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叡智のレガリア  作者: 日三十 皐月
第1章 「ユーリシア国」
7/20

四話







ーー謁見が終わり、レイリアは兵士たちを引き連れて櫓へと移動していた。




「チカッタラッタが捕まっていたとは…それも酷い待遇を受けておるようだ。前王はやり切れない思いでしょうな」



後ろをついて歩いていた執事の言葉に、ロマが頷く。



「解放は難しいぞ。これから先、メディニアがどう動くつもりなのかは知らないが…鉱石の存在は間違いなく知っているはず。呪具の封印も解かれているようだし、面倒なことになりそうだ」


「間違いなく、鉱石の力がメディニア復活を確定付けたのであろうな。呪具の封印が解かれたことについても…他に帝国へ手を貸している種族が自ずと見えてくる」



城壁付近の大櫓に辿り着いて、階段を上がる。

レイリアの登場に、上で控えていた兵士たちが慌てて敬礼をした。



「これは、レイリア様。使者との謁見は如何でしたか」


「ああ、滞りなく終わった」


「突然の、しかも帝国からの使者と聞いて驚きましたが…それは何より」


「エマリオの船は西方に向かったか」


「はい、メディニア側の航路を避けて向かわれたようです」


「そうか」


「…しかしレイリア様、何故櫓へ。地下へ移動された方が宜しいのでは…」



戸惑う兵士たちの質問に、レイリアは至極当然のように答える。



「問題ない。状況把握の為、これから翌朝まで此処で過ごすつもりだ」



ーーこれに一番驚いたのは執事だった。

双眼鏡を構え始めたレイリアの横で、面白いように取り乱す。



「な…何を仰るんです、坊ちゃん。まさかこのような場所で一晩過ごすおつもりですか」


「エマリオの使いが来るまでは此処で過ごすつもりだが」


「そんないつになるやら分からない報告を此処で待つなど、なりませんぞ。それは我らが取り次ぎます故、地下へとは言いませぬ、どうか夕刻前には城へ戻ってお待ちくだされ」


「…ジャック。おれは、これから先数時間の状況を把握するために此処へ来たわけじゃない」


「勿論分かっておるつもりですとも、しかしですな坊ちゃん…」



あわあわと説得する執事を、ロマはやんわりと制した。



「ジャック。俺が離れず傍にいる。レイリアのやりたいようにやらせてやろうぜ」


「この馬鹿者が、驕りおって!いくらお前が控えていようとも、暗闇の櫓の上で事が起これば助かるものも助からぬわ!」


「ーーなぁ。何を言ったって、俺たちにはレイリアを諭すことしか出来ないんだ。レイリア自身が避難しないことを決意している以上、従う他ないだろ」


「…!」



その言葉に、ぐっと押し黙る執事。

二人のやり取りを見ていたレイリアに、ロマが厳しい口調で続けた。



「…レイリア。国王の一存で人々は動く。お前が想像している以上に、お前という命を守ろうと動くんだ」


「……」


「分かってると思うが、命を投げ打ってまで命を守ろうとする行為は、決して易いものじゃない。お前の一存で多くの命が動くということを、良く胸に留めて決断しろよ。

決断したからには、お前が櫓で過ごすことで失われる命があったとしても、後悔するな」



レイリアの胸板に、拳が力強く押し付けられる。



「そしてそこに、お前が誰かを守って死ぬという選択肢はない。国王を守ることが俺たちの存在意義であり、お前無くしてユーリシアという国が存在し得ないからだ。

俺たちはお前に従い、命を賭して守る。だから、国王になるという責任感の元に、命を無鉄砲に投げ打ってもらっちゃ困るぞ」



そのまま一度優しく押されて、レイリアは少しよろめいた。

手に持った双眼鏡を、しばらく見つめる。


それから、ロマの目を真っ直ぐに捉えて言い放った。



「ーー誰にも死んでほしくはない。だが、決めたことは譲れない」


「……」


「この決断で誰一人失われる命など無いよう、最善を尽くす。従ってほしい」



ーー兵士たちが即座に敬礼して、ロマもゆっくりと敬礼をする。

執事は呆れたように大袈裟に首を振ると、額に手を当てて項垂れた。



「……ウィリアム王は生前、国王のなさるべきでない決断を数多されて参りましたが……坊ちゃんはその勇猛果敢さを、十二分に受け継いでおられる。爺としては、あまり嬉しいことではありませんぞ。国王というのは本来、いの一番に安全な場所へ避難すべきお立場なのですから」


