夢か現実か
わたしはお母さんの手に優しく触れた。
「わたしもね、お父さんに会ったよ」
「若菜も?」
「うん。さっきまでいたの」
「そう」
お母さんは優しく目を細める。
「お姉さんがずっと一緒にいてくれたの」
「そう……いつもありがとうございます」
「いいえ! わたしが好きでしてるんです。気にしないでください」
「ありがとうございます……」
「あ、若菜?」
突然わたしの名前を呼んだからびっくりした。
「何?」
「わたしが入院している間、お姉さんの言うこと聞いててね? そばにいられないから」
「うん、分かった」
「大丈夫ですよ。若菜ちゃんのことはまかせてください」
笑顔でお姉さんはお母さんに言ってくれる。
「よろしくお願いします」
「いーえ。若菜ちゃんのことは妹みたいに思ってるので」
「お姉さん」
「嫌かな?」
「ううん。嬉しいです」
お姉さんと車に戻るとチャチャの姿がない。
「何で? チャチャ?」
「若菜ちゃん?」
「チャチャがいないの……」
「おかしいわね。ロックしておいたのに」
「心配だけど……今日は夜も遅いし、明日は休みだから、また明日探そう?」
「……うん」
せっかくお母さん大丈夫だったのに、さっきまでいたチャチャがどこかへいってしまった。
――どこへいったの?
✧ ✧ ✧ ✧ ✧
次の日になって、お姉さんと一緒にチャチャを探す。家の周り。病院の近く。だけど……どこにもチャチャはいなかった。
車にはしっかり鍵がかかっていた。窓も閉まっていて、いなくなるはずがなかった。
トボトボとわたしは落ち込みながら歩いている。
お母さんが退院する日になって、お姉さんと迎えに行く。
「お母さん!」
わたしはお母さんへかけよる。
「若菜。チャチャ、見つからないって?」
「うん……あのね、お母さん」
わたしはお父さんに会った時のことを話した。
「あのコって言ってたのね?」
「うん。チャチャなのかは分からないけど……」
わたしは病院から出ると空に浮かぶ虹を見つめた。
『キャン!』
どこからかチャチャの声が聞こえた気がした。それはお母さんにも聞こえたみたい。
「今の聞こえた? お母さん?」
「聞こえたわよ」
「何? なんのこと?」
お姉さんには聞こえないみたい。
本当の所は分からないけど……。
「ありがとう、チャチャ。ありがとう、お父さん」
わたしたち、幸せに生きるよ。わたしは空へ向かってつぶやいた。