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掌編置場

ちょうちんの灯る夜

作者: 須藤鵜鷺

「お祭りでお面をつけるのはね、魔よけのためなんだよ。夜にまぎれた悪ぅい妖怪に連れて行かれないように」

「ふーん」

 今テレビでやってるナントカ戦隊ナントカジャーのお面を頭に引っかけて得意げに話すゆうくんの話を、わたしは(うっとうしいなぁ)と思いながら聞いていた。

 ゆうくんは家が近所の、幼なじみの男の子。わたしたちの家の周りには同い年の男の子がいなくて、だからなのか、ゆうくんはわたしとばかり遊んでる。今日もこうして、家の近くの神社でやってるお祭りを二人で見て回っていた。うちのお母さんは「使っていいのは五百円まで」と言って、わたしがいつも使っているがま口のおさいふ(開けるときに指がいたくなるのが、ちょっといや)にキラキラの五百円玉を入れた。わたしはその五百円玉を使ってしまうのがもったいなくて(だっておつりとして返ってくる百円玉や十円玉はキラキラしてないし、ぜんぜん特別な感じがしないから)まだ何も買ってない。でもとなりのゆうくんは神社につくと真っ先にそのヒーローのお面を買ってた。そしてすごくうれしそうにさっきみたいなことをわたしに話してくる。

 ゆうくんは、子どものくせに物知りで、話が長い。学校で同じクラスの男の子としゃべっていても、みんなゆうくんの話を途中までしか聞かないで、サッカーとか鬼ごっことか遊具遊びに行っちゃう。そんなとき、ゆうくんは少しだけ寂しそうに見える。今はわたしが(いやいやだけど)聞いているから、いつもより元気がある。

「ひなちゃんもお面買ったらいいのに。最強になれるよ」

「ううん、いい」

 お面で最強になれるなんて意味わかんなかったし、それに、わたしはお面ってなんだかちょっと怖くて、とてもわたしの大事な五百円玉を使ってまで買う気になれなかった。

 お祭りには同じクラスの子たちも何人か来ていた。でも別に仲がいい子じゃなかったし、ゆうくんは隣でずっとしゃべってるしで、その子たちに混じりに行ったりはしなかった。

 いつのまにかお店がたくさん並んだ道を抜けて、人の少ない暗い道に出ていた。近くに川が流れているその道には、ちょうちんの赤っぽい光がふわふわ並んで光っていた。

「ゆうくん、こっちにはもうお店ないよ。戻ろうよ」

 わたしはゆうくんが話に夢中になっちゃって、行きたい場所からはなれたことに気づいてないんだって思って、そう言った。でもゆうくんはそれを聞いておどろいたような不思議なような顔をした。

「でも、ひなちゃん何か買いたいわけじゃないんでしょ?もうお店ぜんぶ見ちゃったし」

 わたしはがま口の中にずっとしまわれている五百円玉のことを思った。ゆうくんのお面よりもずっとわたしのことを守ってくれそうな、キラキラした宝物みたいな、今日のためのおこづかい。

「だったらずっとしゃべってようって思って。暗いけどしゃべってたら大丈夫だから!最強なってるから!」

 そんなわけないでしょ、とか、意味わかんないんだけど、とか、ゆうくんに言ってやろうとしたのに、言えなかった。お店が並んだ道の明るすぎる光じゃなくて、ちょうちんの暗い光の中で見えたゆうくんが、すごく楽しそうに笑ってるから。

「しょうがないなぁ」

 わたしは今だけゆうくんのお姉さん役になることにして、またつまんない話を長々としゃべり続けるゆうくんのとなりに並んで歩いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒柳徹子さんもこの話の男の子のようにおしゃべりが大好きだったらしいですね。意外と将来大物になるのかも。(こんなうんちくを垂れる私は全然大物ではないですけど) 最後は良い雰囲気で終わってい…
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