第八十四話 ハーフェンとル・ヴェルジュとインファランテ②
出会い頭から一悶着あったが、とりあえず三校の代表生徒達は顔合わせを終えた。
ル・ヴェルジュの二人組はダニエラとヴァーノンという名前らしく、ヴァーノンはなんだかセレーナと既に確執が生まれているっぽい。
三人に聞いても「魔導士らしく挨拶を交わしただけ」と言って具体的に答えてくれず、ヴァーノンに至っては顔を俯けてしまう。
……正直、なにがあったのか予想できるけど。
まあイルミネ校長も察した上でニヤニヤとした笑みを浮かべているから、追求するのはやめよう……
「さて、こうしてル・ヴェルジュとインファランテが我が校に来るのも久しいことじゃが……諸君らの目に、我が校はどう映ったかな?」
しばらく散策して来たんじゃろ? とイルミネ校長が各校に尋ねる。
そんな質問に対し、まず初めに口を開いたのはダニエラだった。
「……その校訓に違わぬ独自性・自由な気風、一見すると魔導士達に帰属意識はないように見えますが、根幹には自らがハーフェンの魔導士であるという強い自負がある。魔導士一人一人から学校の雰囲気まで、ル・ヴェルジュと似ているようで全く違う場所――という印象を受けました」
そんなダニエラの感想を聞き、ノイマンも少し身を乗り出す。
「それは自分も感じました。生徒達に与えられた権限の自由性や、学校が街となっている感覚はインファランテとも共通しますが、あらゆる意味で活気が違う。街そのもの――学校そのものの運営が上手く回っていることの証左でしょう」
「それは嬉しいことを言ってくれる。お主ら"おべっか"が上手いのう♪
……じゃが、腹の底は違うじゃろ? 本音を言うてみい」
見透かしたようにイルミネ校長が言うと、ダニエラもノイマンも彼女から僅かに目を逸らした。
「……虚偽は申し上げていませんが――本音、というのであれば、"悔しい"と思う気持ちもあります。私達『ル・ヴェルジュ魔術学校』は世界最優の魔導士集団であることを自負し、誇りにしています。"生徒全体の質"でも……正直、とても負けているとは思えません。にも拘わらず、『精霊』という歴史的発見を貴女方に奪われたというのは……」
落ち着き払った、けれど少し感情が入ったような口調で話すダニエラ。
ノイマンも続き、
「恥ずかしながら、自分も同じ思いです。インファランテはハーフェンとル・ヴェルジュを追い越すために日夜励んでいるのに、肝心のハーフェンがお祭り状態では、心持ちは如何とも……」
ノイマンも腕を組み、悔しさを滲ませる。
当然と言えば当然だろう。
この三校は互いにライバル関係。
そのどれかが歴史的快挙を成し遂げたとあっては、喜ぶに喜べない。
それでも認めるべきところは認め、肯定出来る辺りは流石"代表"だろう。
「ま、それが本音であろうな。もし妾が逆の立場なら、地団駄を踏んで悔しがるはずじゃ。とはいえ――そんな快挙も、【伝説の双子の大賢者】と"その父君"あっての賜物じゃがな」
イルミネ校長はそう言って、今度は僕らを見る。




