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marionette sala da ballo

作者: 小夜時雨

【登場人物】

夜野(やの) 伊織(いおり)

獏田(ばくた) 聖人(まさと)

宇野(うの) 典子(のりこ)

角上(かどうえ) 茅夏(ちなつ)

平里(ひらさと) 麗来(れいら)

桑戸(くわと) 呂亜(ろあ)

<開幕>

(オルゴール、カノン)

舞台には机と椅子。そこに伏してる4人の女子、中央に座るのは伊織。一人一人に手を触れながら呟く。

い「おやすみ、のりこ。おやすみ、ちなつ。おやすみ、れいら。おやすみ、ろあ。……おやすみ、私」

<暗転>

(チャイム)

<照明>

の「おっはよ~!」

い「皆おはよう!」

れ「やのっちおっは~!」

ろ「やのっちぃ、どうしよう~ろあ今日の古典の課題やってないよぉ」

ち「え、課題なんてあった?」

れ「ちなみは論外。まぁ私もやってないんだけどさ」

の「あーあ、皆ご愁傷さま~。古典の獏田先生、課題忘れに厳しいのにさ」

ろ「のりちゃんは、やったのぉ?」

の「やってない」

れ「やってないじゃん!やのっちは?」

い「やってあるよ~今日のところ簡単だったし昨日の授業中に終わらせちゃった」

ち「うわ~流石!ところで伊織さん、ご相談なんですが」

い「はいはい、見せてあげるから皆写していいよ」

ろ「やのっち~!!ありがとぉ、お昼にチョコクロワッサンあげるねぇ」

れ「助かった、うちはアメちゃん後で渡す」

の「伊織、後でジュース奢るからね!」

い「今日も私のお昼が潤うわ~」

ち「じゃあえっと~あたしは明日の課題写させてあげるね!!」

い「絶対やってこないじゃん。そんなんじゃだめだなぁ」

ち「酷くない!?お願いします伊織さま!!どうかご慈悲を!!!」

い「そうだなぁ……お弁当の卵焼きをひときれ差し出すならこれを見せてあげましょう」

ち「ひときれと言わず全部食べてください!!」

い「よかろう!」

ち「やった!急げ急げ急げ!!」

4人宿題を写す、伊織それを眺める。

(チャイム)

い「皆間に合った?」

の・れ・ろ「間に合った~!」

い「ちなつさん?大丈夫です?」

ち「あと5行!もう少し!」

(扉の音)

獏田、登場。

ば「はい授業はじめんぞー」

のりこ、れいか、ろあは席に戻る。ちなつ、伊織の席に残ってる。

ち「まってまってまってもう少しだから!」

い「ちなつアウトー、はい戻って戻って」

ち「ええええええ」

ちなつ、渋々席に戻る。

い「先生、今日の授業は126ページからですよね」

ば「よく覚えてんな夜野、じゃあ昨日の続きからな。課題やってきたか?」

い「はい、ばっちりです」

ば「じゃあ教科書の3行目訳して」

い「はい、『祇園精舎の鐘の音には、万物は変転し、同じ状態でとどまる事はないという響きがある』」

ば「完璧だな。本文とは関係ないけど、平家物語の中のこの一節が先生は好きなんだよな」

い「そうなんですか?」

れ「こんなヘンな文章好きとか先生変わってるね~」

い「れいら失礼だよ」

ば「要は、永久に変わらないものはない、何事も全て変化し続けてるって事だな。この文章を聞いてると、なんと言うか普段突然襲ってくるような不安や焦りに落ち着いて対処できる気がしてくるんだな」

い「全て変化し続けてる……」

ば「そうだ、変わらないものなんてない」

い「それって怖くないですか?」

ば「どうしてそう思う?」

い「えっと、変わるって怖いじゃないですか。新しい所新しい物って不安で怖いですよ。留まって同じまま変わらない方が安心できるし落ち着くと思います」

ば「なるほどね……だけど、それは人生で一番大切な事を滞らせてしまうね」

い「一番大切な事?」

ろ「なになにぃ、ろあ気になるよぉ」

ば「そう、一番大切な事。そうだな、いい機会だし今日はそれを考える授業にしようか」

い「いいんですか、教科書進めなくて」

ば「いいかい夜野くん。教科書なんかより知らなくてはいけない事がこの世にはたくさんあるんだよ。それを君に教える事が先生の一番の勤めです」

ち「なになに、楽しそう。難しい古文なんかより全然いいっしょ!」

の「正直古文嫌いだし嬉しいかも」

い「先生がいいなら私は大丈夫ですけど……」

ば「じゃあ決まりだな。俺はちょっと名簿を忘れたので職員室に行ってきます」

れ「教師として大丈夫?」

ば「じゃあ考えておくように、ちょっと行ってくるぞ」

い「はーい」

(扉の音)

