。
「ククッ、リューヤ。これはチャンスなんじゃないかい?」
そんなことを思っていると不意に耳元でそんな声が囁かれた。
思わず大声を出しそうになるのを堪えながら、俺はその声の主であるラルクを睨み付けるようにして振り返った。
「冗談だよ、だからそんな怖い顔しないでくれ」
俺の顔を見て肩を竦めながらも、ラルクは悪びれた様子を見せなかった。
こ、この野郎……!
アリッサがカズキのことを好きなのも、俺がアリッサを好きなのもどうやらラルクは気づいているらしい、そしてその関係を面白がっている。
さらにその関係にクリスさんが加わったことで、彼の悪ノリに拍車がかかっている。
それが証拠に今だってニヤニヤと笑いながら俺の反応を楽しんでいやがるのだ。
俺はこいつの性格がよくわからない、というよりこいつについて俺はあまり良く知らないのだ。
俺、カズキ、そしてラルクの三人は幼馴染だ。家が近所で物心つく前から一緒にいた。
そのはずなのに、俺とラルクは驚くほどに接点が薄かった。
俺とカズキは自他ともに認める親友同士、カズキとラルクもまた親友と言っていい関係だが、カズキを抜きにした時の俺とラルクは「ただの知り合い」でしかない。
俺としては親しくしたいという思いがあるのだが、ラルクはどこか俺に対して距離を置いているように感じる。
いや、違うか。俺に対してだけじゃない、ラルクは誰に対しても――そう、カズキ以外の全ての人間に対して――距離を置いているように感じるのだ。
表面上は人懐っこい笑顔を浮かべて誰にだって愛想よく接するが、その実、他人に対してどこか壁を作っている。
しかし、その代わりと言ってはなんだが、カズキに対する信頼は並々ならぬものがあり、それはアリッサのカズキへの想いにも匹敵するものがある。
一時はもしかしたらラルクはそういう奴でカズキに対して友情とは別の感情を抱いてるのかと思ったこともあるが、今まで見てきたラルクの行動や言動を見る限りではその線はなさそうだ。
むしろそんな感情をすべて超越した、それこそ信仰という言葉すら生ぬるいと思えるほどに深く強い想いをラルクはカズキに対して抱いているように思えた。
――それにしても、ラルクといいアリッサと言いカズキに対する想いがいささか強すぎはしないか?
俺もカズキに対しては強い友情を感じているが、二人ほどではない。
カズキが死ねと言えば笑って死ぬ、そんな雰囲気が二人にはある。
まあ、もちろんカズキがそんなことを言わない奴だと確信しているからこそ、二人はカズキを信じ、カズキのために命を投げ出せるのだろうが。
俺は、そこまでは出来ない……。たまにそのことについて、俺は考え込んでしまう。それは果たしていいことなのか悪いことなのか……。
そんなことを考えながら、俺はカズキを見る。
カズキはクリスさんとお互いに見つめ合って頬を染めておりどう見ても完全なる両想いだ。だが、お互いなかなか踏み出せずにいるような感じだ。
まあ、仕方ないか、立場が立場だしな……。
それにして、勇者と魔王の魂の継承者の恋か……。
本来敵同士の2人が惹かれ合うなんて物語としてはありがちだが、果たしてこの2人にはハッピーエンドが用意されているのだろうか?
いや2人だけではない、俺たちにはハッピーエンドなんて都合のいいものは用意されてるのだろうか?
もし、カズキが魔王として完全覚醒を果たす前に呪いを解く方法が見つからなかったら、俺たちはどうなるのだろう?
ともあれ、あれこれ考えたところでどうなるわけでもなし、今は前に進むしかない。そんなわけでしばしの休憩を終えた俺たちは再び探索を再開した。
「はあっ!」
俺は迫りくる巨大コウモリを拳で叩き落とす、横を見るとカズキたち4人もそれぞれ魔物を倒していた。
「ふうっ、これで全部かな」
カズキが額の汗を拭いながらそう言うと、クリスさんが笑顔でカズキに駆け寄る。
「お疲れ様、カズキくん」
「クリスもね」
そう言って2人は手を取り合い、喜び合っている。
それを見ていたアリッサがムッとした表情を浮かべる。
俺はそんなアリッサの様子に気づいていたがあえて何も言わなかった。
ここは先程の休憩場所からさらに進んだ開けた場所、襲いかかってきた魔物をあっさり全滅させた俺たちは、その足でさらに洞窟の奥へと進んでいた。
休憩によって体力が回復したこともあり、あの後も何度となく魔物と遭遇しているが、全く苦もなく倒している。
特に目覚ましい戦果を上げているのはクリスさんだ、先のシャドウマンとの戦いでもそうだったが、彼女は剣の扱いに関して天性の才能があるらしい。
時に華麗に時には大胆に剣を扱い次々と魔物たちを切り伏せていくその姿はまるで舞っているかのようですらある。
そして、何より、カズキとのコンビネーションが抜群だった。それはいい、それはいいんだが……。
「喜びを分かち合うのはそれぐらいにして、先を急ぐわよ」
あまりイチャイチャされるとアリッサの不機嫌メーターがどんどん上昇してしまうのが悩みだ。
俺は、やれやれと内心でため息を吐くのだった。
その後も敵と遭遇したりしなかったりを繰り返しながら俺たちは洞窟を進んで行く。
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