「…ジャック」


「しかし、ロマの言う通り…我々は坊ちゃんに助言することしか叶いませぬ。坊ちゃんが決めてしまったのなら、それに従う他ありませんな」


「すまない」


「…いいですか。本来は御自分の命を第一に考えて欲しいところなのですぞ。次からは是非とも、そのようにして頂きたい。そして、気が変わった時には一刻も早く城へお戻りくだされ」


「ああ、善処しよう」



レイリアはそう言って微笑んだ後、兵士たちに向かって告げた。



「他の兵士たちや国民の負担にはなりたくない。此処へは三人ほどいてもらうだけでいい。後の兵士は城へ護衛に戻り、現状の報告をしてくれ」


「は…しかし、宜しいのですか。兵長がついておられるとはいえ、三人では少々心許ないのでは…」


「此処に固まるべきじゃない。何かあった時、大人数では目立ってしまう」



どうするべきかとロマへ視線を送る兵士達。

少し考えた後、ロマは口を開いた。



「分かった。だが、下にもう一人つけさせてくれ。櫓の上には三人欲しい」


その提案に、レイリアが一つ頷く。


「では、そのように」





「良いですか坊ちゃん、爺は戻りますが……顔は大きく出さぬこと、そして体は冷やさぬこと。ローブを脱いではなりませんぞ」


「ジャック…」



国民達へのフォローに回る為城に戻ることとなった執事が、甲斐甲斐しくレイリアの世話を焼く。

レイリアは少し鬱陶しそうに眉を寄せて、ローブの裾を正す執事から一歩離れた。



「何度も言ってるが、もう17だ。7つの子供じゃないんだぞ」


「も、申し訳ありません坊ちゃん。分かってはいるのですが、つい…」


「諦めろよ、レイリア。即位式が終わってもこの悪癖が治るとは思えねぇ。坊ちゃん呼びも死ぬまで続くだろ」


「なにを…!お前に言われたくはないわ!いい加減に坊ちゃんへの態度を改めぬか!!」



ムキになって言い返す執事と、それに対して肩を竦めて笑うロマ。

そんな二人に、レイリアは小さく首を振った。



「何でもいいが、必要以上に子供扱いされては皆に示しがつかない。ただでさえ即位式が早まったんだ、今からでも気をつけてもらわないと困るぞ」


「は…言葉もありませぬ…」



頭を深く垂れた執事。

それからロマに「何に換えてもお守りするよう」強く言い残した後、兵士達と共に城へと戻って行った。



残った兵士とロマに囲まれて、レイリアは再び双眼鏡を覗く。



「ーー確かに、うっすらとだが国が確認出来るな。高い城壁だ。あれをたった数日で作り上げたなんて…とても信じられない」



レイリアの言葉に反応したのは、見張りをしていた兵士だった。



「レイリア様…。信じて頂けないかもしれませんが、メディニアは鐘が鳴る1時間前は確実に荒地の状態だったのです」


「……」


「ですから、数日ではなく恐らく…」


「鐘が鳴る直前に、メディニアは再建したと」



信じがたい報告に熟考するレイリアの様子を伺いながら、兵士は自信無さげに続けた。



「鐘が鳴る10分前、見張りを担当していた兵士が小さな地響きのような音を聞いています。それからしばらくメディニア付近一帯が砂塵に見舞われたと報告を受けていました」


「砂塵…」


「しかし、荒れ果てたメディニアの地で砂塵が発生するのは稀なことではなく…加えてこちらの大地が揺れる様子もないので、兵長への報告はもう暫く様子を伺ってから行うという判断を取りました」