獏田、退場。

ち「んでんで、何考えるんだっけ?」

い「ちなつさん?」

の「あれよ、変化しないことで滞っちゃう人生で一番大切な事」

れ「ん~人生で一番って難しくない?」

い「人それぞれ違う気もするんだけどなぁ……」

ち「え、一番大切って言ったらアレでしょ!」

ろ「なになに、ちなつちゃん分かったのぉ?」

の「めずらし~、教えてよ」

ち「いや冷静に考えてよ皆。人生で一番大切ってそんなの一つしかないじゃん!それは」

れ「それは……!?」

ち「食べる事!」

い「……私ちなつのそう言うところ好きだよ」

ち「でしょ!」

ろ「ちなつちゃん褒められてないよ、おバカさんだから分かんないかなぁ」

ち「待って、ろあってもっとこう……ふわふわ~って子じゃないっけ?」

ろ「ふわふわ~」

の「改めて考えてみるとぱっと出てこないもんだね」

い「じゃあさ、正解かどうかは置いとくとして、皆にとって人生で一番大切なことって何?」

ろ「う~ん、ろあはねぇ、笑顔で生きることかなぁ」

の「私は出来るだけ正しく生きる事かしら」

い「ろあものりこも2人らしいね」

れ「そうだな~うちは楽しく生きるのが大事だと思ってるかな~」

ち「あたしは~ん~」

い「食べる事?」

ち「それも大事だけどー!まぁでもやっぱ、ほかの人を傷つけない事とかかな?」

ろ「あれぇ、ちなつちゃんがまともな事言った、すごぉい」

ち「ろあー!」

ふざけながらちなつに抱き着くろあ。

れ「いちゃいちゃすんな」

い「皆大切にしてる事はやっぱりバラバラだよね」

の「伊織は?」

い「え?」

の「人生で一番大切な事、なんだと思ってる?」

れ「聞きたい聞きたい」

い「一番大切な事……」

れ「うんうん、大切な事」

い「皆みたいな感じじゃないんだけど……皆と一緒にいる事が、一番大切かな」

い「あれ……なんかおかしかったかな」

ち「(かぶせるように)やのっち~~~~~~~~!」

い「うわっなになになに」

伊織に抱き着いたり撫でたりする3人。

ろ「やのっち~~~」

れ「え、何このかわいい生き物……」

の「分かんない……もう一生離さないわ……」

い「ちょ、苦しいよ」

ち「もーうちらが人生で一番大切な事決定!これで決まり!!!」

い「ええ!?絶対不正解だよ」

の「私達にとっては大正解だからいいのよ!」

れ「まじうちらの友情が答えだよ~」

ろ「ずっと一緒~~~」

(扉の音)

獏田、登場。

ば「おー、どうだ。人生で一番大切な事、分かったか?」

い「……はい、ちゃんと考えました」

ば「じゃあ夜野、君が見つけた答えを教えてくれるか?」

い「私達が見つけた答えは」

伊織、ほかの3人の顔を見る。全員がうなずき返す。

い「友達と……皆と一緒にいる事です!!」

ば「……そうか」

ろ「せんせぇ、これも正解だよねぇ?」

の「この問題は人それぞれ答えが変わって当然ですよね……?」

い「先生、どうですか」

ば「夜野」

い「はい」

ば「人はな、変わらないといけないんだ。どこかの場所で立ち止まってるだけじゃ生きてるとは言えない。……祇園精舎の鐘の声には諸行無常の響きがあったが、君の声には万古不易の響きがあるな」

