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叡智のレガリア  作者: 日三十 皐月
第1章 「ユーリシア国」
11/20

七話 ー前編ー








ーーー即位式、パレードと重要催事が済まされると、その後は連日祝祭が行われる。


賑々しさを益々掻き立てていくように伝統楽器の音色がそこ彼処へ駆け巡り、国中が新王の誕生に歓喜する中で。

レイリアは祝祭の主役でありながら、王としての公務も忙しなく、そして着々とこなしつつあった。



ユーリシア国の位置する中央地は穏やかな気候に恵まれている為、農作物や畜産の成長を妨げる要因が少なく、さらに近郊の海域では安定した漁業の成果も得られる。


十年前の悲劇によりそれら全ての産業は長い間痛手を負っていたのだが、ここ数年でようやく交易を行なっていた頃と同等の収穫量が臨めるようになった。


土壌が良い為に上質な土が採取できる他、絹や綿なども手に入りやすく、ユーリシアは兼ねてから工芸品の売れ行きが良い。

これからはその辺りを再度着手していくことになるだろう。


国内各地方の貴族とも改めて交流を図り、主にこれから先今より数を増やしていくであろう国外との交易について話し合っていく。




そうして公務をこなしていく内、連日の祝祭は盛況のままに幕を閉じーーー

即位から僅か七日、王として初めての外交となる〈帝国復活祭〉の日を迎えた。







*    *    *    *    *






本来であれば、帝国メディニアへと向かう為用意された外交用の馬車に乗り、護衛の兵士を従えての旅路になるはずだったのだがーーーしかし。



「陛下!ご報告申し上げます!たった今〈メディニアの民〉が…!」



突然訪れたメディニア国の民によって、城内は騒然。


兵士が慌てて玉座の間に通そうとするも、彼らは国壁の門外から一歩も動こうとせず。

彼らの訪国の目的も分からないまま、加えて出立の時間より早かった為にレイリアは慌てて身なりを正し、外交用の馬車と兵士を引き連れて門へ向かうこととなった。




「ーーレイリア王。訪国の報せもせずに申し訳ありません」



豪華絢爛な馬車を携えて待っていたのは、6人ほど。馬を引き連れる2人以外は鎧も無く、メディニアの伝統衣装を身に纏うだけの軽装だった。

門へ到着したレイリアに彼らは悪びれもせず形だけの謝罪をしたが、たった数ミリほども頭を垂れることはなかった。



「…復活祭を目前に、我が国へこのように大勢で訪国されるとは。何かあったのですか」



ーーレイリアが王であっても、相手が一般国民であっても。彼らが帝国メディニアの民である限り、不敬は許されない。

不審な気持ちを抱きながら恭しく聞くと、彼らはあっさりと告げた。



「此度の復活祭において、帝王セレーナから『〈帝王の護衛〉を直々に護衛をするよう』命を賜りましたので、お迎えに上がった次第です」


「……それは……」


「はい。この馬車に乗って頂ければ、我々が安全に復活祭へとお連れ致します」



相手方も口調は丁寧だが、それだけだ。

彼らはまるで決められていた台詞を話すかのように淡々と言葉を発していく。



「国王不在時は、我々の中から二人が残り護衛することで国の安全を保障致しますので、ご心配なく。心置きなく復活祭をお楽しみ頂けます」


「尚、大それた護衛はお控え頂きますよう。武力が集まれば諍いの種となります故、少数での訪国をお約束ください」


「帝王セレーナからの命です。背くことは許されません」


「もし従わないと言うのなら、今後国としての重要な是非を問われることになりますが、それでも良いのなら我々は引き下がりましょう」


「ですがその場合ーーユーリシア国王は、帝王セレーナのご意向に納得がいかなかったようだと。そのように報告させて頂きます」



はっきりとした脅しがつらつらと並べ立てられ、反論の余地もなく話が進められていく。

ロマが割って入ろうとした気配を察知して制し、レイリアはやむなく了承の返事をした。



「ーーこちらは招かれた身。それが条件ならば、そのように」


「賢明なご判断です、レイリア王。帝王セレーナも、聡明で若き同志を得られたことを心からお喜びになるでしょう」



是の返答に対して抑揚なく言葉を連ねると、彼らはレイリアを迎え入れるべく、豪華絢爛な馬車の扉を開く。



「では、出立の用意がお済みになりましたら馬車へお乗りください」






*     *     *     *      *






「メディニアの民をこちらへ2人残し、少数護衛での訪国強制か…」


「企みがあるとしか思えませぬ」


「だが昨日櫓で見た限り、多くの国がそれに従ってるんだろうな」



馬車を待たせ、急いで出立の用意をするレイリアに、ジャックとロマが困惑した様子で口を開く。

レイリアはちらりと馬車の方を一瞥した後、二人に向かって静かに首を振った。



「ユーリシアはメディニアに唯一進言を許された国だったと聞いているが、現状その関係性ではない。この先且つての〈帝王の護衛〉のような関係を帝国が求めるなら、今従わないことであらゆる可能性を断つことは考え得る限り悪手だろう」


