第六十四話 接触
――僕が『ハーフェン魔術学校』の教師として教鞭を執り始めて、早二週間が経過した。
これまで"仕事としての教員"というのは想像したことがなかったのだけど――まあ、大変だというのは身に染みたよ。
日々の授業計画や、それに使う資料の収集、他にも生徒個人個人の勉強を手伝ったり相談に乗ったり――――
……これでも、僕はまだ自分のクラスとか受け持ってないから、楽な方らしい。クレイチェット先生曰く。
……でも、やりがいはあるなぁ。
僕に「魔術を教えてください」って無邪気に聞きに来たり、真剣な眼差しで授業を受ける生徒達。
なんだか、随分と信頼されてるみたい。
自分を必要としてくれる子達が、こんなにもいるとは思ってなかった。
"【精霊】に認められた"っていう下駄を履いた部分も確かにあるけど――それでも、嬉しい。
――さて、そんなこんなで魔術学校教員生活二週間目に突入した僕は、
「お主らの”決闘”の日時が決まったぞ。今から丁度一週間後じゃ」
校長室に呼び出されるなり、イルミネ校長から唐突にそんなことを告げられた。
ちなみにツァイス先生も呼び出されていて、僕の正面のソファーに無言のまま腕を組んで座っている。
気まずい……けど、何を今更って感じでもある。
「……え、えらく急に決まりましたね……いや、覚悟はしてましたけど……」
「当たり前じゃ。これでも先延ばしにしたくらいなのじゃぞ? 面倒な手続きやら広報活動などがなければ、もっと早く出来ていたモノを」
ぷりぷりと不服そうに頬を膨らませるイルミネ校長。
――ん?
と、僕はイルミネ校長の言葉に違和感を覚える。
「手続き――はわかりますけど、”広報活動”ってどういうことですか」
「ん? そりゃ世界中の魔術界隈に”特大の催しをやるから絶対観に来るんじゃぞ♪”って宣伝しまくった活動のことじゃが?」
「………………はい?」
僕は猛烈に嫌な予感がした。
「あの……すみません、僕とツァイス先生は”決闘”をする……んでしたよね?」
「そうじゃよ?」
「じゃあ、なんで”決闘”が” 特大の催し”にすり替わってるんですか?」
「別にすり替えてはおらんよ。ただ”決闘を興行化して魔術師達を呼び込もう”ってだけの話じゃ。
そうすればハーフェンの権威を世界に見せ付けることも出来るし、知名度が上がって入学希望者も増えるし、来訪者がお金を落としてくれるから財源も潤うし――ホラ、一石三鳥じゃろうて!」
――――――ハア~~~~…………
マジかこの人……
僕らを体の良い見世物にする気満々じゃん……
豪快な部分と利に賢しい部分が両立している辺り、流石は天下の『ハーフェン魔術学校』の校長って所か……
「……ツァイス先生は良いんですか、こういうの……?」
「僕は貴君と戦えればそれで良い。それに……見物人が多いのは、僕にとっても願った話だ」
ツァイス先生は腕を組んで目を瞑ったまま、一切の動揺なく言い切る。
ああ……確かに貴方からすればそうなるのかもしれませんね……
元々自分が勝つのが前提で、それを大勢に見せ付ければ、自身の栄光はより強固なモノとなる。
だから”決闘”のイベント化に興味は無いが、大勢が見ている前で【精霊】の力を持つ僕を打ち負かせれば、それに越したことはない。
――そう考えてるんでしょうねぇ。
プライドの塊みたいなツァイス先生のことだから。
「おっと、”ぎゃらりー”が増えたからとて、今更止めるなどと言い出してくれるなよ? そんなことをすれば――――あの二校が許すまいて」
「あの二校……? ――って、まさか……!」
「おうとも、早速”接触”を図ってきたのじゃよ。
――『ル・ヴェルジュ魔術学校』と『インファランテ魔術学校』の二校が、な」




