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第八十二話 三校邂逅


 僕が時計台に入る頃には、刻は既に夕暮を超え夜に差し掛かっていた。

 陽は完全に隠れて空は薄暗くなり、逆に月が少しだけ顔を出している。


「はあ……疲れたなぁ……せめて少しくらい休憩してから来れば良かったかも……」


 僕は疲労と魔力切れからずっしりと重くなった身体をなんとか前へ進め、時計台の廊下を歩いていた。


 時間がなかったから仕方ないとはいえ、我ながら無茶なスケジュールを組んだものだ……

 エリーゼさん相手に【雷の精霊(ファラド)】の力を試した後で、世界三大魔術学校の顔合わせに混じるなんてさ……

 いや、イルミネ校長に「ぜひ出席してくれ! いや、出席する義務がある!」なんて言われちゃったからなんだけど……


 ――でも、個人的に凄く興味はある。

 ル・ヴェルジュとインファランテの生徒が、どういう子達なのかっていうのは。


 ハーフェンとは異なる思想を掲げ、ハーフェンとは異なる理念の元で育てられたエリート魔術師。

 優秀であることは疑いようもないけど、どんな雰囲気を備えているのかーー


 特にインファランテに関しては、元々セレーナとコロナを入学させようと思ってたくらいだからなぁ。

 興味もひとしお(・・・・)だ。


 そんなことを思っている内に、僕は校長室の前までやってくる。

 そしてコンコンと扉をノックし、


「イルミネ校長先生、エルカン・ハルバロッジ、参りました。入室許可を願います」


 とびらの向こうでふんぞり返っているであろう彼女に、そう声をかけた。


「…………おぉ~~う……入って良いぞぉ~~……」


 やや遅れて、紛れもないイルミネ校長の返事が戻ってくる。


 ――あれ?

 なんか、声にいつもの覇気がなかったような……?


 僕は不思議に思いながらも「失礼します」と扉を開ける。

 すると、

 

「よぉ~~く来たの~~……エルカン・ハルバロッジぃ~~……」


 そこには、校長用の大きな机にぐったりと突っ伏し、死んだ魚のように動かなくなったイルミネ校長の姿があった。

 そんな彼女の両横には、天井まで届かんばかりに積み上げられた無数の紙束。


「ど、どうしたんですか!? イルミネ校長先生!?」

「い、いやなに、つい今しがた今日の書類仕事が終わったばかりでな……お主の"決闘"をお祭りに仕立て上げてからというもの、こんな毎日が続いておるのじゃよ……フフフ……妾、書類と向き合うの苦手なのに……」


 この人、今完全に僕とツァイス先生の"決闘"をお祭りにしたって自白したぞ。

 それで仕事が増えてるんだから、自業自得ですよ……イルミネ校長……


「【雷の精霊(ファラド)】に関する報告書類だけでも膨大なのに、無理に賑やかそうとするからですよ……。僕もエリーゼさんと特訓してきた後ですから人のことは言えませんが、大丈夫なんですか? この後はル・ヴェルジュとインファランテの代表生徒と会うんですよね?」

「フンっ、妾を舐めるでないぞ? この程度の疲れなど、六十年前に三日三晩かけてエンシェント・ドラゴンを倒した後の疲弊に比べれば、ヨユーもヨユーじゃ」


 うーん、さらっと物凄い自伝をアピールしてるけど、目の下に大きなクマを作っているせいで説得力が皆無だなぁ。

 ただでさえ見た目が幼女にしか見えないのもあって、色々心配になってくる。

 実年齢が百歳を超えた"おばあちゃん"ってことも考えると、余計に不安だ。

 "おばあちゃん、もう寝ましょうね"なんて言ったら魔術で吹っ飛ばされそうだから、口が裂けても言えないけど。


 そんなことを思っていると――


『――校長先生、セレーナ・ハルバロッジです。ル・ヴェルジュの代表生徒の方々をお連れしましたわ』


 コンコン、というノックの後に、扉の向こうからセレーナの声が聞こえてくる。


「おうおう、来よったか。良いぞセレーナ、皆様をお通しせよ」


 イルミネ校長の返事を聞くや、扉がゆっくりと開かれる。


 その向こうから現れたのはセレーナと――"灰色の魔導着(マント)"を羽織った男女二名の生徒と、"桃色の魔導着(マント)"を羽織った数名の生徒達。


 間違いなく――――『ル・ヴェルジュ魔術学校』と『インファランテ魔術学校』の生徒達だ。


 彼らを見たイルミネ校長はニヤリと不適な笑みを浮かべ、


「ようく来られたな、世界三大魔術学校の代表諸君。妾がこの『ハーフェン魔術学校』の校長、イルミネ・リューポルドじゃ。お主ら若人の来訪……心より歓迎するぞ」


次回のタイトルは『第八十三話 ハーフェンとル・ヴェルジュとインファランテ』です。


次回の投稿は12/4(水)17:00の予定です。

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