れ「ばんこふえき……?」

い「一定していて、変わらない事」

ば「正反対だな、君は」

い「……どういう意味ですか」

ば「俺は君に変わってほしいんだよ、今のままじゃだめだ」

の「先生、ちょっと酷すぎませんか?伊織の何がだめで変われっていうんですか」

ろ「せんせぇがやのっちの事いじめるなら、ろあ怒るよ」

い「先生、私達の答えが気に入らなかったんですか?それとも私の事が気に入らないんですか?」

ば「俺は教師だよ、気に入る気に入らないで何かを決める事はない」

ち「じゃあなんで!」

ば「夜野、友達が好きか?」

い「大好きですよ」

ば「一人は嫌いか?」

れ「ねぇだから何なの」

伊織、れいらを手で制する。

い「嫌いですよ」

ば「そうだよな。一人は嫌だし傷つきたくないよな」

い「そうですね」

ば「でも、こうも思うよな。『誰も傍にいなければ、最初から一人なら独りぼっちにされる事も傷つく事もない』」

ち「先生いい加減にしてよ!わけわかんないことばっか言わないで!」

れ「やのっち、真面目に話す必要ないからね?」

ば「いや、正しくはこうか『自分の思い通りにならない他人なんていなければ、一人にされたり傷ついたりしない』」

の「先生!!!!」

ろ「いい加減にしてよぉ」

い「先生変ですよ、いつもの先生じゃない。どうしたんですか?」

ば「君こそ、少し前とは全然違う。別人だ。そしてそこから何も変わってない」

の「変わってない変わってないって……伊織は伊織でしょ!?」

ち「伊織もう帰ろう。こんなの変だよ」

ろ「皆でどこかいくぅ?遊んで嫌な事忘れようよぉ」

れ「やのっち観たい映画あったよね?それ見に行こ!」

い「皆、ありがとう……」

ち「ほらほら鞄持って」

立ち上がり帰る支度をする4人。

ば「……君の友達はきっと、君を嫌な事から遠ざけて逃がし、安寧を保証してくれる。優しいんだろうな。きっと」

い「何なんですか、おままごとの間違った友情とでも言いたいんですか?もうやめてください」

ば「よく分かってるじゃないか。夜野は賢いな。賢くて優しくて繊細だからな……。友達と喧嘩した時、心が痛かったよな。仲直りした後もギクシャクした気持ちになったよな。相手を考える程疲れて磨り減って……」

ろ「やのっちの事分かった口きかないでよねぇ」

の「この人本当におかしいんじゃない?私怖いんだけど」

ば「夜野、君の出席番号は?他のクラスの友達は?俺以外の教師の名前が言えるか?……そこにいるお友達とやら以外で、クラスメイトで思い出せるやつはいるか?」

い「もうやめてって言ってるでしょ!!!!!」

れ「先生いい加減にしてよ!」

ち「最低だよ、教師がこんな事していいの!?」

の「教育委員会に訴えてやるから!!」

ろ「やのっちの事いじめないで!!!」

獏田、ゆっくりと教卓から降りて伊織の席に近づく。

の「近づかないで!」

ち「これ以上やめて!」

ろ「やだ!先生嫌い!あっちいって!」

れ「やのっちは私達が守らないといけないの!」

獏田、名簿で机を強く叩く。その音と同時に友人4人は糸が切れたように動かなくなり <照明変化(机1つ分程度のヌキ、伊織と獏田が照らされて周囲に3人がうっすら見えるイメージ)>。

ば「万古不変の夢を見るのはやめにしよう」

い「な、何するんですか……のりこ?ちなつ?れいら?ろあ?先生なんて事、皆動かない、やだ、やめてください」

ば「真面目で賢くて色々な所に気が回って考えが及ぶ……。それは夜野のいい所だったんだよ。でも、少し不器用だった。だからお前は歳頃の子なら起こって当然の些細な喧嘩で……心が折れてしまった」

い「嫌です、私達喧嘩なんて、皆仲良しで楽しくて」

ば「夜野、そんなに自分を責めなくて良かったんだ。皆に悪い所があったから喧嘩になった、皆もうお前を許してるし嫌いになんてなってない。お前だってそうだろ?皆のことが大好きで、だから……」

