表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/95

第八十一話 特訓終わりに


「――――っ、はあああぁ~~~~……疲れた……」


 僕は真っ青な芝生の上に、どかっと倒れ込む。


 ――エリーゼさんと特訓を始めてから、気が付けばもう数時間が経過していた。

 太陽はもうほとんど沈み、辺りは薄暗くなり始めている。


「フフ、お疲れ様ですエルカンさん。初日にしては、中々の頑張りっぷりでしたよ」


 大の字になって倒れた僕の顔を、ひょこっと覗き込む耳長の女性。

 その両横には、フワフワと浮遊する可愛らしい甲冑姿の人形が二体。


 エリーゼさんである。

 そして彼女が操る《魔術式自動人形(マジック・オートマタ)》の"ルミオン"と"アリオン"。


 彼女は魔力を使い切って疲労困憊の僕とは対照的に、元気な様子でニコニコと笑っている。


「アハハ……エリーゼさんにそう言ってもらえると、だいぶ励まされますね」

「お世辞じゃありませんよ? これまでほとんど攻撃魔術を使えなかったなんて、正直信じられないくれいです。その証拠にホラ――この広い演習場が、クレーターだらけ(・・・・・・・・)になってしまっていますもの」


 そう言って、エリーゼさんは周囲を見回す。


 そう――昼間に僕が来た時には、基本的に何もないだだっ広い平原だった場所が、今や戦争でもあったのかと勘違いするほどに焦土と化していた。


 大小あらゆる陥没(クレーター)が地面をえぐり、芝生の一部は今だにパチパチと音を立てて燃え続けている。


 この全てが――――僕とエリーゼさんの特訓の爪痕だ。

 いや、もっと正確に言えば、ほとんど全てのクレーターを作ったのは僕である。


 僕の、【雷の精霊(ファラド)】から授かった力によるものだ。


 僕も寝そべったままその爪痕を見て、


「……ホント、信じられませんよ。昔はどんなに練習してもロクな攻撃魔術を使えなかったのに、今ではこんなに強力な攻撃魔術を乱発することが出来るなんて……。もっとも、エリーゼさんの《魔術式自動人形(マジック・オートマタ)》には一度も攻撃を当てられませんでしたが」

「フフ♪ それはそうです。私はこれでもAランクの冒険者ですし、そもそも【斥候(スカウト)】が簡単に攻撃に当たっていては仕事が成り立ちませんもの。

 それに、エルカンさんはまだまだ攻撃に無駄があります。というより、魔力をかなり消費するような攻撃魔術を乱発しすぎなんですよ。高威力な魔力に頼っている証拠です。感動するのはわかりますが、それではあっという間に魔力切れを起こして、戦闘継続どころか逃げることすらままならなくなってしまいますよ?」


 いやぁ、全くおっしゃる通りで。

 お陰で僕は現在、魔力消費し過ぎた代償にほとんど足腰に力が入らなくなっている。

 立つことも出来ないレベルで消耗しているのだ。


 少し時間が経てば多少魔力が回復して立ち上がる程度は出来るだろうけど、もしこれが冒険の最中で、しかもモンスターと対峙している時だったとしたら――今頃、とっくにモンスターの腹の中だろうな。


 もっとも――そんなに攻撃魔術を乱発してしまったのは、それだけエリーゼさんが上手(・・)だったからでもあるけど。


「アハハ、手厳しいですね。でもその通りだ。完全な修行不足です」

「明日からの目標は、私の"ルミオン"と"アリオン"に一度でも攻撃を当てることにしましょうか。"決闘"まで時間もないのですから、みっちりしごいていきますよ。覚悟してください♪」


 いつものようにニッコリと笑うエリーゼさんだが、今回ばかりはその笑顔が恐ろしい。


 でも――コレが僕の実力なのだ。

 甘んじて受け入れるほかない。


 もしこの力に甘んじて修行を怠り、"力"の持ち様を見失えば――【雷の精霊(ファラド)】の言ったように、刻印に喰い殺されるだろう。


 そんなことは許されない。

 僕はまだ"夢"を叶えていない。僕ら家族の"夢"は、まだ叶っていないのだから。


 セレーナとコロナのためにも、慢心なんてしていられない。

 そういう意味では、中途半端な実力を知らしめてくれるエリーゼさんは、良い先生役なんだろうな。

 現役教師の僕が教えてもらうってのも、変な感覚だけど。


 ――なんて思っていると、少しだけ魔力が回復して手足が動かせるようになる。

 僕はよろよろと起き上がって、


「そうですね、明日もよろしくお願いします。……さて、そろそろ校長室に向かわないと」

「ああ、ル・ヴェルジュとインファランテの生徒と会うんですよね? それじゃ私は、愛しのクレイチェット先生の研究室にお邪魔しようかしら♪」

「アハハ……どうかクレイチェット先生を、これ以上怯えさせないであげてくださいね……。それじゃまた明日、ここで同じ時間に」

「ええ、お疲れ様です。ハルバロッジさん」


 この後は、イルミネ校長に付き添ってル・ヴェルジュとインファランテから来る代表生徒と会う予定がある。

 もうヘロヘロに疲れたけど、これもハーフェンに在籍する教師としての、業務の一環。そう思えば仕方あるまい。

 そう自分に言い聞かせつつ、僕はフラフラと演習場を後にした。




   ◇    ◇    ◇



 演習場から離れていくエルカンの背中を、ヒラヒラと手を振って見送るエリーゼ。

 だが彼が離れていくと、ピタリと手を止め――


「……ハルバロッジさん、貴方は恐ろしい魔導士よ。本当は、貴方の攻撃魔術を回避するだけで精一杯だった――なんて言っても、信じてくれるかしら?

 もしその力に加えて、貴方が本来持つ弱体化(デバフ)を有効に組み合わせられるようになったら……

 私には少しの手助けと、祈ることしか出来ない。どうか……エルカン・ハルバロッジという人が、"力"の持ち様を見誤りませんように――って……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