「それは…しかし…他国で何かあった時、少ない護衛で陛下を守り切れるかどうか…」


「気持ちは分かるが、今のユーリシアに従わないという選択肢はない。そしてロマ、お前は国へ残って欲しい」


「な…?!何言ってんだ!」


「国にはお前が必要だ。何かあった時、兵士長であるお前が皆を守らなくては」


「いいや、兵士長としてお前の護衛につく。譲らないぞ俺は」


「国王命令だ」



強く言われて、ロマがぐっと推し黙る。

理解しているが、納得がいかない。しかし、それ以外の選択肢を選ぶことは許されない。

その場にいた全員が、苦虫を潰したような顔をしてもどかしさに耐えていた。



ーーーそして、帝国へ献上する品を手に、少数の護衛を引き連れてレイリアが馬車へ乗り込んでいく。

国の門には多くの国民が集まり、心配そうにレイリアを見つめる姿があった。



「では、参ります」



合図を送られた馬が、歩みを進めた。


心配そうなロマたちを置いて、馬車が遠ざかっていく。

それを窓から見つめていると、国はあっという間に遠ざかってしまった。



馬車の中は恐ろしいほど静かで、彼らはレイリアのことなど毛ほども興味がない様子だった。

まるで、仕方なく物でも運んでいるかのような。


一言も発することなく、馬車は進んでいく。

時折遭遇する魔物との戦闘を淡々とこなしていきながら、彼らはただじっと座るレイリアを運んでいく。


そして、時折休憩を挟みながら、数時間後。








「到着致しました」





ようやく辿り着いた高くそびえる城壁の側で、馬車から降ろされた。

隣国とはいえあっけないほど簡単に着いてしまったと感慨を覚える間もなく、メディニアの民は足早に行動して口を開く。



「ようこそ、神の国メディニアへ」


「献上品をお預かりいたします」



たったそれだけ告げると、献上品を受け取り、彼らは案内役へレイリアを誘導してさっさと城へと戻って行った。

役目を引き渡された案内役もまた、何を言うわけでもなく、会釈をするわけでもなく、ただ無表情でレイリアたちを先導して歩き始める。



ーー分かってはいたが、嘘でも歓迎しているという態度を取りたくないらしい



帝王セレーナの命であれば喜んで従うが、他国の王族如きを迎えに行く為馬車に何時間も揺らされたり、城へ案内させられているというのが気に入らないのだろう。

仕方なく、という思いが全身から溢れ出している。


どこか不服そうな先導を受けながら、レイリアはメディニア国内を観察することにした。



ーーー此処が、メディニア…

エマリオの仮説通り、城壁や城は地面から直接迫り上がるようにして形造られている

兵士が聞いた地響きの原因は、恐らくこれだろう


城へ入ると、調度品などで飾り付けられたやりすぎなほどの豪華な内装が出迎える。

それどころか、チカッタラッタの民族衣装を着た子供たちが今まさに次々と飾り付けているところだった。


レイリアが城へ着いてからも、耐えず馬車が到着し、王族と思われる者たちが城の中へと案内されている。

元々の調度品に加え、増えていく献上品も見栄えがするようにと飾らせているのかもしれない。



ーーしかし、悲劇で生き残りが確認できないほどの被害を受けていたと聞いていた割には……何百人と生き残っていたように見えるが



各国への迎え、案内役に割いている人数や、城内に残っているであろう人数を考えると、とても危機的な状況に瀕していた国だとは思えなかった。



「レイリア王は、かつての〈帝王の護衛〉として招集を受けておられますので、他国の方々とは別の場所へのご案内となります」



立ち止まることなく淡々と言われた通り、レイリアは他国の参加者が入っていく部屋とは別の部屋へと案内された。

そうして脇の大階段を登ってすぐに現れた、趣味が悪いほどの絢爛な扉の前に立たされる。



「〈帝王の護衛〉、他4国の代表が既に控えておられます。復活祭が開始されるまで、しばらく此処にてお待ちください」



ノックの後、扉がゆっくりと開いていった。

ネクタイを正して、部屋に入る。



「ユーリシア国国王、レイリア王が到着されました」



