台風がきた
わたしはインターホンの画面を確認する。
見ると近所のお姉さんだった。お姉さんはお仕事をしている大人の女の人だ。
「お姉さん!」
ドアを開けるとお姉さんはわたしたちの食べ物と、犬用グッズを買ってきてくれていた。
「お母さん、まだ帰らないでしょ? 帰ってくるまで一緒にいよう?」
「うん!」
「それにしても、すごい台風ね……」
「うん……」
「これだけの台風だと、お母さん心配ね」
「うん」
「ほら、食べよう?」
わたしはお姉さんの買ってきてくれたお弁当を食べる。チャチャには今日はドッグフードをあげた。
夜ご飯を食べ終えてゆっくりしていると、家の電話が鳴った。お姉さんが電話に出てくれた。
「もしもし……はい……はい……え?!……はい、分かりました。すぐにいきます!」
お姉さんはおばけを見た人みたいに真っ青な顔をしながら、でも落ちついて話してくれた。
「若菜ちゃん、落ち着いてね。お母さんが……ケガして病院へ運ばれたって」
「え?!」
わたしは暗い穴の中へ落ちていくような気持ちになった。
「この台風でしょ? 風にあおられて転んでケガしたみたい。急いで病院へ行こう? わたし、車運転するから」
「うん! ありがとう……あ」
「どうしたの?」
「チャチャ、お留守番できる?」
悲しげな瞳でわたしを見上げる。
「チャチャもいく?」
「キャン」
チャチャは小さく吠えた。
「若菜ちゃん、チャチャもいくよ」
「うん!」
わたしは泣きたい気持ちをこらえながら、チャチャとお姉さんと台風の中、病院へ向った。
✧ ✧ ✧ ✧ ✧
お姉さんの運転で無事病院へ付いたわたしたちは、チャチャを車に残してすぐにお母さんの所へいった。
お姉さんはお医者さんと話をしている。お母さんは今手術中らしい。足を骨折したから手術しないといけないって。
「お姉さん! お母さんはどうなの?」
「若菜ちゃん……」
お姉さんは泣きそうな顔をしている。
「骨折した場所が難しい所みたいで、時間かかるみたい」
わたしは目の前で起きていることを信じたくなかった。
「だいじょうぶ……なの?」
わたしがそう聞くとお姉さんはハッとしたように眼を見開く。
「うん! きっとだいじょうぶ。だって、お母さんやお医者さんは今、がんばっているんだから」
そういってお姉さんはわたしの頭を優しくなでてくれた。
「……うん」
――お父さん! お母さんの手術が無事に終わりますように……! お願い! お父さん! お母さんを助けて!
わたしはお父さんにお願いをした。さっきから病院の廊下の電気が、チカチカと付いたり消えたり点滅している。
――何か気持ち悪い。