第七十八話 なんのために生きてるの?③
「"希望の星"……?」
「はい……その呼ばれ方は、ボクにとって呪いのようなモノですが……」
とっても暗い表情で語るジーネ。
――"希望の星"。
この子がインファランテでそう呼ばれる理由は、なんとなくわかる気がする。
だってハンパじゃないもん、この子の魔力量。
もしコレで実力が伴えば――
「コロナお姉さまなら、もうお気付きかもしれませんが……今ボクは、インファランテで最も【賢者】に近い存在と言われている――と言ったら、驚きますか?」
「……ううん、全然。"あ~、やっぱりな"って感じ。キミってば凄い魔力量だもん。むしろ納得っていうか」
そう、コレで実力が伴えば、この子はアタシやセレーナと同等以上かもしれない。
少なくとも、将来を期待されているのは間違いないと思う。
「アハハ、お姉さまにそう言ってもらえると照れますね。
……そうなんです。飛び抜けた天才の少ないインファランテで、ボクはその期待を一身に受けています。万年格下という汚名を打破し得る、"希望の星"として」
ジーネの口調には、言葉の内容とは裏腹に自嘲にも似た笑いが混じる。
そっか、彼女は――それがイヤなんだ。
もしこれが他の魔導士だったなら、喜んでその呼び名を受け入れるんじゃないかな。
本当に【賢者】になれたなら、魔導士として最高の地位と名誉が手に入る。
インファランテでの立場だって不動のモノになるはず。
実際、ハーフェンで【賢者】になったアタシやセレーナは【伝説の双子の大賢者】なんて呼ばれて有名人になったワケだし。
「ジーネは、それをプレッシャーに感じてるの?」
「そうですね、周囲の視線が怖くなる時もあります。"お前は学校の希望なんだ。だから皆を裏切るな"って……そういう目で見られるのが、耐えられなくなる日もあります」
「そんなの、学校側の身勝手じゃん! 自分達は才能がないからって言い訳して、ジーネに責任を押し付けてるだけだよ! サイッテー!」
「……ええ、それが"出来る者"の真っ当な意見なんだと思います。これもインファランテから"天才"が離れていく原因の一つかもしれません。
ですが、今のインファランテはそれだけ追い詰められているんです。世界三大魔術学校の中でも最大の生徒数を誇るなどと言われていますが、分校も含めて入学してくる生徒の数は年々減る一方……。新しい白魔術の開発も頭打ちで、ここ数年は成果らしい成果を出せていません。
このままでは万年格下どころか、学校の存続すら危ぶまれます。だから【賢者】を輩出すれば、コロナお姉さま達を生み出したハーフェンのように状況を好転できる。そう思い込んでいるのです。それが……そんな有り様が、インファランテの現状なんですよ」
「で、でも……それがジーネを困らせる理由にはならないよ! そんな風に強要されたって、ジーネにとって良いコトなんて一つもない! ――そうだ! ジーネもハーフェンに転校しちゃえばいいんだよ! そうすれば誰にも強要されず、自由に魔導士として生きられるよ!」
アタシがそう言うと――――彼女は、フルフルと頭を横に振った。
「それは……出来ません。ボクはインファランテから離れられないんです。
何故ならボクは――――"インファランテ魔術学校校長"の、実子なのですから」
――アタシは、言葉を失う。
そして、ようやく腑に落ちた。
どうしてインファランテの生徒達が、あそこまで血相を変えてこの子を探していたのか。
ジーネは、アタシを目をまっすぐ見据える。
「……正直に言えば、ボクはインファランテが嫌いです。魔導士も、魔術も、校長も、全部嫌いです。魔術に関わっている限り、ボクに自由なんてないんですから。
コロナお姉さま……教えてください。どうすれば、ボクはお姉さまみたいに自由になれますか?ボクはどうしたらいいですか? ボクは……なんのために生きてるんですか……?」




