第七十五話 ジーネとインファランテ
アタシはジーネを連れて、ハーフェン中を見て回った。
流石に学校自体が都市化しているのは珍しかったようで、彼女はずっと目をキラキラさせてたよ。
行ける範囲で商店街をぐるっと巡って、その間に魔術やハーフェンに関することを色々話して――
アタシがいると目立つから《サイレンス》で気配を消しながらの案内だったけど、その分どこへ行っても静かに見て回れたのは良かったかな。
本当なら大手を振って一緒に見て回りたかったけど、今回はお忍びでって感じ。
そうして最後に、アタシ達の学び舎でありお家でもある時計台へと向かう。
「す、凄いですね、ハーフェンは……活気があって、もう全部が全部"魔導士の街"って感じです」
肩を並べて歩いてる途中、ジーネが「はふぅ~」とため息交じりに言った。
「そりゃ、魔術学校が街になってるワケだからねぇ。それに活気があるのは、校長先生がパパの"決闘"やら【精霊】やらを宣伝文句にしたお陰だよ。生徒達はみ~んな浮ついちゃって、お祭り気分って状態。っていうか、確かインファランテも似たようなモンじゃなかったっけ?」
よく覚えてないけど、と思いつつ聞くと、ジーネは苦笑する。
「アハハ、それでもこちらとは随分雰囲気が違いますよ。インファランテはそもそも"学校が都市化している"のではなく、"都市の中に学校がある"んです。『ステラヴァ』っていう大きな街なんですが、インファランテはあくまでその中の一角なんですよ。街には冒険者ギルドなんかもあるので……やっぱり雰囲気は違いますね」
「へぇ、そうなんだ。でも冒険者ギルドが同じ街にあるのは面白そう! アタシもインファランテに行ってみたくなっちゃったな!」
魔術学校と冒険者ギルドが一緒とか、パパが聞いたら喜びそう!
いつか"冒険のついで"って名目でデートに誘ってみよ!
そんなことを呑気に考えていると、
「ええ、機会があればぜひ。
――でも……あそこは、コロナお姉さまが思っているほど良い所ではないかもしれませんが……」
「ふぇ? そうなの?」
「あっ、い、いえ! 長く居ると慣れてしまって……! ボクはコロナお姉さまと歩けるなら、どんな場所でも楽しいと思います!」
お、嬉しいこと言ってくれるな~♪
流石はアタシの可愛い妹分。
……でも、なんだろ?
今一瞬、凄く悲しい顔をしたような……?
――そんな会話をしている内に、アタシ達二人は時計台の前までやってくる。
だけど――正面の入り口を見た瞬間、
「! 隠れて!」
「え? うわぁ!」
アタシはジーネの服を掴んで引っ張り、一緒に草陰へと隠れる。
「ど、どうしたんですかお姉さ――むぐっ!?」
「シッ、ほらアレ」
ジーネの口元を右手で覆うと、左手で草陰の向こうを指差して見せる。
アタシが指差す先には――ジーネと同じ淡い桃色の魔導着を羽織った魔導士達の姿。
数は全部で五人ほどで、中にはアタシにジーネの行方を聞いてきた真面目そうな男の姿も。
「み、皆! どうしてココに……!」
「それは、どうせ最後には時計台に来ると思ったからだろうねぇ。確か予定だと、夕方には校長先生と会う手筈だったっけ?」
まあハーフェンはその立地の関係上、どんなルートを辿っても必ず中央の時計台に来れるようになっている。
そうでなくても、学び舎である時計台は広いし大きいし目立つ。
土地勘がなければココで待ち構えていればいいというのは、あながち間違いでもない。
たぶん、アタシが一緒にいなければジーネはこの場所で捕まってたかも。
「……どうする? ここであの人達と合流しちゃう? よっぽどなおバカさんでなければ、ハーフェンの象徴たる時計台の前で問題起こしたりしないと思うなぁ。アタシが仲裁に付いてっても良いし」
ま、世の中どんな人がいるかわかんないけど?
もしかしたらセレーナが担当したル・ヴェルジュの生徒は、いきなり喧嘩吹っ掛けてるかもしれないしぃ?
な~んて、そんなワケないかぁ、ニャハハ。
「あ……う……そ、それは……その……」
アタシが聞くと、やっぱりイヤそうな顔をするジーネ。
どうやら、まだあの人達には会いたくないっぽいね。
「……オッケー、それじゃあもう少しハーフェンを見て回ろっか。付いてきて、穴場を教えてあげる!」
「あ、は、はい!」
ジーネの手を引っ張って、アタシは走り出す。
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