獏田、教室を見渡す。

ば「自分の中に、彼女達の虚像を作ったんだろ?」

い「あ、あ……」

ば「この隔離教室でずっとお前に授業をしてきたけど、この教室にはいつも俺とお前しかいない。お前が大切にしている友達は、1度も俺には見えてなかったよ」

い「れいらは…ろあは…ちなつは?のりこは……」

ば「そんな子達は、どこにもいないんだよ」

い「……やだ、やだやだ嫌だぁぁぁぁ!!!!」

ば「夜野、変わるのは怖い事だよ。嫌な事と向き合うのは辛いはずだ。でも人生で1番大切なのは成長する事、変わっていく事だよ」

い「成長……だって向き合ったって傷つくだけですよ?何も変わらないかもしれない、だったらずっとこのままの方がいい……」

ば「何も変わらない事なんてない、君が何かを変えたいと思った時点で世界はもう変わってるんだ」

い「私だけ変わってしまったら?周りは何も変わらなくて私だけ取り残されたら?それは本当に成長ですか?」

ば「大丈夫、君はとてもいい子だ。他人の痛みに寄り添える人間だよ。そんな君を周りはきちんと見ているし、君の優しさは必ず君のもとへ帰ってくる。俺が保証しよう」

い「……何でだろう、先生に言われるとそんな気がしてきます」

ば「はは、それは良かった……さ、悪い夢から覚める時間だよ。もう自分の足で進めるよな?」

い「はい、私頑張ってみます。応援しててくださいね」

ば「あぁ、俺はいつでも君の味方だよ。一片の曇りもなくね」

い「……ありがとうございます」

ば「どういたしまして。それじゃあ最後の授業を終わりにしよう」

い「最後?」

ば「これからも、どうかいい夢を。それじゃあ……」

<暗転>

獏田の声「おやすみ、伊織」

(チャイムの音)

<照明つく>

舞台には4人の女子生徒が楽しそうに談笑している。

伊織が舞台端で深呼吸した後に覚悟を決めたように入ってくる。

い「お…………おはよう!!!」

の「……おはよう」

れ「お、おはよ……!」

ろ「いおりん、おはよ」

ち「おはよ、久しぶり」

い「あ、あの、この前はごめんね。私ちょっと子供だった……」

のりこ、伊織をぎゅっと抱き締める。その後皆抱きついていく。

の「あたしらもごめん、もっと早く仲直りすれば良かったね」

れ「ごめんね、皆いおりちゃんの事大好きだよ」

ろ「いおりんごめんね」

ち「ほんとごめん、また皆で楽しくやろ?」

い「うん、うん………!」

ろ「でも良かった、もう学校きてくれないかと思った」

い「獏田先生が背中押してくれたから」

の「獏田……?」

い「古典の獏田先生」

れ「え?古典って担当中野先生だよね?」

ち「そもそも獏田なんて先生聞いた事ないよね……?」

い「え、だって私ずっと獏田先生の……」

れ「ばくって言えばさ、いおりちゃんずっとカバンに可愛いバクのぬいぐるみ着けてるよね〜」

の「そう言えばそうだね、これ昔から付けてたんだっけ?可愛いよね」

い「あ、うん。誰かに昔もらって、確か悪い夢から私を守ってくれるよって……」

ち「バクって夢を食べるって信じられてるよね」

ろ「そっか。じゃあ、その子がいおりんを守ってくれたのかな……なんちゃって」

い「……そうかもしれない」

の「皆割とロマンチック?」

れ「いいじゃん!現にこうやっていおりちゃん帰ってきてくれたし大感謝だよ!」

ち「確かに、感謝しなきゃだね」

い「うん!」

(チャイムの音)

の「あー!課題!」

ろ「皆で忘れれば怖くない」

い「私復帰したてなのに!!」

ち「ま、私はやってあるからごめんね」

れ「裏切ったー!!!!」

がやがや話をする5人。

<徐々に暗くなる照明>

(オルゴール カノンが暗くなりに連れ徐々に上がっていく)

伊織の声「おやすみ、のりこ。おやすみ、ちなつ。おやすみ、れいら。おやすみ、ろあ。……おはよう、私」

ちなみに後半の女子生徒4人は前半までの4人とは姿は同じだが別人の設定。あくまであの4人は想像のお友達で名前も違う伊織の中で作り上げられた虚像。

<小ネタ>宇野からの虚像4人はイタリア語で1〜4の数字の読み方を名前にいれてたりする。

題名はイタリア語で操り人形の舞踏場。

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