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第八十九話 校長と教頭


 ――校長室に残された、イルミネ校長とギルベルト教頭。


 相変わらず不機嫌そうな顔でギルベルト教頭を睨むイルミネ校長は、


「……それで、わざわざ一人で残ってなんの用じゃ」


 ぶっきらぼうな口調で、そう切り出した。


「いえいえ、先程の話の続きですよ。新たな『精霊』の居場所が判明した、という」

「ふんっ、場所までバラされれば、イヤでもこちらで調べるわ。もうわかったから、さっさと去ね去ね。そのニヤニヤと笑った顔を見てると、胸焼けを起こしそうじゃ」


 しっしっ、と手の平を振るイルミネ校長。

 たが反対に、ギルベルト教頭は笑顔を絶やさぬまま、


「そうですかな? このギルベルトは、貴女とお話している時間をとても楽しく思いますが」

「やめろ、鳥肌が立つ。……ハァ、わかったわかった、もう好きにせよ。それで、なにを妾に話したいのじゃ」


 もう諦めた、という表情でイルミネ校長はため息を漏らす。

 それを聞いたギルベルトは後ろ手を組み、


「……新たに見つかった《精霊の神殿》のことで、場所の発見と同時に少し面白い報告(・・・・・)も上がっていましてな。このギルベルトも、その報せを受けたのはほんのついさっきなのですが……」

「ハッ、まさか神殿は見つかったのに、肝心の『精霊』が見つからなかった――なんて言うまいな」


 非常におちょくった言い方で聞いてみるイルミネ校長。

 少なくともこの時、彼女は深く考えずに思い付いたことを言っただけであった。

 この男が、そんなくだらないことを言うはずがない、と。


 だが――


「…………」


 対するギルベルト教頭は、短い沈黙で答えた。

 そんな彼の様子を見たイルミネ校長も、徐々に目の色が変わっていく。


「……これ、ギルベルト? なんとか答えよ。いや、そんな――まさか――」

「……ええ、その通りですよ。


 新たに見つかった《精霊の神殿》の中に――『精霊』の姿はなかった。


 それだけではありません。神殿はかなりの損壊具合だったようですが、塵や瓦礫の積もり方は比較的新しかったらしい。そしてなにより――神殿の奥には、何者か(・・・)が地底へと向かって掘り進んだと思しき"巨大な穴"が空いていたそうです」


 そう語るギルベルト教頭に笑みはなかったが、彼はすぐに作ったように口の端を吊り上げて肩をすくめる。


「妙ですよねぇ、『精霊』はどこに行ってしまわれたのでしょう。神殿を破壊するほど慌てて……いったい、誰に会いに行った(・・・・・・・・)というんでしょうねぇ?」


 クスクス、と微笑するギルベルト教頭。

 対するイルミネ校長の顔には一分の笑みもなく、ただ据えた瞳で彼を見つめる。


「……ギルベルト、お主がなにを考えているかなどわからぬし、お主の企みにも興味はない。妾を陥れようとしているのなら、それもまた良い。混沌(カオス)という言葉に沿う物じゃからな。

 じゃが……もし、この学校の生徒達を――妾の子供達(・・・・・)を危機に晒そうというというのなら、覚悟することじゃ。それだけは……忠告しておくぞ」


 ――静寂、が部屋の中を支配する。


 そして五秒ほどの後に、


「……ええ、覚えておきましょう。ですがこのギルベルトとて、進んで大事な生徒を危険に晒すような真似はしませんとも。

 では、"お話"は以上です。ところで、この後に夕食(ディナー)でもご一緒にいかがですかな?」

「か・え・れ♪ 今すぐに♪」


 ドスの効いた声で、笑顔で追い出そうとするイルミネ校長。

 そんな最高に不快そうな彼女を見て、ギルベルト教頭も「やれやれ」といった様子で校長室を後にした。


 一人残されたイルミネ校長は、


「……エルカン・ハルバロッジよ、此度の"決闘"はお主の思っている以上に、正念場になるやもしれんぞ」


 今この場にいないエルカンに対して、そう呟いた。


次回のタイトルは『第九十話 お説教タイム』です。


次回の投稿は12/25(水)17:00の予定です。

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