「…その10分後に、鐘が鳴ったわけか」


「はい…申し訳ありません。

鐘が鳴った後も、微かにではありますが、地響きのような音を何度か聞いています。砂塵については、メディニア城壁内で発生しているのか確認出来ませんでした」



小さな地響きのような音と、大きな砂塵。

高くそびえる城壁を双眼鏡越しに見つめ、レイリアは唸った。



「…昔見た本で、大地の力を宿した種族の話を読んだことがある。彼らが一度手をかざしただけで、大地は従うように隆起し、また意のままに戻ってゆく。絵を描くように細かな模様を刻むことも、芸術品のような逸品を作り出すことも自由自在だったと」


「ああ…確か、“ チーマ族 ”だったか?

大地の守護神だか何だか言われてて、俺も聞いたことくらいはあるが……とっくの昔に絶滅したもんだと思ってたぞ」


「エマリオは恐らく、その種族の生き残りがメディニアに加担しているのではないかと考えているんだろう。

その種族なら一日と経たず再建が可能だ、と言っていたが、チーマ族が関わっていたとするとそれも不思議ではない」



櫓から確認することは難しいが、もしその種族が関わっていたとすると、恐らく城壁は大地から直接迫り上がるようにして聳え立っているのだろう。

中に城があるのだとすれば、それも例外ではない。



「チーマ族ねぇ…その仮説が本当なら、メディニアは大地の力を手に入れたわけだ」



ロマが小さく言って、レイリアは頷いた。



「その上、メディニアには既にかつての〈帝王の護衛〉が…つまり南の火、北の氷、東の水が、集結しているとコールバンは言っていた。平和を望む種族や国々は、帝国に従わざるを得ないだろう」


「例え理不尽を強いられたとしても、国ごと潰されるよりはマシなわけだな」


「恐怖での支配によって、また同じような一途を辿るのか……それとも、メディニアが西方との関わりを持とうとする姿勢で、何か少しでもこの先の未来が良い方向に向かうのか…」


