第七十一話 プライドをかけて③
※更新時にタイトルが『プライドをかけて④』になっておりました。
『プライドをかけて③』が正しいタイトルです。
申し訳ありませんでした。
『ハーフェン魔術学校』には、それはもう幾つもの"練習場"があります。
そう、魔術を練習するためだけの場所。
一言で魔術と言っても様々な種類があるワケですから、練習場は広場だったり城郭の上だったり、あるいは時計台の中の練習室だったりと多種多様です。
中でも、私のような高位魔導士が大規模な魔術を練習できる場所は"演習場"と呼ばれて、ひときわ大きな広場になっていますわ。
そこなら遺憾なくS級の魔術を放てるのですが……生憎と今日はお父様がそこを使うご予定。
ですので――私達は、学校を囲む城壁の上までやってきます。
足の裏に伝わるゴツゴツとした感触と、地上よりも強めに吹き付ける風。
場所は城壁上の通路の中でも、比較的幅が広い場所を選びました。
ここならば、無関係の人々が巻き込まれることはないでしょう。
「へっへっへ……バカだよなぁ、アンタも。見栄を張らなきゃ、痛い目を見ずに済んだってのに」
ヴァーノンは、それはもう気味が良さそうに下卑た笑い顔を見せつけてきます。
相変わらず、この男は"自分の方が魔導士としては上"だと思い込んでいるのでしょう。
なんというか、おめでたい頭をしていますわね。
呆れてモノも言えませんわ……
本当に、お父様の爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいです。
「言っとくが、"勝負"を吹っ掛けてきたのはソッチだからな。手加減なんてしねーぞ」
「あら、それは望む所ですわ。そうでなくては、私が一方的な力の差を見せてあげられませんもの」
私が答えると、"ギリギリギリッ!"とヴァーノンが激しく歯軋りを鳴らします。
人がキレる時って、こんな音がするんですのね。
そんな彼を見ていたダニエラは、一歩下がって城壁の手すりに身体を預けると、
「……では、私は見物させてもらうよ。【精霊】とすら渡り合った【伝説の双子の大賢者】の実力――存分に見せて頂こう」
「ふふ、とくとご覧あれ♪ ――ですが本当は、"お父様の力"を見て頂くのが一番なのですけれど」
私はクスっと笑って答えると、
「では――――いつでもどうぞ、"自称格上"さん。気持ちばかり手加減してあげますわ」
ヴァーノンに向けてウィンクし、人差し指で"チョイチョイ"と手招きします。
途端――
「――――っンのクソ雑魚がァッ!!! このヴァーノン・アズナヴール様をコケにしたことォ、死んで後悔しやがれッ!!!
"森羅万象を燃やす獄炎の龍! 大気を焦がす灼熱の波浪! ヴァーノン・アズナヴールの名の下に、我が眼前を焦土と化せ!" ――――《紅炎龍》ッ!!!」
ヴァーノンが攻撃魔術を詠唱すると――彼の足元から燃え盛る豪炎が出現し、身体の周りを取り巻くようにうねりを上げます。
その炎は瞬く間に"龍"の形へ変貌し、
『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』
轟きを上げながら私へ襲い掛かってきます。
これが、ル・ヴェルジュの魔導士の魔術――
級で言えば恐らくA級相当でしょう。
ハーフェンで教えられる魔術とは性質が違いますが、十二分に強力な攻撃魔術であることは疑いようもありません。
ですが――――【雷の精霊】とは比べ物になりませんわ。
「――"万斛ばんこくの災厄を退けし力よ、あらゆる攻撃を防ぐ堅牢なる盾、我が名の下に、惨害からこの身を護り給え"――――《プロテクション・イージス》」
私は防御魔術を詠唱します。
そう――――あの【雷の精霊】の放った一撃からお父様を守り切った、"最強の盾"を。
『グォオオオオオオオッ!!!』
業火の牙で私に突進してきた炎の龍は、雄叫びを上げながら魔術の盾に突貫します。
そして――――魔術の盾は、まるで苦も無く炎の龍を防ぎ切ってしまいました。
余韻すら残す暇なく、炎の龍は消滅してしまいます。
「な……ッ!?」
「興味深い魔術ですわね。ハーフェンの魔術とは性質が異なりますわ。ですが……こんなものですの?」
信じられない、という顔をするヴァーノンに対して、傷一つない盾の陰でニヤリと笑う私。
この程度なら、何発食らおうが平気ですわね。
「な――舐めんじゃねェッ! 今度は全開でいくぞ!!!
"生命の覇者たる龍の息吹! 空をも燃やす紅蓮の熱線! ヴァーノン・アズナヴールの名の下に、破壊の熱焔を轟かせ給え!!!" ――――《龍焔破》!!!」
ヴァーノンは再び詠唱し、右腕を私へ向かって突き出します。
すると今度は、炎が腕を包んで巨大な”龍の頭”を形作り、その龍が大きく口を開けたかと思うと――瞬間で魔力を集束し、”炎熱線”を吐き出しました。
放たれた熱線はとてつもない魔力を有し、魔術の盾へと襲い掛かります。
石畳の地面は焼けただれ、魔術の盾で防いでも尚呼吸すら困難に感じる超高温が私を包みます。
――なるほど、大した威力ですわ。
これならば、S級の攻撃魔術と言われても信じます。
ハーフェンの生徒でも、この一撃を防げる者は多くないかもしれません。
『ル・ヴェルジュ魔術学校』の代表生徒の面目躍如といった所でしょう。
認めざるを得ませんわ。
――――けれど――――ええ――――やっぱり――――
――――こんなものではありませんでした。
【雷の精霊】が最後に放った、あの一撃は。
魔術の盾と競り合う炎龍の息吹。
どこまでも注ぎ込まれる魔力。
拮抗する魔力と魔力。
弾こうとする魔盾と、穿とうとする熱線。
もはや、どちらの魔力が持つかの根競べ。
そして先に魔力が枯渇し、根負けしたのは――――
「――――ッはァ!」
ヴァーノンが息切れを起こし、熱線が途切れます。
同時に魔術も解除され、右腕から消失する"龍の頭"。
「……あら、意外に不甲斐ないんですのね♪」
私は真っ赤に焼けて白煙を噴き上げる魔術の盾を展開したまま、微笑して言います。
こっちは、まだまだ耐えられそうだったのですけれど。
「ゼェ……ゼェ…………なっ、何者だァ、テメエ……ッ!?」
「そんなの、貴方がご自身で言っていたじゃありませんか。
私は――"『ハーフェン魔術学校』が二百年ぶりに輩出した【賢者】"ですよ。
さあ、それでは…………"私の番"ですわね――!」
次回のタイトルは『第七十二話 ヴァーノンの屈辱』です。
次回の投稿は11/4(月)17:00の予定です。
11月は少し投稿頻度を上げるつもりです。
上げられたらいいな……と、思っています。
それから活動報告にて、新たに口絵のラフ画を公開しております。
仲睦まじいハルバロッジ親子の姿が描かれているので、ぜひご覧下さい。
イラストレーターtorino様に感謝です!




