第六十九話 プライドをかけて①
「………………あぁん?」
ヴァーノンという魔導士は、私をギロリと睨みます。
品性の欠片もない目つき……
魔導士を名乗るくせに、まるで野犬のようですわ。
私の一番嫌いなタイプの男です。
出来れば関わりたくないのですけれど――――ハーフェンをそこまでバカにされてしまっては、黙っていられません。
「セ、セレーナ様!」
「貴方はお下がりなさい。この男とは私が"お話"します」
ヴァーノンと言い争っていた生徒を引かせると、私は前へと歩み出ます。
周囲の野次馬の目も一斉にこちらに向き、より一層ザワッと色めき立ちます。
「なんだぁ、お前? どっかで見た顔な気もするが……お前もハーフェンの生徒か?」
「ええ、初めまして、ヴァーノン・アズナヴールさん。貴方が『ル・ヴェルジュ魔術学校』からいらした使者の方ですわね?
私はセレーナ・ハルバロッジ。お見知りおき頂かなくて結構ですわ」
私が名乗ると、ヴァーノンは少し驚いた顔をします。
「へぇ……いや、いやいや、知ってるぜ。思い出した。
セレーナ・ハルバロッジ――『ハーフェン魔術学校』が二百年ぶりに輩出した公認の【賢者】……。オマケに最近じゃ、【精霊】を見つけて戦ったとかなんとか……
ハーフェンの校長が会見した時に、たしかアンタも映ってたよなぁ」
あらあら、有名になりすぎるのも考えものかしら。
思わずため息が漏れそうになる私。
「……『ル・ヴェルジュ魔術学校』から視察の方々がいらっしゃると聞いて、お出迎えに上がりましたが――なにやら聞き捨てならない言葉が、聞こえた気がするのですが?」
そう尋ねると、ヴァーノンは「フンッ」と不機嫌そうに鼻を鳴らします。
「別に、本当のことを言ったまでじゃねーか。ハーフェンがル・ヴェルジュよりも格下だってよぉ。なら、格上には頭を下げるべきだ、そうだろ?
まあ、出迎えに【賢者】を寄越した所くらいは褒めてやる。つまり俺の方が【賢者】より上だと認めて――」
「お話になりませんわね」
聞いていて不快どころか、なんだか哀れみの感情まで湧いてきました……
私は今度こそ「はぁ~」と深いため息を吐きます。
「ル・ヴェルジュの生徒は”誇り高く他者を見下す傾向にある”と聞いたことがありましたが……聞きしに勝る酷さですわね、コレは。目の前の魔導士との実力差も推し量れませんの?」
「なっ、なんだと……!?」
「そもそも誇りの高さというのは、万事において自らをより高みへ登らせるための戒めとして高く掲げるモノであって、他者を見下すためのモノではありません。これでは、対等であると認めたからこそ私を出したハーフェンが恥をかきますわ」
本当に時間の無駄でしたわね。
これでは、お父様と何気ないひと時を過ごした方が一千億倍くらい有意義でしたわ。
正直、あの『ル・ヴェルジュ魔術学校』の生徒がどれほどのモノなのか興味はあったのですが。
校長先生には申し訳ありませんが、これで頭など下げていてはこちらの品格も地に落ちてしまいます。
ここは丁重にお引き取り願いましょう。
例え、実力行使になったとしても。
「こ……こっの……! 言わしておけば、ハーフェンの雑魚風情がァッ!!!」
ヴァーノンは額に青筋を立てて激怒し、全身から魔力が溢れ出ます。
なるほど――魔力の量だけはバカに出来ないのかもしれません。
曲がりなりにも魔導士の”血統”を持つ者、ということでしょうか?
ですが、これでは”なんとかに真珠”ですわね――
怒りに任せて攻撃魔術を発動する構えを見せるヴァーノンに対し、私も防御魔術を詠唱しようとします。
周りにはまだまだ野次馬の方々がおりますし、オマケにここは商店街の中。
A級以上の攻撃魔術など使われては、怪我人が出てしまいます。
それは防がなければ。
ええ――完璧に防いで見せましょう。
かつて【精霊】の一撃からお父様を守った者として。
そして、ハーフェンを代表する【賢者】のプライドにかけて。
そう思って、詠唱を口に出そうとした――その瞬間でした。
「…………まったく、彼女の言う通りだ。恥を知れ、このバカ者が」
そんな”女性の声”が、私達の動きを止めました。
12月発売予定の書籍版の表紙&キャラ立ち絵がツギクルブックス編集様より届きましたので、近々活動報告にて公開予定。
キャラも表紙も素晴らしい出来栄えなので、ご期待ください。
(本当に「すげぇ……」ってなりました)
イラストレーターtorino様、及び編集様に感謝!




