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第九十一話 反逆のジーネ


「ボクは、自分の生き方を決めたんだ。だからもう校長(おとうさん)の言いなりにも、君の言いなりにもならない。ボクは、コロナお姉さまに付いていく」


 今までしゅんとしていた様子とは打って変わって、毅然とした目つきでノイマンに言い放つジーネ。

 

「な……っ!? なにを仰るのですかジーネ様!? 貴方様はインファランテの"希望の星"なのですよ!? ご自身の立場を理解して――!」

「それは、もう聞き飽きたよ」


 ノイマンの言葉を力強く遮り、彼は言葉を続ける。


「今までも、キミはずっとボクに"立場を考えろ"って言ってきたよね。学校の皆も校長(おとうさん)も、ボクをインファランテの"希望の星"だなんて担ぎ上げて、ボクの言葉なんて、ボクがどうしたいか(・・・・・・)なんて聞いてくれなかった。

 ……でも、コロナお姉さまは違った。お姉さまだけは、ボクの心の声を聞いてくれたんだ。ノイマン、キミは一度だってボクに"なんのために生きたいか"と聞いたことがあるかい?」

「そ、それは……」

「だからね、ボクは決めたよ。――ボクは、コロナお姉さま(・・・・・・・)のために生きる(・・・・・・・)! もうインファランテにも校長(おとうさん)にも縛られない。ボクはボクの幸せのために、ボクの人生をコロナお姉さまに捧げる! だから……もうボクに関わらないでくれ、ノイマン!」


 高らかにそう宣言すると、ジーネはコロナの片腕にぎゅっと抱き着いて見せた。


「「――――ッ!!!!」」


 ――彼の言葉を聞いた瞬間、僕とノイマンの脳髄に衝撃が走る。


 あ、いや、本当にノイマンに衝撃が走ったかは定かではないけど、反応(リアクション)を見る限りショックを受けてる。たぶん、っていうか間違いなく。


「そ……そんな……ジーネ様が……反抗期に……う、嘘だ……こんなのは……悪い、夢……ふらり」


 そう言い残して意識を失い、顔面蒼白になってバターン!と卒倒してしまうノイマン。

 ああ、やっぱりショックのあまり気を保てなかったか。

 わかるぞ、その気持ち。

 僕も衝撃のあまり、気を抜くと今にも気絶しちゃいそうだからね。


 ……なんで僕がショックを受けてるのかって?

 そりゃあ、目の前で男の子が「娘さん(コロナ)のために人生を捧げます!」なんて唐突に叫ぶんだよ?


 これって、アレだよね?

 もうほとんど――"プロポーズ"だよね?


 あっ、まずい。

 その言葉(ワード)を考えただけで意識が遠のくのを感じる。


 いや、気をしっかり持つんだエルカン・ハルバロッジ。

 話を聞く限りでは、彼はコロナの人生観に影響を受けたのであって、決してケッ○ンとかそういうことを考えてるワケじゃない……かもしれない。

 大丈夫、大丈夫だ。

 アイムオーケー。


 ただ、どこからどう見ても可愛らしい女の子にしか見えないジーネに、ここまで男らしいことを言われると、もう頭が混乱しておかしくなりそうだよ……


 傍らでジーネの発言を聞いていたセレーナも、じっとりとした目でコロナを睨む。


「コロナ……(わたくし)達にはお父様というモノがありながら、なんてふしだらな……! いったい、いつの間にこんな真面目な子を誑かしてきたんですの……!?」

「うぇ~ん……誤解だよぉ~……アタシはただ、ジーネに自分らしく生きてほしくてぇ~……」


 半泣きになって、困り果てた顔をするコロナ。

 どうやら、彼女もジーネに惚れ込まれてまいっているらしい。

 それだけでも、僕にとっては精神衛生上の救いではあるけれど……


「はい! ボクはお姉さまのお陰で、新しい生き方を見つけられました! だからこれからは、お姉さまのお傍にいさせてください!」

「だから、それはちょっと無理なんだってばぁ。アタシにはパパがいるから……」


 コロナが言うと、ジーネもハッとした顔をする。


「む、そういえばそうですよね。この場にはお姉さまの偉大なるお父様がいらっしゃられるのですから、"筋"というモノがありますよね……!」


 深々と頷くジーネは、コロナから手を放して立ち上がると――テクテクと僕の前まで歩いてくる。

 そして僕の前で立ち止まり、しっかりとこちらと目を合わせる。


 こうして見ても、顔立ちもさることながら背丈も低いし身体も華奢で、とても言われなければ男の子だなんて思わない。

 どこからどう見ても、可愛らしい美少女だ。


 ――で、そんな美少女にしか見えないジーネは、


「え、えっと、こんな時なんて言えばいいのかわからないのですが……。

 エルカン・ハルバロッジ様――いえ、お父様(・・・)! 娘様を、コロナお姉さまを、どうかボクにくださいませんか(・・・・・・・・)ッ!?」


 コロナの父親である僕に向かって、そう言い放った。


「――――はふぅ」


 彼の言葉を聞いた僕は、「あ、こりゃダメだ」と自らの精神がパンクする瞬間を自覚し、今度こそノイマンと同じように顔を真っ青にして床に倒れたのだった。


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