案内役はそう報告するなり、くるりと踵を返して部屋を出て行く。

何の躊躇もなく扉が閉められ、僅かな静寂が部屋を包み込んだ。



ーー案内役としての責務は果たしたと言わんばかりだったが…



とりあえず、黙っているわけにはいかない。

そう思ったレイリアが咳払いをして、改めて自己紹介をと口を開いた時。



「初めまして、レイリア王」



ーーーカツカツとブーツの音を響かせながら、赤い髪をした女性が先に近づいてレイリアへと声をかけた。



「私は南方地ラーニャターグ国の次期女王候補、ルタと申します。風の噂で、十年前の悲劇によってユーリシア王家は深い痛手を負ったと聞いておりましたので…正直驚いています。僭越ながら、お会い出来て大変光栄です」



レイリアに恭しく頭を下げた、ルタと名乗る女性。

すると、次いでその後ろから現れた翡翠色の髪をした細目の青年が、にっこりと笑って頭を下げた。



「お初にお目にかかります、レイリア王。私は東方地アルファリオ国の第3王子、シンクと申します」



シンクと名乗った青年は自己紹介を終えるなり、テーブルの側にいた青年の方へレイリアの視線を誘導する。



「そして、異例ではありますが今回は東方地から二国が〈帝王の護衛〉の任を受けておりまして…あそこにおられまするは、東方地ナショナリー国の国王、ウォン国王であらせられます。

代わって挨拶をするよう指示を受けておりますので、私から…」



ウォンと紹介された青年は、目を伏せたまま微動だにしない。

シンクより少し若いように見える。



ーーナショナリーというと、前帝国時代は治癒魔法を使える種族として帝王から重宝されていたと聞いているが…

今回の復活に際して、〈帝王の護衛〉になったのか



とりあえず深くは聞かずに了承して頷く。

すると、今度は紅茶を啜っていた桃色の髪をした少女が近づいてきて優しく微笑んだ。



「初めまして、北方地ぺパロット国の次期女王候補、フィリスよ。よろしく」



「こら、フィリス!外交の場で…!立場を弁えなさい!」


「だって、そもそも私より年下でしょ?」



眉間にシワを寄せて声を荒げたルタに、フィリスは不満げに言葉を返す。

レイリアは小さく笑った後、改めて口を開いた。



「彼女と同じように接してもらって構わない」


「し、しかし…」


「貴方たちが近い内に王となった時、その態度が急に軟化するのは妙だと思う。公の場ではお互いに損かもしれないが、此処では同じ任を受けた〈帝王の護衛〉として接してほしい」



前帝国時代において〈帝王の護衛〉の任に就けたのは、国王か、次期王候補上位の王族のみだった。

彼らもまたほとんど揺るぎない立場にいるからこそ、今回の〈帝王の護衛〉として任命されたのだろう。



「…レイリア王がそう仰られるなら、そのように致しましょう」



ルタはしばらく悩んだ様子だったが、そう言うと一度小さく深呼吸をして、再度口を開いた。



「とりあえず、席に座ろう。ほら、フィリス。レイリアに紅茶を用意して」


「何で私!?シンクにやらせたら?」


「はいはい、お嬢様方の仰せのままに」



言われるままに、笑みを携えながらささっと紅茶の用意を始めるシンク。

ルタはレイリアの側の椅子に腰掛けながら、入り口に控えるメディニアの民に聞こえないよう小声で話した。



「…じゃぁ、友人のように話させてもらうわね」


「ああ、助かる。ルタ」


「レイリア、此処で細々と動いてくれるのはチカッタラッタの子供たち…と、シンクだけだよ。もし過ごす中で分からないことがあったら、あたしたちか子供たちに聞いて」


「分かった。…先行してメディニア国内にいたと聞いているが…」


「私たちも訳も分からず此処へ来たんだけど…地下があったの。大きな地下。そこでしばらく過ごして、今日を迎えた形」


「地下が…」


「今回ユーリシア国は即位を待ってからの参加ってことだったから、先立って呼ばれたのはあたしたちだけだけど…国王であるレイリアがこの後どういう行動を取るように求められるのか、正直分からないわ。警戒した方が良いよ」


