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第五十七話 世界へ向けて


『あ~あ~、マイクテスト、マイクテスト――

 ウォッホン! この場に集まってくれた『ハーフェン魔術学校』の生徒及び教師諸君、世界各地の魔導液晶(マジック・モニター)でこの映像を観ている魔導士諸君、妾は『ハーフェン魔術学校』の校長を務めるイルミネ・リューポルドと申す!

 既に、何千何万という魔導士が妾の言葉を聞いてくれていることじゃろう。

 此度はこのような仰々しい催しとなったが、先に妾の発表に耳を傾けてくれる諸君への感謝の意を述べさせてもらいたい。


 ――さて、さっそくじゃが"本題"に入ろう。

 世界三大魔術学校のひとつに数えられる『ハーフェン魔術学校』、その長である妾が、こうして公の場に姿を現したのは他でもない。


 ――――【精霊】が、発見されたからなのじゃ。


 魔術に関わる多くの者は、【精霊】という存在を信じておらぬことじゃろう。

 多くの者が、"ほら話"として幼少の頃から教えられて育ったことじゃろう。

 じゃが……現実に彼らは存在した。

 そしてその強大なる力は、【始まりの賢者】に与えられた力に相違ない物じゃった。


 妾達が発見した【精霊】は、"雷"の属性を司る【雷の精霊・ファラド】。

 彼の偉大なる者は、採鉱業で賑わう街『ディカーラ』の付近にある『雷電の洞窟』で、七千年に渡る永きの間、人との接触を絶っておられた。

 その力はまさしく人智を超えており、我が『ハーフェン魔術学校』の調査団が束になっても太刀打ちできないほどじゃった。


 ……【雷の精霊】との邂逅に、悲しき犠牲があったことは忘れてはならぬ。

 だが、それでも我ら人類は――いや、我が『ハーフェン魔術学校』の魔導士は、その存在に挑んで見せた。

 そして、その高潔なる意志を認められた者が、"三名"おる。


 この場を借りて紹介しよう。

 まずは『ハーフェン魔術学校』の生徒にして、同校が二百年ぶりに生み出した【賢者】――

 校内では【伝説の双子の大賢者】などとも呼び称される双子の最高位魔導士(グランドマスター)、セレーナ・ハルバロッジとコロナ・ハルバロッジの二名。


 そして――その【伝説の双子の大賢者】の父親であり、彼女達に魔術を教えた師でもあり、新たに『ハーフェン魔術学校』で教鞭を揮ってくださる――――エルカン・ハルバロッジ先生である。


 この三名は果敢にも【雷の精霊】と対話し、矛を交え、そしてその力を認められた者達である。


 特に……エルカン先生は、直接精霊の力を授けられた勇士なのじゃ!

 その右手に刻まれた"刻印"を見よ!

 これこそ、【精霊】が彼の魂の強さを認めた証拠に他ならん!

 エルカン先生は【始まりの大賢者】と並び称されるべき、【大黒魔導士】なのである!


 彼らの存在を以て、『ハーフェン魔術学校』の校長であるイルミネ・リューポルドはここに宣言する!


 【精霊】は実在すると――――!


 そしてハルバロッジ親子によって、今、魔術の新たな時代が幕を開けたのだと――――!!!』




   ◇    ◇    ◇




「――――っはああぁぁぁ~~~~…………疲れた……」



 僕は校長室のソファに座り、ぐったりと首を垂れる。

 やっぱり、ああいうのは好きになれないなぁ。


 ――世界へ向けた、イルミネ校長の会見。

 そして、【精霊】の公表。


 【雷の精霊(ファラド)】に認められた僕らは、そんな会見の主役にされたのである。


 セレーナやコロナは目立ちたがり屋だから、割と楽しんでたっぽいけど……僕はただ疲れただけだった。

 そもそも僕は目立つのが嫌いだし、ああして大衆の目に晒されるのはストレスが半端じゃない。

 会見の最中なんて、ストレスで胃が千切れそうだったよ……


「まったく……セレーナとコロナはともかく、僕はああいうのは向いてないよなぁ……柄じゃないし……」

「ハッハッハ! そうは言うても、中々"様"になっておったぞ! 妾が"刻印を見よ"と煽った時など、高々と腕を掲げていたではないか!」


 疲れ切った僕とは対照的に、満足そうにハツラツと笑うイルミネ校長。


 そういえば貴女もセレーナやコロナみたいなタイプですもんね。

 普段の様子から見ても、如何にもああいうイベントが好きそうだし。


 オマケに、こんなに元気なのに百歳なんだもんなぁ。

 どう見ても子供にしか見えないし、この無邪気さはある意味に羨ましい。


「それは、そういう打ち合わせだったからじゃないですか……僕はただ立ってるだけで良いって言ったのに……」

「それでは世界に対して示し(・・)がつかんではないか。【精霊】を呼べるならまだしも、主役が目立たんでどうする」

「そうですわお父様。それに、あの時のお父様はキラキラと輝いていて素敵でした!」

「ウンウン、最高にカッコよかったよパパ! まるで勇者様みたいだった!」


 セレーナとコロナが両横から抱き着いてくる。

 むしろ、キミ達の方が主役っぽかった気がするけど。


 イルミネ校長は机の上で指を組むと、


「だいたい、あれしきで疲れていては埒が明かんぞ。今日からお主は有名人なのじゃからな。校内を歩けば生徒達に囲まれるじゃろうし、なにより――――他の『世界三大魔術学校』が、お主をマークしてくるはずじゃ」


 そう言って、不敵に笑う。


「他の、ということは――」

「ウム、彼奴らも【精霊】探しに躍起になるじゃろうし、お主に接触しようとしてくるのは間違いあるまい。

 我が『ハーフェン魔術学校』に並び称される、偉大なる魔術学校――――


 ――『ル・ヴェルジュ魔術学校』と、『インファランテ魔術学校』がな」


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