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第九十話 お説教タイム


「「…………」」


 僕の目の前で床に正座させられる、コロナと桃色の髪の少女――いや、少年。


 なんでも彼の名前はジーネというらしく、こんなに可愛い見た目なのに男性なのだそうだ。

 僕にはどう見ても少女にしか見えないが、少年なのだという。

 こんなに可愛いのに。


 しょんぼりとした顔で正座する二人に対し、


「ジーネ様、なにか申し開きすることはありますかな?」

「まったく……いったいどこから怒ればいいのやら……」


 憤怒の様子でジーネを見下ろすノイマンと、頭を抱えて呆れ果てるセレーナ。


 ――僕らは今、時計台の中にある客人用の部屋の一室にいる。

 部屋の中にいるのは僕、セレーナ、コロナ、ノイマン、ジーネの四人だけだ。


 ダニエラやインファランテの他の代表生徒達は各々が寝泊まりする部屋に案内され、今頃はランタンの淡い光に照らされてゆっくり身体を休めている頃だろう。


 その傍ら――僕らは、絶賛"大反省会"の真っ最中というワケだ。


 僕も頭が痛くなる感覚を覚えながら、


「と、とりあえず話を要約すると、コロナはノイマンくん達から逃げていたジーネちゃん――あ、いや、ジーネくんでいいのかな? ――を助けて、色々話した結果舎弟にしてほしいと頼まれてしまっている……って感じでいいのかな」

「うん……いや、ハイ、そんな感じです……」


 しゅん、と眉を八の字に曲げ、返事するコロナ。

 いやはや、なんとも面倒くさい事態になってしまったな……


 あくまで一個人の意見としては、コロナを叱りたくはない。

 この子は困っていたジーネを理由も聞かずに助けて、相談に乗ってあげた。

 結果として面倒事にはなってしまったけれど、それはコロナが優しい子で、ジーネに親身になった証左でもある。


 ……もし僕が同じ状況(・・・・)に陥ったなら、僕もジーネを助けるのではないだろうか。

 いや、僕だけじゃない。

 きっとセレーナでも、そうしたはずだ。


 どちらかといえば、僕は自分がお人好しな性格だと思ってる。

 でも、これは自慢でもなんでもない。

 この歳まで生きると"お人好しはだいたい損をする"ってことがわかってくるからだ。


 世間を上手く生きようと思うなら、他者と出来るだけ関わらないようにするか、あるいは他者を利用して出し抜こうとする方が良い。

 実際、そういう風に生きた方が楽なはずだ。

 だって、他者の目を気にしなくて済むのだから。


 それでもついお節介を焼きたくなるというか、関わろうとしてしまうから"お人好し"。


 "お人好し"の対義語は"意地悪"らしいけど……目の前の困っている人を放っておけるほど、僕は"意地悪"にはなれない。


 僕はそんな人間になりたくないし、セレーナやコロナにもそんな人間になってほしくない。


 それになにより……僕はそういう性格をしていたから彼女達と出会えた。

 十七年前のあの夜、二人を育てる決心が出来たのだ。


 だからこそ、困っているジーネに手を差し伸べたコロナを怒る気にはなれない――んだけど……

 ノイマンやセレーナは、二人を簡単に許す気はないらしい。


「ジーネ様、ハーフェンに来る前にあれほど何度も申し上げたはずですが? 今回の視察はインファランテの立場に関わる故、態度には厳重に注意するようにと」

「そ、それはわかってるけど……でも――!」

「言い訳など聞きたくありません。いくら貴方が校長のご子息でも、今回のことは許されませんよ。貴方一人の身勝手で、我々は大きな恥をかいたのです。いい加減にご自身の身分をご理解頂きたい」


 高圧的な物言いで、ジーネに説教するノイマン。

 そんな彼の言葉を聞くと、ジーネは膝の上でぎゅっと両手を握り、悔しそうに俯く。


「ジーネ……」


 コロナも心配そうに、隣のジーネの顔を覗き込む。

 確かに、事の発端はジーネの身勝手な行動にあったのは間違いないけど……


 怒りが頂点まで達しているノイマンに気圧され、僕らまで言葉に詰まってしまう。


 しかし、


「…………ノイマン、ボクはもうキミの言いなり(・・・・)になんてならないよ」


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