だいじょうぶ
病院に付いてもう2時間くらいたつ。
「若菜ちゃん、ちょっと飲み物買ってくるね。何か飲みたいのある?」
「温かいのならなんでもいいよ」
「そう?」
と言ってお姉さんは自動販売機へ向った。
廊下にはわたしだけ。車の中にチャチャを残してきているから、心配になる。
台風はまだ通り過ぎない。雨と風の音がとても激しい。
『若菜』
突然声が聞こえて顔を向けると、わたしは見えたものを疑った。そこにいたのはお父さんだったから。
「お父……さん?」
『ああ、そうだよ。若菜……』
お父さんは少し前に天国へ行っちゃったけど、目の前にいるのはわたしのよく知っているお父さんだ。なにも変わらない。
「お父さん! 会いたかった……お母さんが大変なの! ケガをして!」
わたしはお父さんの服をつかんで、うったえる。
『うん。分かってるよ。だから来たんだ。それに……お星さまにお願いしただろ?』
「え? うん」
『届いたんだ。俺の所に。だから、あのコと一緒に来たんだよ』
「あのコ?」
『ああ。さて、お母さんは足のケガをしたんだね?』
「うん。今手術してる」
『お母さんはだいじょうぶだから。あんしんしな』
「うん!」
そう言うとお父さんは手術室の中へ入っていく。
少しするとお医者さんがでてきた。お姉さんはどこまでいっていたのか、飲み物を持って戻ってきた。
「無事に終わりましたよ」
お医者さんはわたしとお姉さんにそう言った。お医者さんの後ろにお父さんがいる。お母さんはベッドに横になったままでてきた。
「ありがとうございます!」
わたしとお姉さんは一緒に頭を下げる。
「今は麻酔で眠ってますから、まもなく目覚めますよ」
「はい!」
お父さんはお医者さんの後ろで笑っている。お父さんはお母さんのそばにいろと、ジェスチャーしている。
わたしはうなずくとお母さんと一緒に病室へ行った。
お父さんが何でいるのか分からないけど、きっと、まだいるよね? あとで、お礼が言いたい。
1時間後、お母さんは目を覚ました。
「若菜? ごめんね、ドジしちゃって」
「お母さん! だいじょうぶ? 痛い……よね?」
「今は……麻酔が効いてるからだいじょうぶ」
お母さんはわたしに笑顔でピースをした。いつだってお母さんは笑っている。お母さんは強い。
お父さんが天国へいった時も、わたしの前では泣かなかった。でも、わたしの知らない所できっと泣いているんだと思う。
「夢を見たの」
「夢?」
「そう。お父さんがね……一緒にいたのよ。こんな所にいないで、若菜のそばにいて幸せになれって……そばにいられなくてごめんなって……」
お母さんはそう言うと、涙ぐんだ。
「お母さん……」
なんだかわたしも泣きそうになる。