第九十三話 ジーネの実力①
※1/15(水)の更新は延期となります。申し訳ありません。
次回の投稿は1/20(月)17:00の予定です。
――ツァイス先生との決闘まで、あと三日。
「さあエルカンさん! 今日も張り切って特訓をしましょうか! ――と言いたいところですけど……大丈夫ですか? なんだか昨日より生気がない、というか死者のような顔をしていますよ?」
今日も今日とてエリーゼさんに訓練してもらうべく、演習場までやって来た僕。
ハキハキと元気よく挨拶してくれるエリーゼさんだったが、僕の表情を見るや二言目には死者のように生気がないと言われてしまった。
「は、はは……おはようございます……どうかお気になさらず……昨日、色々あっただけなので……」
ゲッソリとした顔で挨拶を返す。
いや、特訓を始める前からそんな調子で大丈夫なのかと自分でも自分に問いたくなるが、正直仕方ないと思ってほしい。
だってだよ? 昨日の今日だよ?
ジーネに面と向かわれて〝娘さんをボクにください〟って言われたばっかりだよ?
ぶっちゃけ、まだ全然ショックから立ち直れていない。
結局昨日は気を失っちゃったって答えを先延ばしにしたけど、もう思い出すだけでもストレスで髪の毛が抜け落ちそう。
この歳になると頭の毛量が心配になってくるけど、次元が違うレベルでハゲそうだ。
なんならハゲる前に髪が真っ白になりそうなくらい。
――いやね、それでも気持ちを入れ替えるべきなのはわかってる。
こうして特訓に付き合ってくれてるエリーゼさんのためにもね。
実際、この場にいるのが僕と彼女だけだったら、まだ心持ちも違ったかもしれない。
ところがね……
「そうですか、まあ時間もないので多少は無茶をしてくださいね? ……ところで、エルカンさんの隣にいらっしゃるセレーナさんとコロナさん――と、そのさらに隣においでの可愛らしい方は、どなたでしょう?」
不思議そうに首を傾げて、視線を移ろわせつつエリーゼさんが尋ねた。
……そうなのだ。
今、この場には彼がいるのである。
僕の両横に寄り添うかわいい娘達――と、コロナにぴったりとくっつくジーネの姿。
もう彼の姿を見るだけで動悸がするのに、そんな彼が僕の特訓に同伴するというのだから、もう胃のキリキリが止まらない。
しかも、今日はセレーナとコロナも来てるんだよ? これなんて罰ゲーム?
なんなら、コロナもずっと困り切った表情してるし……
ジーネはニコニコとした満面の笑みで、
「初めまして、見目麗しい『エルフ族』のお方! ボクはジーネ・パンテラといって、コロナお姉さまの舎弟をしております!」
とても可愛らしい顔でさらに可愛らしく笑いながら、エリーゼさんに挨拶する。
本当に、顔や声を聞くだけではとても男性には見えない。
こんな子に娘をくださいと言われた僕の心境を理解できる人は、たぶん世界を探してもそう多くないんじゃないかなぁ……
そんなジーネの明るい挨拶に対して、
「あらあら、どうもご丁寧に。私はエリーゼ・アールヴ・スカンディナヴィア。見ての通り耳長の冒険者です。それで、キミはどうしてココに?」
「はい! ボクの尊敬するコロナお姉さまのお父上、エルカンさんの偉大なるお力を見れると伺って、ぜひ見学させて頂こうかと!」
「ははあ、それは殊勝なことですねぇ。でもエルカンさん、よろしいのですか?」
「うん……まあ……そうだね……」
そりゃ最初は断ったよ。ホントに勘弁してほしかったし。
でも朝一で「どうかエルカンさんの訓練を見学させてください!」って頼み込まれて、床に手を突いて頭まで下げられちゃったらさ……断れないよね……
それに、若い子に向上心があるのはすごく良いことだ。
インファランテの代表を務めるほどの魔導士が、それほど謙虚な姿勢をとれるのも素晴らしい。
自身の力に溺れていない証拠でもある。
それにまあ、僕の心境はともかくエリーゼさんならジーネを邪険には扱わないだろう。
彼はエリーゼさん好みの可愛くて素直な性格をしてるし、邪魔者扱いなんて――
――ん?
あれ……? エリーゼさん好み……?
「ふふ、そうですか。では雇い主の許可も下りたことですし……楽しんでいってくださいね、ジーネさん……♪」
※1/15(水)の更新は延期となります。申し訳ありません。
次回の投稿は1/20(月)17:00の予定です。