「ウォンは即位しているはずだが、彼はどうだったんだ?」


「ウォンはあたしたちと一緒に先に来て同じように過ごして、何度かふらっとうなくなってた。聞いてもダンマリだし、よく分からないよ。昔はもう少し可愛かったんだけど…即位してからはもう、ずっとあんな感じで距離を置かれちゃってる」


「そうか…四人は旧知の仲なんだな」


「まぁ、過去〈帝王の護衛〉として国同士親しくしてたからね。だから、レイリアのお父上のこともよく知ってるよ。あたしはまだ小さかったけど、よく話をしてくれた。…余談だったね。

とにかく、それに加えて帝国崩壊後は、地方のまとめ役として昔よりもっと仲良くせざるを得なかったって感じだよ」



良い香りが立ち込め、レイリアの前に紅茶が置かれる。

礼を言うと、シンクはにっこりと微笑んで隣に腰掛けた。



「我が国伝統の紅茶だ。口に合うといいけれど」


「ありがとう。香りがとても良い」


「それは良かった。ーーーしかし、驚いたよ。まさかユーリシア王家が存続できる環境にあったなんて」


「そう、本当にそう…こんな風に言っていいのか分からないけど…レイリア、無事で良かった。この十年、ユーリシアは国民だけで細々と交易をしてたみたいだったから…ウィリアム王の息子が即位するって聞いた時は、まさに青天の霹靂だった」


「国民の尽力あって、十年もの間守られて、今何とか王政を続けられるに至っている。父の側で十分に学べないまま即位するに至って、経験と力不足を感じているが…」


「そんなことないよ。まぁ、少なくとも見た目は、ウィリアム王そっくりだから。きっとできるよレイリア、堂々とやればいいさ」


「ちょっとルタ、それフォローになってるの?」



黙って3人の会話を聞いていたフィリスが、思わずと言ったように口を挟む。

そして、少し意地悪そうな顔をして聞いた。



「けど、十年も大事に大事にされてきたなんて箱入りのお坊ちゃんだね。ここまで一人で来るの、怖かったんじゃない?」


「フィリス。意地悪はダメだよ」


「い、意地悪なんてしてないけど!」


「言ったって無駄だよシンク。フィリスはほら、レイリアがウィリアム王に良く似てるから気に入らないのさ」


「ああ、成る程」



合点がいったのか、何度か頷くシンク。

一体何のことやら、と思っていると、フィリスは不機嫌そうに口を開く。



「…私の国では、生まれ持った容姿について揶揄することを嫌うわ。耳が大きいね、とか、鼻が小さいね、とか。あんた達はきっと、それだけ?と思うんでしょうけど、私たちはそういう持って生まれた愛すべき体を揶揄うような言葉を嫌うの」


「………」


「たとえ素敵だと思った部分でも、それが容姿についてだったなら言葉にしないってお国柄なの。分かる?こっちが良くても、相手は気にしている部分かもしれないからよ。

でも、なのに、なのにあんたのお父上は…!」


「フィリスのこと、手足が長くて戦いやすそうだなって言ったんだよ」


「まぁ、事実リーチが長いのは戦いにおいて有利だからね…」


「やめてよ二人とも!!あー!思い出しただけでむかつくー!!しかも、意地でも謝らなかったから!俺は悪いことは言ってないとかってさー!」



理由を聞いて尚、レイリアには父の発言の何が悪かったのか分からなかった。

ーーその人の良いと思った箇所を褒めることの何が悪いんだろうか…


しかし、今この場でそれを口にすべきではないということだけは瞬時に判断して、心の中だけに留めておく。


ーーこれだけ嫌がっているんだ。本人が良く思わず気にしている箇所なら尚更褒めて然るべきだと思ってしまうのはあくまで国民性…世界では当たり前のことではないというのを改めて理解しないといけない


今現在、そういう価値観や倫理観の違う国々が一挙に集っているのだ。

何が失礼にあたるのか分からないということを、今しがた頭に入れておく必要がある。



「…父に代わって謝ろう。嫌な思いをさせてしまって、すまなかった」


「ほら、ウィリアム王が謝ってくれたよ」


「似てるだけでしょ!」


「もういつまでも引きずってないで、許してあげなよ」


「ったく、本当、生きてる時に謝ってもらいたかったのに…………」



ーーしん、と静まり返った部屋の中。

フィリスはバツが悪そうに一度咳払いをする。



「…だってまさか、十年前の悲劇が起きて、もう会えなくなるなんて思わなかったから……ずっと突っかかっちゃってたし…。でもあんなことになるなら、嘘でも許してあげれば良かったって……」


