第八十三話 ハーフェンとル・ヴェルジュとインファランテ①
――広い校長室の中で、世界三大魔術学校の生徒達が相対する。
イルミネ校長は机に座ったまま笑みを崩さず、僕とセレーナは彼女の横に立つ。
ル・ヴェルジュとインファランテの生徒はそれぞれ向かい合う大きなソファに腰掛け、じっと身を固めている。
ル・ヴェルジュの生徒は男女二人組で、黒髪で落ち着いた雰囲気の少女と、金髪でツンツンに逆立てた髪型が特徴の少年だ。
黒髪の少女の方は大人びた知的な雰囲気を醸し出しているが、金髪の少年の方は逆に明らかに目をギラつかせている。
心なしか、僕を見る目も険しいような……
うぅ……三十半ばの中年に、若い子の鋭い視線は辛い……
対するインファランテの生徒はと言うと、如何にも優等生といった感じの五人組で、三名がソファに座って二名がその後ろに立っている。
ソファの中央に座する生真面目そうな黒髪長身の少年がリーダーだと思われるが、ル・ヴェルジュの少女とは違い近寄り難さはないタイプだと思う。
ただ一概に言えるのは、両校の生徒全員が並の魔導士ではないということだろう。
……こうして端から見ていても、皆からとてつもない魔力を感じる。
セレーナやコロナに見劣りしないほどだ。
ライバル関係である三校が集まったこともあって場の空気がピリピリしており、溢れる魔力が肌に突き刺さる感覚すら覚える。
「む? セレーナや、姉妹はどうした? 姿が見えぬが……」
気付いたようにイルミネ校長がセレーナに尋ねる。
そう、僕もさっきから気になっていた。
インファランテの代表生徒を迎えに行ったはずのコロナが、この場にいないのだ。肝心のインファランテの代表生徒達はきちんといるというのに。
「あの子は僕らとわかれて、インファランテ代表生徒の方々を迎えに行ったんだよね? 現に彼らはおいでだし……」
僕も尋ねると、セレーナは眉間を細い指で押さえてため息を漏らす。
「はあ……いえ、その、とても言い難いのですけれど……彼らはコロナの案内なしで時計台の下までいらしたそうです」
「え……!? そ、それってつまり――!」
「ほう? あの娘、我が校の面子に関わる大事な仕事をすっぽかしおったと?」
ギクっとして、僕はイルミネ校長の顔をそ~っと拝む。
そんな彼女の表情は口元こそ笑っていたが、完全に目は笑っていなかった。
「ククク……そうかそうか、あの子には一度しっかりとお灸を据えてやらねばならんなぁ? のう、エルカン・ハルバロッジぃ?」
「あ、あの、コロナは僕からちゃんと叱っておきますからーー!」
――なんて、娘に甘い僕が言っても説得力ないかもだけどさ、アハハ。
などと自虐めいたことを思っていると、
「待ってください」
怒るイルミネ校長をなだめようとした瞬間、インファランテの代表生徒が割り入ってくる。
声を発したのは、黒髪長身の真面目そうな少年だった。
「その……手前の不手際を謝罪しなければならないのは、こちらの方なのです。我々が待ち合わせ場所に留まらなかったのですから」
「えっと、キミは……」
「失礼、自己紹介が遅れました。自分はノイマン・ルアッツィオ。『インファランテ魔術学校』から派遣された視察団の副団長です」
礼儀正しくお辞儀し、自己紹介をするノイマンという少年。
挨拶一つとっても、外観通り誠実な人柄であることがよくわかる。
そんなノイマンの自己紹介に対し、セレーナが不思議そうに首を傾げる。
「"団長"……ではなく"副団長"なのですか? 貴方がリーダーだと言われても違和感はありませんが……。では、"団長"さんはどちらに? それに確か、インファランテからは六名の生徒が送られてくると伺っていたのですが……」
聞かれるや、ノイマンの身体がガチッと固まる。
まるで、聞かれたくないことをいきなり聞かれたようなリアクションだ。
「む……ぐ……それはその……商店街の辺りで逸れてしまいまして……」
「つまり……"団長"は迷子になったってことかい?」
僕が言うと、ル・ヴェルジュ側の金髪の少年が「ブハッ!」っと吹き出した。
「リーダーが迷子とか、如何にも"格下"のインファランテらしいマヌケっぷりだな! ギャハハハ!」
お世辞にも品性があるとは言えないような笑い声を上げる金髪の少年。
それを聞いたノイマンはなにも言い返せず、グッと下唇を噛む。
「黙れヴァーノン。懲りないという意味では、貴様も大概バカ者だろうが」
すると、すかさず同じル・ヴェルジュの黒髪の少女が少年を窘める。
続いてセレーナもツーンとした表情をしながら、
「そうですわよ。ついさっき、その"格下"とバカにした【賢者】にコテンパンにされたのは、どこの誰でしたかしら?」
「ん……ぐ……ッ!」
今度は金髪の少年の方がなにも言い返せないとばかりに、歯を食いしばる。
……キミ達、ここに来るまでになにがあったの?