「〈予言書〉が消えた以上、未来のことは誰にも分からねぇ。周りがどう動くのか見極めながら慎重に決めていくしかないな」






ーーそれからしばらくすると、メディニアへと向かう幾つかの乗り物や人影が見受けられ始めた。



「西方以外の各方面から来てんな……魔獣と戦闘をしてる奴らもいるぞ」


「メディニアに入ろうと思ったら、しばらく戦闘は避けられないだろう。此方も十日後出向く際は、行き方を考えた方がいい」



時間が経つにつれメディニアを訪れる人々は増えていき、高い城壁の中へと吸い込まれるようにして入っていく。

やがて火や水、氷の魔法が魔獣達へと飛び交う様子が伺えるようになった。



「いや、あの様子じゃ十日後には駆逐されてるかもしれねぇ。心配なさそうだぞ」


「そうみたいだな…しかし、彼ら〈帝王の護衛〉を含め、あれだけの来訪者が入るほどの城が既に完成しているなんて。未だに信じられない」


「コールバンの話じゃ〈帝王の護衛〉は城壁完成前から集結していたようだし、一体どこに身を隠してたんだかな」




ーーーそれから、西方が動く気配のないまま、櫓で過ごしていたレイリア達は夜を迎えた。



「予想通り、悲劇の再来は今のところ避けられているようだが……今後西方の種族がいつどんな風に動き出すのか、まるで見当がつかない。エマリオの方はどうだっただろうか」



穏やかな気候を保つ中央地も、夜明けを迎えるまでは肌寒い時間が続く。

兵士から差し出された毛布を受け取りながらレイリアが呟くように言うと、櫓の塀に頬杖をついていたロマは、西方の方角を見つめてため息をついた。



「さぁ、良い報せが来るといいけどな。

エマリオがどこと内密に関わって、今回どこの様子を見に行ってるのかは知らねぇが、あいつの報告を待つ以外に西方の様子を探る手立てがないってのが、また何とも」


「………」



未だにちらほらと見受けられる、月明かりとランプを頼りに夜道を行く来訪者達。

希望を求めてメディニアを訪国しているのかーーそれとも、従わざるを滅してきたメディニアを恐れ、敵意がないことを示すために訪国しているのか。

危険を侵してまでメディニアを訪れる彼らを、レイリアは苦い表情で見つめる。



「……多くの国が、メディニアに従うつもりで動いている。帝国復活から一日と経たない内にこんな状況になるとは、恐ろしいな」


「あれだけの同盟国と一緒に西方との全面戦争、なんてことになったら、今度こそユーリシアも無事じゃ済まねぇぞ」



西方側からの風が吹き、潮の香りが鼻をくすぐった。

物憂げな表情を浮かべたレイリアは、呟くように小さな声で聞いた。



「ーーロマ。エマリオはこれから先、どう動くつもりだと思う」


「……」


「帝国が復活した以上、エマリオはこの先帝国の許可無しに貿易が出来なくなる。それと同時に、西方とも父上が存命の頃から関わりがある。そして、我々ユーリシアとも深い親交がある。

その全てのバランスを取って関わり合っていくことは難しいはずだ」


「…そうだな」


「この国も、完全な再建を果たしたとは言えない。おれが即位すれば否応にも新体制を取ることになる。これまで通りじゃない。その不安定な中、帝国の一存で全てが決まり、西方の動き方によっては再び国全体が危ぶまれる。