「………フィリス」


「…ごめん、なんか…八つ当たりになっちゃった…」



レイリアの姿を見て、当時の憤りや、十年前の衝撃など、様々な思いが蘇ったのだろう。

気にしてないと首を振るが、フィリスはしゅんとしたまま顔をあげなかった。



「ごめんねレイリア。あれでも、ウィリアム王の息子であるレイリアが生きていて、此の度即位することになったと聞いて一番喜んだのはあの子なんだよ」


「そうか…」



自分の知らないところで、王になったことを喜んでくれている人がいる。

それは、彼女の言う通りーー箱入りで育ったレイリアにとって、たまらなく不思議なことだった。



「ありがとう、フィリス」



返事はなかったが、彼女は静かに微笑んでくれた。







*     *     *     *     *






復活祭の開始を待ちながら、その後も〈帝王の護衛〉の面々と話し込む内。

唯一ウォンと親しくなることはなかったものの、他3人から有益な情報が多く入ってくることとなった。



「地下はかなり広かったよ。この城の真下分の空洞でね。過ごす間は、チカッタラッタ族の子供たちが甲斐甲斐しくお世話してくれたんだ」


「そんなに大きな地下が…。西方地の大地の力を持った種族がメディニアについたのではないかと噂では聞いていたが…それは本当なのか」


「よく知ってるね」



聞こえないよう小さな声で話してはいるが、どちらにせよメディニアの民はこちらに興味がない様子だった。

それでもシンクは声のトーンを落とし、紅茶を口にしながら小声で話を続ける。



「大地の守護神、西方地のチーマ族。神話や逸話だと思ってたから、その力を初めて目にしたときは腰を抜かしそうだったよ。地下もその子が作ったらしい。

ーーいつ作ったのかまでは、教えてくれなかったけどね」


「…悲劇で被害を受けた割には、随分な数の国民が生き残っていたようだが…まさか地下で?」


「真相は分からないけれどね」



だとすると、前帝王が生きていた時に、セレーナが西方の種族であるチーマ族と接触して地下を作らせた可能性が高い。


ーーメディニア帝王は兼ねてから西方を嫌い、西方と関わりを持った国については重い処罰さえ下していたというのに…

謎は深まるばかりだったが、今は考えても仕方がないだろう。



「その種族の生き残りは、一体…」


「レイリアより一つ二つ幼いくらいの男の子だったよ。確か、アスラエルって言ったかな。数年前からたった一人で生きてるって…餓死しそうなところを帝王セレーナに救ってもらったんだって、嬉しそうに話してたよ」



ルタが、少年の姿を頭に思い浮かべるようにして答えた。

ーーチーマ族の生き残りは、俺より歳が下の少年…


エマリオの仮説は、大方ほとんどが正しかったと見える。



「セレーナ、セレーナ、ってついて回っててね。メディニアの民が嫌そうにしてる中、帝王セレーナはニコニコ笑って応えるんだよ。それだから言われるままに城と城壁まで作らされて…」


「ルタ、言い過ぎよ」



そっとメディニアの民を振り返るが、彼らは欠伸をして退屈そうにしていた。

ほっと胸を撫で下ろし、改めて顔を見合わせる。



「…新しい帝国の現状は、よく分かった。話してくれて助かった」


「うん…言っちゃなんだけど、帝国崩壊後…色々あったけど、世界は前より平和だったからさ」


「………」


「勿論問題は山積みで、全てが平和とは行かなかったけど、みんな協力して頑張ろうとしてた。だからこそ、今回の帝国復活は、全ての国の足並みを乱したと思ってる」


「…そうだな」


「これからどう転んでいくのかは分からない。あたしたちだって探り探りだから」



だから、できる限り協力して行こう。

ルタの力強い言葉に、頷いた時。




ーーー扉が開き、メディニアの民が堂々と入室して言った。



「帝国復活祭の準備が整いました。〈帝王の護衛〉として、帝王セレーナのお側にてご参加くださいますようお願い致します」



全員が静かに立ち上がり、復活祭の行われる大広間へと向かう。

その途中、階段を降りていたレイリアがふと視線を感じて横を見ると、ウォンと目が合った。



彼は一度悲しそうに眉根を寄せたがーー何を言うでもなく、ふいと顔を逸らした。












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