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退職届を出したその後に

作者: 秋山そら

 駅のホームに雪がチラチラと降りしきる。曇天な空は俺の今の心情をそのまま表現しているようだ。

深夜の23時に、俺は会社から最寄りの駅のホームにいる。この駅は通勤で毎日利用していた。仕事帰りに売店で夕飯を買い電車に乗り込む。もう15年も繰り返した作業だ。もう立ち寄ることもないだろうと思うとなんだか少し寂しいような気もするが、ホームの売店には中年の小太りのグラサンをかけた駅員なのか売店の店長なのかわからないヤクザ顔のおやじしかいなかったしなぁ。あのおやじ無人レジが近年導入されたのをいいことに俺が煙草を買うときにたまに声をかける時しか裏から出てこないからなぁ。

店に入ると、店員の姿は見えなかった。

「あのおやじ、今日も出てこないのか」

俺は、いつものように売店のオリジナルブランドのサンドイッチとお茶に手を伸ばした。いつも買うお茶におまけのクマのストラップがついている。

「これ、先輩がお気に入りのやつだったよなぁ」ふと会社の思い出が頭によぎる。

先輩は、いつも口が悪くて、急に怒りだしては俺に対してミスが多い、作業が遅いなどとヒステリックに叫んだ。普段は優しいし仕事もできるって評判だったよなぁ。

お茶の隣には人気の乳酸菌飲料ジュースが並んでいた。

「あぁ、これは甘党の後輩ちゃんが好きなやつだったよなぁ、彼女は、いつも何考えてるかわからないって

言われていたけど気が利く子だったよなぁ」

こうしてみると、いつも目にしている商品から今まで世話になった人の顔が浮かんでくる。

「15年も会社にいるとなんか腐ってくような、感覚が鈍くなっていくような気がしたから..。

なんか一回ゲームじゃないけどリセットしたくなったんだよなぁ。別にそんなに悪いとこじゃなかったけど」

「俺この15年で何をやってましたかって聞かれたら、答えられないんだよなぁ。ならいっそ辞めてみるかってな」

独り言をつぶやきながら俺はいつも通りに無人レジで会計を済ませた。

商品を取り出口に向かう途中にある新聞が目に留まった。1999年12月31日

「ノストラダムスの大予言っ?そうか今日は大晦日か。あと1分で21世紀か、ちょうどいいなぁ」

コンビニの出口を出るとちょうど時計は深夜12時を指していた。

「それにしても、大晦日なのに人がいないのはなんでだろうなぁ」

ホームにたたずみ俺はもうすぐ来るであろう電車を待っていた。




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