いまからの帰還
1
還ってきた、還ってきたよ。
スポーツのヒーロー、ビジネスのヒーロー、勉強のヒーロー。
義務でしなければいけないことはないんだよ。
いまのきみのようにね。
土とともに呼吸し、鳥とともに謳うんだ。
わづかの仕事を泣き笑い 体で遊びどんどん学べ。
千年は超える木のように地に根付き天に向かいどこまでも伸びる。
みるみる伸びるんだよ。
いまこそ育てよ人類よ。
いまこそ育てよ人間よ。
それがこれからの学問で いま生きることだよ。
2
ワタシは天のかあさんになるんだよ。
まずはかあさんのお手伝い。
雨の日は天の泉から井戸もうるおい のどをうるおす。
ぷるぷる果実にみずみず野菜のお手伝い。
晴れの日はお天道さまから きらめく源 成長の源。
きらきら果実にさんさん野菜のお手伝い。
恵み恵まれおかあさん。
手を合わせ きょうも美味しくいただきます。
生きる力が體にみなぎり満ち溢れ
もっとお手伝い
3
むかし昔のその昔
夏の暑さに枯れるなか
サバンナのような庭に草木がひっそりとあるところでした。
お妃さまは縁側のある窓辺に座り、藁で織りをしていました。
張りで指をさしてしまい、庭の草木に3滴・6滴・9滴と血がにじみみるみる庭の植物が成長しました。
美しく感じたお妃さま植物に向かって呟きました。
「砂漠のような土色と、血の中にある水分のように碧々と、藁のような帽子の子供がほしい」
すると、お妃さまはひとりの小さな彦を授かりました。
土色の肌に、水分の碧々の服を纏い、血が混じった藁でできた赤い帽子を被った子供でした。
その子供を小人彦と名付けられました。
そしてその子が生まれるとお妃さまはなくなりました。
小人彦は、肋骨から3・6・9人と小人を生み永遠に生命が宿っていきました。
小人星と名付けられました。
永遠の時を経てお妃さまと小人彦もまた再開を果たしました。
夜空を見上げて、土色と蒼色と赤色が列なっていたら小人星かもしれません。
4
ひしめきあ漆黒の渦よ
叫べば叫ぶほどうめきが跳ね返る
ワタシはうめきに呑まれ渦に目を廻す
渦の成り行き先はどこへ向かうのか
ものけの殻のように塵となって朽ちていくのだろうか
肋骨がきしむ
差し上げ犯した罪科や災いから逃れようとする
まずは左目を差し上げよう
次に、右目と二度と見たくない漆黒がさらに風となり嵐となる
人身御供 人柱
前も見えず、嵐で足も進まぬ
掟を破り何かを学び、平穏を欲しに欲し、忘れ去ってしまった
5
羊たちよ
びくびくして動けぬ 羊たちよ
羊であることすらも 忘れてしまった羊たちよ
羊飼いを目視せよ
暴君による羊飼いの目に映る虚しさを目視せよ
檻から出ようとするものは強く罰せられ
恐怖でくくりつける
痛み苦しみもがけ
もがき続けろ
お前らに存在理由などいらないのだ
羊であることすら忘れてしまった
6
羊が羊の仕事をしなくなり
地球も当然荒れ果てて
フンもしなければ
雑草もなくなった
枯れ果てた砂漠の中にいるだけだ
循環が止まりかけ
時間がとり
空間が固まった
微動だにしない世界がはじまった
想像するのだ
金属は壊れにくい
微動だにしない金属の世界なのだ
羊として仕事をしなくなれば、心が固まり金属のようになる
人間として仕事をしなければ、心が固まり金属のようになる
心が固まれば、地球が固まり金属になるのだ
狼を恐れ安全な領域を逃げ回る羊たちよ
群れをなす憐れな羊たちよ
おまえは狼にもなれれば、鳥にもなれるのだ
人間は万物の霊長なのだ
どの性質にもなれるのだ
いまからなれるのだ
時間と空間にあまりにも制約されすぎるな
少しの毒を許容すれば、数代目には毒を克服できるのだ
毒が毒でなくなるのだ
いまから少しでも恐怖という毒を食べ続けるのだ
恐怖は毒でないのだから
7
年老いた羊が言った「恐怖を飲むと死んでしまう。私はそれだけの肉体を持ち合わせていないのだ」
なんとも肉体に囚われた手前勝手な羊の戯言だ。
年老いた羊が死んでも、時間と空間に微々たる影響しかないというのに。
朽ちては果て、違う動物の一員になり、また羊の形になる。
何度も違う形をとり、巡り巡って廻っていまを生きていく。
「恐怖を飲み込み死んでしまえばいいのだ」
これほど称賛されることはない。
若者の勇者の声に聞こえるかも知れないが、生きるとし生きけるものの循環であるのだ。
「忘れるな。恐怖を鵜呑みにできないやつは恐怖をリアルに味わう」
恐怖と向き合う視線をもっているからだ。
恐怖と向き合ったやつは、恐怖の理解をしているから恐怖はなくなるのだ。
感情こそいまを生ける大きな指標なのだ
8
羊に群がるハエはこういった。
「恐怖や感情?そんなものすらないではないか」
ハエからしてみれば、恐怖も感情もどうでもいいのだ。
いまを生きる者たちは、恐怖も感情もどうでもいいようだ。
餌にありつけ何も考えず循環させている。
変に利口ぶった奴らが、迷走するのだ。
ぐるぐる廻ってしまった。恐怖も感情の分岐点もどうにでも良くなる。
すべては描かれている通りになるからだ。
いつかのワタシとアナタが一つになるだろう。
雄と雌以上の関係になるのだ。
ハエはベルゼバブになった。
人類はいまなにになったのだ。
9
いまこそ育てよ人類よ
いまこそ育てよ人間よ
ヒーローは、誰かの幻想のヒーローだ。
しかし、いままで視てきたヒーローとはわけが違う。
ヒーローに出会い、母さんにも出会い、小人に出会い、掟破りの人間に出会い、羊飼いに出会い、群がる羊に出会い、老人の羊に出会い、ハエに出会ったのだ。
これからの学問すらなかったのだ。
いまも育った人類よ
いまも育った人間よ
言葉で表せない出会いで人間は溶け込んだのだ。
世にこれを神や仏、宇宙聖人と呼ぶ。
神は死にながら生きているのだ。
10
神?仏?宇宙聖人?
そんなものはすら分からない。
誰が名前をつけたのだろう。
ワタシと思ってだけのワタシなのか。
ワタシの息はワタシなのか。
すべてはワタシであり、すべてがワタシである。
有るようで無いような世界が訪れた。
ただ平穏が永遠に続き流れている。
型にはまらない無償の愛なのだ。
無償の愛というよりも無風の愛なのだ。
無風の愛もおかしい。空であり無であり「◯」でありすべてでありすべてでない。
言葉もいらないのだ。
いまを生ける人類よ。
少しでもいいから「いま」に耳を傾けよ。
人類と神の差が取れるのだ。