第七十四話 コロナお姉さま
――その響きは、アタシの心に深く突き刺さった。
コロナお姉さま。
ああ……なんて良い響きぃ……
お姉さま――お姉さまだって――!
これまで"コロナ様"とか"【賢者】様"って呼ばれることはあったけど、そんな風に呼ばれたことはなかったよ!
しっかり者で世話焼きなセレーナは、後輩の生徒達に"お姉さま"って呼ばれることもあったけど……思えば、アタシは一度も呼ばれたことない……気がする!
そりゃセレーナと比べれば、アタシはお姉さんっぽくないかもしれないけどさぁ~……
思い出そうとすればするほど、"お姉さま"なんて呼ばれた記憶ないかも……ううぅ……
でもでも、いざこうして呼ばれると"キュン"と来ちゃうね、コレは!
「お、お姉さまだなんてぇ~♪ キミってば可愛いなぁ~♪
オホン! アタシの名前はコロナ・ハルバロッジ! これからは、アタシのことをお姉ちゃんだと思っていいからね!」
バーン!と胸を張って自己紹介するアタシ。
でも、アタシの名前を聞いた瞬間にジーネの目の色が変わった。
「コロナ……ハルバロッジ……? で、ではまさかお姉さまが、【精霊】と戦って実力を認められ、【伝説の双子の大賢者】として世界中に名を轟かせた――!」
「そうそう、その双子の内の1人! そんでアタシのパパが、【精霊】から力を授かったエルカン・ハルバロッジその人だよ♪」
説明するや、ジーネはアタシの両手をガッチリと握ってくる。
「か、感激です! 憧れの【伝説の双子の大賢者】がお姉さまだったなんて! あ、握手してください! って、あっ、も、もう握っちゃって……! ご、ごめんなさい!」
顔を真っ赤に染め、瞳をウルウルさせて、急いで手を放すジーネ。
か…………可愛いぃ~~~~♪
なに、この子!? チョー可愛いんですが!?
まるで子犬というか小動物というか、とにかく可愛い! すっっっごい守ってあげたくなる!
まさに――そう! "妹"!
アタシに妹が出来た気分!
セレーナとアタシは双子だし、出生時のこととかわかんないから、どっちが姉でどっちが妹とかあんまり考えなかったんだよね。
考えても仕方なかったっていうか、そこを掘り下げるとパパが困りそうだと思ってたし。
だから、これは新鮮!
"妹"! うん、イイね! すっごくイイよ!
"妹"最高!
「ジーネは可愛いなぁ~♪ そんな気にしなくても良いからさ! アタシも妹が出来たみたいで嬉しいよ~♪」
ジーネに抱き着いて、わしゃわしゃと頭を撫でる。
「あ……ありがとうございます、コロナお姉さま……」
相変わらず頬を赤らめ、少しだけアタシに身体を預けてくるジーネ。
パパに甘えるのもいいけど、こうして誰かに甘えてもらうのも悪くないかも~♪
「キミ、まだハーフェンに着いたばっかりなんでしょ? それじゃあ、今から学校の中を案内してあげるよ!」
「え? あ、ありがとうございます。でも、その……」
「? どうしたの?」
「コロナお姉さまは、聞かないんですか? どうしてインファランテの生徒であるボクが、同じインファランテの生徒に追いかけられていたのか、とか……」
彼女は不安そうな顔で聞いてくる。
それはまあ、訳ありだったっぽいし?
気にならないこともないけど――
「ジーネは、アタシに話したいの?」
「い、いえ、それは……」
「アタシは、別にどっちでもいいんだ。ジーネが話したくなったら話せばいいし、話したくなかったら話さなくていい。ジーネだって面倒くさいのはイヤでしょ? アタシもおんなじ! それにアタシのお仕事は"インファランテの代表生徒を案内すること"だから、これでお役目も果たせるしぃ?」
エヘヘと笑って、アタシはジーネに言う。
この子がなにか"悪いこと"をしたワケじゃないってことは、アタシでもわかる。
だったら、ジーネを責めるような真似はしたくない。
アタシは、ジーネが気に入っちゃった。
だからこの子には、出来るだけ笑っていてほしいなって、それだけ。
立場なんて、アタシにはどーでもいいもん。
「コ……コロナお姉さま……!」
アタシはジーネの手を掴むと、小走り歩き出す。
「ホラ、こっちこっち! さっきの人達に見つからないように、こっそりハーフェンを見て回ろ! 大丈夫! 道案内は、この【伝説の双子の大賢者】のコロナお姉さまに任せなさい♪」




