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第六十二話 下降支援魔術①

※【ご報告】ツギクルブックス様より書籍化が決定致しました。 2019年12/10発売です。


「――ハイ♪ ではこれから、お父様――もといハルバロッジ先生が、【雷の精霊】を圧倒した下降支援魔術を見せて下さいます♪ 皆、心して見るように♪」


 満面の笑みでセレーナが言うと、「ハイッ!!!」という何十人分の威勢の良い返事が戻ってきた。


――ちなみに、僕達は現在大教室を離れ、時計台の裏庭まで来ている。

 裏庭は何十人もいた生徒全員が入っても余裕があるほど広く、普段から魔術の授業などにも使われていることがわかる。


 ……で、だ。

 セレーナの提案で、僕の初授業はいきなり”エルカン先生の下降支援魔術鑑賞会”になった。

 つまり、”下降支援魔術のエキスパート”等と呼ばれている僕の魔術を生徒皆に見てもらう、という。


 どうしてこうなった……

 僕は純粋に生徒と距離を縮めるために、質疑応答に終始したかったのに……


「……どうしてもやるのかい、コレ? 僕は皆との距離を――」

「ううん、コレが一番だよパパ。だってホラ、見なよ」


 コロナが生徒達を一望して言う。

 ――すっごくキラキラした、期待の眼で僕を見てくる生徒達。

 誰も彼もが、僕が魔術を使う光景を今か今かと待ちわびている感じだ。


「で、でもさ、これなら【雷の精霊(ファラド)】から授かった雷の魔術を見せた方が、皆喜ぶんじゃ?」

「確かにソレはソレで皆見たがるでしょうけれど、今回質問されたのはお父様の下降支援魔術(・・・・・・・・・・)についてですわ。お父様が望んでいたのは、質疑(・・)に対する応答(・・)なのですわよね」


 クスっと小悪魔的に笑うセレーナと、うぐっと返しに詰まる僕。


 いやまあ、確かにそうなんだけど……そうなんだけどさあ……


「ハア……セレーナも僕の扱いが上手くなったねぇ……」

「当然ですわ。お父様の娘なのですもの」


 セレーナは自慢気に胸を張る。


 やれやれ、ここまで来てグズるのは大人らしくないよなぁ。

 まあ……やるだけやってみるか。


 ただ、その前に――


「よし、それじゃあ皆に僕の下降支援魔術を見てもらうとしようか。

 でも――その前に、まずは『ハーフェン魔術学校』の生徒であるキミ達の下降支援魔術を見せてもらいたい。それで、僕の下降支援魔術が参考になるかどうかハッキリわかるからね。

 ――シルエラ、質問者であるキミに頼めるかい?」

「えっ!? あっ、は、ハイ!」


 指名すると、シルエラは前に出る。

 僕はキョロキョロと周囲を見回して、何か弱体化出来そうなモノを探し――


「そうだな、あの空を飛んでいる小鳥に”速度低下”の弱体化(デバフ)をかけてみてくれ。動く速さ(スピード)が変わるのは、誰の目にもわかりやすいからね」


 上空をグルグルと飛び回る小鳥を指差す。


 例えば攻撃力や防御力の弱体化(デバフ)だと、実際に攻撃を受けたり攻撃を加えたりないと第三者からは判別が付きにくい。

 その点、速度低下ならおよそ何割低下したのかある程度は把握出来る。


 僕が『ダラム鉱山』でアダマンタイトの硬度を下げたみたいに、具体的に破壊出来るモノがあれば良かったんだけど……生憎と、今回はそんな準備もないしね。


「セレーナ、コロナ、もし小鳥が落ちてきたら受け止めてあげてね」

「かしこまりましたわ」

「りょ~かい~♪」


 念のため二人に言うと、シルエラを僕の傍に立たせる


「全力で頼むよ。小鳥のことは二人に任せて」

「はっ、ハイ!」


 シルエラは懐から小さな杖を取り出し、息を吸って構える。


 ……思えば、七年前にセレーナとコロナが僕にC(クラス)の攻撃魔術を見せてくれた時もこんな感じだったな。

 開けた場所で、目標を定めて、僕が彼女達の傍に立って……

 ここの地面は綺麗な芝生で覆われてて雑草は生えてないけど、なんとなく雰囲気は似てるかも。


 僕が既視感と懐かしさを覚えていると、シルエラは詠唱を始める。


「――"万物に流れし普遍の理気よ、暗く濁りし陰の下降、我が名の下に、彼の者の動きを鈍らせ給え"――――《ディレイ》!」


 シルエラの下降支援魔術が発動すると――――小鳥が一瞬、黒紫色の膜に覆われる。

 同時に飛行の挙動が不安定になり、明らかに羽ばたくペースが鈍くなる。

 なんとか、ギリギリで飛べている感じだ。


「……だいたい、一割くらいの速度低下かな?」

「ハ、ハイ……それくらいは動きを阻害出来ています」

「もしかすると、学校ではあまり深く下降支援魔術は教わってない?」

「……正直に言えば」


 僕の問いかけに対し、気まずそうに答えるシルエラ。


 いや、彼女を責めるつもりは全然ない。

 むしろこれだけステータスを下げられれば、下降支援魔術は十分使えていると言って良い。


 何故なら、それで必要十分だから。

 逆を言えば――それ以上の弱体化(デバフ)は、価値性が認められていないのだ。


 下降支援魔術の上達に時間を割くくらいなら、攻撃魔術を練習した方がマシ。

 ほとんど全ての魔導士は、そう考える。


 ましてや、ここは世界三大魔術学校の一つたる『ハーフェン魔術学校』。

 エリート魔導士が進んで下降支援魔術を学ぶ必要性は薄い。


 それが普通なのだ。

 それは否定出来ないし、良く理解も出来る。


 だけど――


「――うん、ありがとうシルエラ。

 それじゃあ次は――――僕がキミ達に下降支援魔術を見せる番だね」


この度、『ツギクルブックス』様よりこの作品の書籍化が決定致しました。

発売日は2019年12/10です。既にAmazon等で予約が始まっております。


これも長らくご愛読頂いている読者の皆様のお陰です。

この場を借りて、お礼申し上げます。

ありがとうございます!

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