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第七十九話 好きな人

※追記:コミカライズ企画進行中です。

『マンガボックス』様にて連載予定ですが、詳細は後程。


「……なんのために、かぁ」


 ――そういえば、【雷の精霊(ファラド)】が言ってたっけ。


 血の繋がりは、人の子にとって無二の"絆"だって。

 それは祝福とも、呪いともなり得るって。


 そっか――――ジーネにとっては"呪い"なんだ。


 家族との"絆"が、この子を縛り付けているんだ。


 ……アタシの口からは、とても言えない。

 "親なんて無視して、生きたいように生きればいい"なんて――


 アタシは、その"祝福"を存分の享受してしまっているから。

 家族の"絆"の大切さを、よくわかってるから。


 でも――


「じゃあさ、ジーネはなんのために(・・・・・・)生きたいの(・・・・・)?」

「え……? そ、それは……」

「自分のために生きたい? それとも誰かのために生きたい? ジーネは、どういう風に生きられれば幸せ?」

「…………」


 問うてみる。


 しかし、彼女は答えてくれない。

 焦った表情でぐっと口をつぐんだまま、黙りこくってしまう。


「ああ、違うの! 別に責めてるワケじゃなくってぇ……! えっと、そんなに深く考えなくていいよ。ただ、ジーネはどうしたいのかなって……」

「……自分でも、わかりません。ボクはただ、もうなにもかもがイヤで……」

「逃げ出したい? キミを束縛する物から解放されたい? そう思うのは全然悪いことじゃないよ。誰だって、イヤな物はイヤなんだもん。やりたくないことは、やりたくないんだもん。ただ……ジーネは、逃げ出した先になにを見ているのかなって」


 そう言うと、ジーネはハッとしたようにアタシの顔を見つめる。


「逃げ出した……先……?」

「う~んと、なんていうかさ、ジーネは真面目っていうか"良い子"なんだよ。素直で、優しくって……だから"逃げ出すことは悪いこと"って、無意識に思っちゃってる。でもイヤならイヤって言えばいいし、全然投げ出しちゃってもいいと思うんだよね。押し付ける方が悪いんだし。

 ……でもさ、ただ目の前から目を背けて逃げるのと、なにか目的を持って逃げ出すのとじゃ、ちょっとだけ意味が違う気がするんだ」


 アタシはくるっと回ってジーネに背中を向け、沈みかけの太陽を見る。


「例えば、アタシはパパのために生きてる。パパの"夢"を叶えるために生きてるんだ。だからパパと一緒にいて、パパのためになにか出来れば、それで幸せ。

 ジーネからすれば、"家族のために"なんて理解できない生き方だと思うよ。でもね、アタシはパパのためなら死んでもいいって、本気で思ってる。パパと――エルカン・ハルバロッジという人と一緒にいられるなら、他にはもうなにもいらない。

 だからさ、パパとの時間を邪魔するモノには、アタシは容赦なく"イヤ!"って言うよ」


 あんまりイヤイヤ言うとパパが怒るから、言わないけど。とついでに言い加える。


「だから、アタシにとって【賢者】でいることは手段(・・)でしかないんだ。パパと一緒にいて、パパの夢を叶えるために通った過程にすぎないんだよね。

 ……ジーネには、きっとハーフェンの皆やアタシが"自由"に生きてるように見えたのかもしれない。でも、少なくともアタシ自身は自由かどうかなんて興味ない。目的のために生きられるなら、不自由であっても文句なんてないよ。そういう意味では、アタシも大概縛られて生きてるのかも。でも……しょうがないよね、そういう風に生きるって姉妹(セレーナ)と決めたんだから」


 個人的には、むしろパパに束縛してほしいくらいなんだけど?

 ただ、パパってそういうタイプじゃないしなぁ。

 恋の押し引きって難しい……


 なんて思っていると


「……羨ましい、です」


 ジーネはポツリと呟いた。


※追記:コミカライズ企画進行中です。

『マンガボックス』様にて連載予定ですが、詳細は後程。

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