第八十五話 ハーフェンとル・ヴェルジュとインファランテ③
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「実際、お主らの本命はこやつらじゃろうて。ハーフェンが二百年ぶりに輩出した【伝説の双子の大賢者】と、『精霊』の力を授かったその父君――セレーナ、コロナ、エルカンのハルバロッジ親子であろう?」
もっとも、娘っ子の片割れはこの場におらんが、とイルミネ校長は言い加える。
すると――室内にいる全員の視線が、一斉に僕らへと向けられた。
「え、えっと、いやぁ、アハハ……」
うぅ……胃がキリキリと締め付けられる感じがする……
あの世界三大魔術学校の代表達全員から品定めするような目で見られるとか、これなんて罰ゲーム?
イルミネ校長も、頼むから煽るようなこと言わないでくれよ……
いや、この人の場合は僕がそう思うとわかった上でやってるんだろうけど……
この"ドS幼女おばあちゃま"め……
あ、いかん、ドSで幼女でおばあちゃまとか、属性多すぎるし言葉の三分の二が矛盾しててワケわからなくなってきた。
言葉って難しいな、アハハ。
「お父様、大丈夫ですか? まるで魔術陣の描き方を初めて教わった初心者魔導士みたいな顔をしておいでですが……」
「うん……大丈夫……ちょっと頭がオーバーヒートしてただけだから……」
あとプレッシャーに負けそう……
いや、だがそれは言うまい。
せめて少しでも父親らしくあるのだエルカン・ハルバロッジ。
頑張れ二児のパパ。頑張れ僕。
心の中で己を鼓舞し、なんとか代表達の視線に耐える。
「……【伝説の双子の大賢者】セレーナ・ハルバロッジ氏の実力は、先程少しばかり拝見させて頂きました。『精霊』にすらその実力を認めさせた事実、もはや疑う余地もありません。ですが……そんな彼女に魔術を教授した父君のことは、未だとても興味深いとは思っております」
ダニエラが流し目で僕を見て言う。
隣のヴァーノンも似たような目をしている。
ノイマンは僕の右手を見つつ、
「それは自分も同じく思っております。属性の祖たる『精霊』が、何故【伝説の双子の大賢者】ではなくその父君に力を授けたのか……。然らば、相応の理由があるはず。そこに関しては、一魔導士として興味が絶えません」
うわぁ、なんかすっごい株を上げられてる気がする。
たぶん、っていうか絶対、この子達ってば僕のことを大魔導士かなにかだと思ってるよね。
言い難いなぁ……元々、僕は"下降支援魔術しか能のない底辺黒魔導士"だったなんて。
そもそも言ったって信じてくれるかどうか……
異様にプライドの高いこの子達のことだ。
むしろ、そんなこと言ったら"自分達のことをバカにしているのか"とでも言って怒り出しちゃいそうだし。
でも――本当は――本当なら――教えてあげたい。
【雷の精霊】が僕を、僕達家族を認めてくれたのは、実力のある魔導士だったからなんかじゃない。
彼が認めたモノは、僕の下降支援魔術でもなければ、【賢者】であるセレーナとコロナの強力無比な攻撃魔術でもない。
彼は、魔導士の才能なんて少しも気にしちゃいなかった。
彼が僕らに見たモノは――――"絆"の可能性。
七千年前、【始まりの賢者】にも見出したであろう"万に一つの奇跡を起こす可能性"。
『精霊』に認められた者として、僕はそれを伝えるべきなんだと思う。
魔導士とか【賢者】とか、もっとそれ以前のことなんだよ、と。
でも、ハーフェンで授業した時も伝えられなかったしなぁ……
魔導士であるからこそ、エリートであるからこそ、兎にも角にも、まず魔術ありき。
でもこの子達も世界三大魔術学校の代表として、魔術の未来を担う存在。
――よし、ここはバシッと「大事なのは魔術だけじゃないんだよ」と説明しておこう。
そう思って、僕はスゥっと息を吸う。
「いいかいキミ達、大事なのはだね――」
「あら、そんなのあと三日後にはハッキリするではありませんか」
――――僕が言おうとした矢先、セレーナの言葉が僕の発言をかき消した。
「え? ちょ――」
「皆様方は、お父様とツァイス先生の"決闘"を観にハーフェンまでいらしたのですわよね? でしたら、その戦いぶりを見れば一目瞭然ではありませんか」
事もなげに、そう言い切って見せるセレーナ。
それを聞いたダニエラやノイマン達は――
「……そうですね、まさにその通りだ。いくら口で説明されようとも、実戦に勝る証拠なし」
「百聞は一見に如かず、ですか……。見事な自信です。そうですね、でしたら自分達は三日後の"決闘"で、父君の全てを見極めさせて頂きましょう」
なんだかとっても納得した様子で、うんうんと頷く二人。
僕は額から冷や汗が流れるのを感じつつ、セレーナに手を伸ばす。
「ちょっと、あの、セレーナ……さん……?」
「大丈夫ですわ! お父様が負けるわけなどないのですから!」
思いっきり見せつけてやれば良いのです!と、満面の笑みで言ってくる僕の愛娘。
もはや、一部の隙も無いほど完全に僕の勝利を信じている表情だ。
絶対の絶対に、僕がみっともない戦いを晒さないと確信している顔だ。
……この時、僕は初めて娘からの信頼が怖いと思ったのだった。
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