現状帝国に従う他ないユーリシアを、エマリオは……」



そこまで言って、口を噤んでしまったレイリア。

その様子に、ロマは小さく首を振ってみせた。



「暗闇は人を滅入らせるな。エマリオを信じたいって言ってた口はこれか?」


「…別に、疑っているわけじゃない。ただ…」



頬を軽くつねられたレイリアが、不満げに眉間の皺を寄せる。

ロマは一つ大きく笑うと、優しい顔で続けた。



「俺はあくまで中立だし、エマリオを信用してるわけじゃねぇが、エマリオのユーリシアへの…ウィリアム王への忠誠は、本物だと思ってる」


「……?」


「エマリオはな、ウィリアム王の描いた【理想の未来】を生きたいんだ。だから、エマリオがユーリシアから離れていくことはない。心配すんな」



そう話すロマの顔はどこか朗らかで、レイリアは思わず口を噤む。

ーー父上の描いた、理想の未来…


深く聞こうか悩んでいると、一つ上の階で見張りをしていた兵士が声をあげた。



「西方地の方角より、ゾンガーの遣いを確認しました!」



双眼鏡を覗いた先には、確かに足に手紙をつけた鷹が櫓へ飛んできている。

その姿を確認して了解の合図を出したロマは、鷹の止まり木に向かいながら口を開いた。



「ーー何故エマリオが、ウィリアム王の描く未来を渇望してるのか。その理由を昔、お前の母上が教えてくれたんだ」


「母上が?」


「ああ。内緒ですよ、ってな。誰に話すでもない内容だったから、王妃様が他の誰にも他言してなかったなら、第三者で知ってるのは俺くらいだろうなぁ」



昔に想いを馳せるように話す姿はどこか嬉しそうで、レイリアの頬にも笑みが浮かぶ。



「その話自体はつまらないもんだったし、奴らしい話じゃなかったけどな。でも、何故エマリオがウィリアム王の描いた【理想の未来】を目指し尽力するのかは良く分かった。

エマリオが話さなかったなら、いつか話してやるよ。内緒でな」


「………」



大きな翼を羽ばたかせ、鷹が止まり木に到着した。

ロマが褒美の干し肉をやり、足の手紙を回収して読み上げる。



「ーー帝国が仕掛けない限り、西方に戦意無し。明朝には警戒態勢を解き、帝国の動きに注意せよ。そちらの報告を待つ。だそうだ」



近づいたレイリアに、褒めてくれと頭を少し下げる鷹。



「…ご苦労だった」



撫でられて満足そうに鳴いた鷹に、ロマはもう一つ干し肉を与えながら、レイリアの方を向き直った。



「さぁ、3日後には即位式が待ってる。悩むのはいいことだが、気持ちはしっかりな」


「…ああ」





エマリオへの返答を手紙に書き上げ、鷹の足に括り付ける。

出発を促す指笛を鳴らすと、鷹は大きな翼をその場で二、三度羽ばたかせた後、大空へと飛び立って行った。



「ーーロマ」


「ん?」



その姿をしばらく見届けた後、レイリアは城へ戻る準備をするロマの後ろ姿に声をかける。



「7つの時に悲劇から生き延びた後……長い間、ほとんどの時間を地下で過ごした。外の世界で何が起きているのかを知る術は、エマリオの話や、お前たちの話を聞いたりする以外になく…

加えて、他の種族や国々の知識は、書物で得たものが多い」


「……」


「にも関わらず、3日後には王位を継いで、一から他国他種族と接していく。そんなおれに国を任せるのが、どれだけ無謀で恐ろしいことかと…不安に思う国民もいるはず。

そしてこの先は、父上のような国王になることを、強く渇望されるんだろう」



振り向いたロマは、レイリアをじっと見つめた。



「だが、おれはーー父上になりたいわけじゃない」


「……」


「その足跡を辿るだけでは、駄目だ。おれは父上と同じ人間ではないから。自分で考えて、ユーリシアの為に進み、国王にふさわしい人間になりたい」



その視線を真摯に見つめ返したレイリア。



「そうして進んだ先に、父上の意思や、エマリオの望む未来があればいい。おれはそう思ってる」



「……」


「…間違って、いるだろうか」



伺うように聞かれて、しばらく黙り込んだ後ーーーロマは吹き出して大笑いした。

何事かと二人の様子を見に来た兵士たちと、目の前のレイリアが呆然としてロマを見つめる。



「何を真剣な顔して言うかと思ったら……あー、笑った」


「……笑われるようなことは、何一つ言っていないつもりだったんだが」


「悪かったよ。しかし、お前は本当に真面目だな」



兵士たちに軽く手を挙げ、各々作業に戻るよう軽く指示すると、ロマも同じく作業に戻りながら続けた。



「間違ってることなんてないさ、レイリア。お前が決めたことが全てだ。何度も言ってるが、思うようにやればいい」


「ロマ…」


「そして迷った時は、また今みたいに俺やジジイに聞けばいい。確かに俺や国民は、お前にウィリアム王のような優しい王様になることを望んじゃいるが、だからって一から十まで倣ってほしいわけじゃねぇ」



城へ戻る準備を終えて立ち上がったロマは、レイリアに優しく笑いかける。



「進みたいように進め。俺もついていくよ」


「…ありがとう」







*   *   *   *   *






ーーそれから、櫓を降り、暗闇に沈んだ街中を歩いた後。

レイリア達は僅かな月明かりと松明を頼りに、城へと戻った。


交代でレイリアの部屋の前を見張るため、ロマや兵士たちが廊下で立ち止まる。



「何かあったら大声あげるか、無理なら鈴を鳴らせよ」



レイリアは礼を言い、自室へと入って扉を閉めた。


そしてそのまま棚に向かって歩いていくと、倒れたまま置かれた写真立てをゆっくりと起こした。苦い表情をしたレイリアの瞳に映るのは、父親の傍に立つ自分と、母親に抱かれた妹。


綺麗に額に飾られたその写真は、いつだってレイリアに、まだ両親が生きているのではないかと言う希望を抱かせる。



「………」



そしてレイリアは、もう一度写真立てを静かに倒すとーー

3日後の即位式を思い、静かに深呼吸した。















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