雪が降る、今日の終わり
今日は卒業式、僕の………僕たちの中学生活でたった一度だけの。
「はぁ〜 今日で卒業かぁ 長かったような短かったような……。」着なれた制服を着て、玄関から鞄を持って出て行く。 僕は緋色 弓
寒野坂中学校の3年だ。今日でこの学校に通うのも最後かと思うと寂しくなるな。
でも僕にはこの学校を去る前にやることがある。彼女への告白、ずっと言えなかった。今日こそは言わないといけない。そんなことを学校までの道のりの中で思っていた。 そして見慣れた門を通って、見慣れた校舎に入り、毎日のように彼女を見ていた見慣れた教室に入る。自分の席に座って彼女の席を見る。それが当たり前のように。この席になってからずっと見ていた、あの席に今日も彼女はいた。ずっと3年間も見ていた彼女……いや……仲浜 雪乃さんの長く黒い2本の三編みを猫の尻尾のように揺らして。僕の視線には気付かずに毎日のように読んでいる本を今日も熱心に読んでる。
「これを見れるのも今日が最後なんだ…………。」言葉に出して呟くと急に切なくなる。僕が今日、告白しなければもう彼女には会えないかもしれない。だから勇気を出さなきゃいけない。僕は自分の席からゆっくり……ゆっくりと彼女の席へと近づいていく。
「あのさ………仲浜さん 今日 ちょっと用事あるんだけど 卒業式の後 北校舎の屋上に来てくんない?」彼女を見ながらゆっくりとみんなには聞こえないように喋りかける。
「えっ!?う うん………わかった 卒業式の後だね。」びっくりしたような顔で僕の顔を見て高く透き通った声で答える。
「うん そ それじゃ 後で。彼女との会話を終えると少し足早に自分の席に戻る。僕 言ったんだ。机に突っ伏しながら 考えがめぐる いろんな思いでも一緒に。
彼女に最初に会ったのは、1年生のときにこのクラスに入った時 一人で誰と喋ることもなく本を読んで、読んだ本はその本の思い出に浸るように……大切な人でも抱きしめるかのように優しく一度抱きしめる。そんな姿を見たとき今まで会った誰とも違う不思議な感じ、なんて説明していいかも分からない。ただこれが恋っていうのかなって実感した。それから毎日のように本を読む彼女を見ていた。そしてたまに喋りかけて本の事を聞くと目をキラキラと輝かせながら力説してくれる彼女を見て少し面白いなとも思った。
そんなことを考えているうちに担任が教室の中に入ってきた。もう3年間も一緒の担任の先生。いつもと同じ聞きなれた声が響く。
そして体育館に移動、練習したとおりに席に座る。後ろには保護者や1、2年の後輩たちの姿、前にはひな壇や今までお世話になった先生たち。見回しているうちにスピーカーから音楽が流れて卒業式が始まる。名前を呼ばれて前に出て卒業証書を受け取っていくクラスメイトたち。僕の名前が呼ばれてみんなとおんなじようにゆっくりと卒業証書を受け取る。
席に戻ると、もう涙を流すクラスメイトもいた。最後の一人の名が呼ばれ、戻ってくると3年全員でひな壇へ、そして何回も練習した言葉を言い、歌を歌う。練習していたときはなんとも思わなかったのに今になると思い出が蘇る。辛かったことや嬉しかったこと悲しかったこと。この中学校で作ったたくさんの思い出が、友達の顔が先生の顔が親の顔がそして3年間ずっと好きだった彼女の顔が。気付くと涙が頬を伝っていた。我慢なんか出来ない、とどめることなく涙を流す。もう止まらない、今までの思い出を作ったこの学校から離れるのが辛い……悲しい、そんな気持ちが止まらない。歌い終わった後も僕たちは泣いていた、みんなが泣き止むまでの間、先生は何も言わずただクラスメイトみんなを優しく抱きしめてくれた。
数十分後、みんなが泣き止むと、このクラスの最後のHRが始まった。
みんなの今までの良かったことろや悪かったところ、一人ずつ思いをこめてゆっくりと話してくれる。そして最後みんなで写真を1枚、もうみんな泣いてなんかいない笑顔で楽しそうに無理にでも笑ってみせた。だってみんなで写る最後の写真ぐらい泣き顔じゃイヤだから。
そして先生からクラスメイト全員に一言…………今日までありがとう………って。
その一言でみんな、また泣きそうになってしまった。それを必死にこらえて、
「………こちらこそ………ありがとうございました。」
大きな声で思いを込めて今までの先生との思い出をこの学校での思い出を込めて。
僕はみんなが帰って行くのを見送りながら、彼女が教室から出て行くのを見ながら 覚悟を決めていた。
そして教室から屋上へと足を進めていく。扉を開けて中に入る。その動作だけで心臓が震える
そして冬のたった一度だけの今日、約束した北校舎の屋上で、雪がぱらつく中で、ちゃんと彼女は待っていてくれた。ちゃんと勇気出して言わなきゃいけない。
「えっと…緋色君……それで……話って何かな?」寒さなのか顔を少し赤く染めて 彼女は尋ねる。僕は覚悟を決めて喋り始める
「明日こそは明日こそわって ずっと言わずに来たけど 最後だからさ。今日は絶対に言おうって決めてたんだ。」何を言われるのかがよくわかっていないような顔をした彼女を見つめながら喋る
「……………僕さ……………ずっと前から君のことが………」