第五十二話 コロナの悩み①
やぁやぁ皆! アタシの名前はコロナ・ハルバロッジ!
これでもSランクの【賢者】をやってる、青春真っ盛りの十七歳!
好きな人はパパ!
好きな料理はパパの手料理!
趣味はパパの役に立ったり、パパとお話したり――っていうか、パパ自体がもう生き甲斐!
パパさえいてくれれば、アタシは幸せなんだ!
って、今更言わなくても知ってるかぁ~! アハハハ~!
……なぁ~んて、こんな元気っ子なアタシにも、最近はちょっと悩みがあります。
それは――
「セレーナってば、アタシを差し置いてパパとチューしたんだよ!? どう思うクレイチェット先生!?!?」
――コレが悩み。
で、今、その悩みをクレイチェット先生の研究室でぶちまけ中。
「ど、どど、どうって、聞かれても……! き、聞く人を、間違えてる、と思う……!」
顔を真っ赤にして狼狽えるクレイチェット先生。
目元は見えないけど、すっごく困った感じなのはわかる。
先生ってば、相変わらずこの手の話題に弱いなぁ~
かわいい~♪
「そ、それに、ミスター・ハルバロッジと、セレーナちゃんが、き、ききき、きき、キス、し、しししたのは、【雷の精霊】との戦いで、仕方なくで、だ、だから――」
「仕方なかったのは、わかってるよぉ。でもそれなら、アタシもパパとチューして良いよね!? それが道理ってモンだよねぇ!?」
……アタシが気を失っている内に、【雷の精霊】との戦いは終わってた。
しかも全部終わった後で、セレーナから"お父様と《魔脈》を繋げるためにキスした"って聞かされた時のアタシの気持ち、わかる?
――ううん、別にセレーナを責めたいワケじゃない。
あの子は純粋に、パパの力になろうとしただけなんだ。
それはわかる。
でも、それはそれとして――
「セレーナばっかりズルい! ズルいズルいズルいぃ~~~!!! アタシもパパとチューしたいぃ~~~~!!!」
そう、ズルい。
アタシだってパパとチューしたい。
アタシもパパの力になりたかった。
悔しい妬ましい羨ましい!
もうこうなったら、床の上で転げ回って不平不満を訴えてやるぅ!
「そ、そんなに、羨ましいなら、ミスター・ハルバロッジに、お願いしてみれば……」
「そんなこと出来るワケないじゃん! パパは、アタシ達とそういう関係になるくらいなら"夢を諦める"って言ったんだよ!? ズルいから――なんて理由で、チューなんて出来ないよぉ~……」
ぐったり、と動きを止めるアタシ。
「…………わかってるんだけどさぁ……こんなの、ワガママだってことくらい……。
もしセレーナとアタシが逆の立場だったら、アタシもパパの力になろうとしたハズだし……パパに、勝ってもらいたかったハズだし……。
わかってるのに……どうしても、意識しちゃうんだよねぇ……」
「……最近、セレーナちゃんを、避けてるのは、それが理由?」
クレイチェット先生に見透かされ、アタシは飛び起きる。
「べ、別に避けてなんか……!」
「でも、この頃、一緒にいないことが、多い。今までは、大体、ずっと一緒にいたのに」
「むぅ……」
別に避けてるつもりはないし。避けようとはしてないし。
でも……確かにセレーナの顔を見ると、心の中に引っ掛かりを覚えるのは……事実かも。
「……コロナちゃんが、本当に、セレーナちゃんと、ミスター・ハルバロッジを、好きなのは、わかる。だから、悩む。
でも……それは、解決が、難しい問題。複雑な、乙女心」
う~ん、と腕を組むクレイチェット先生。
やっぱり良い人だなぁ、先生は。
"大人しく諦めろ"とか、"いっそ父を押し倒してしまえ"、みたいな場当たり的なことを言わないし。
ちゃんと、アタシのことを真剣に考えてくれている証拠なんだよね。
まあ、恋話に免疫がないのが玉に瑕、かなぁ~……
そんなトコもかわいいんだけど~♪
「……コロナちゃんは、ミスター・ハルバロッジが、【雷の精霊】に認められて、嬉しい?」
クレイチェット先生が、唐突に聞いてくる。
「え? そんなの嬉しいに決まってるよ! パパの"夢"に、少しでも近づけたんだから!」
「うん、そのために、コロナちゃん達は、がんばった。本当に、凄く。偉い偉い」
ナデナデ、とアタシの頭を撫でてくれるクレイチェット先生。
「ふぇ? そ、そう? なんか照れちゃうなぁ、えへへ……♪」
「コロナちゃんが、命をかけて、ミスター・ハルバロッジを、守ろうとしたのは、疑い様も、ない。
――そんな、コロナちゃんなら、セレーナちゃんも、命をかけていたのが、わかるはず」
「それは……良くわかってるよ、勿論。アタシ達"双子"だもん」
「なら、セレーナちゃんの、ミスター・ハルバロッジに、勝ってほしかったという想いは、認めてあげて、ほしい。
仮に、二人の立場が、逆だったとしても、私は、セレーナちゃんに、同じことを、言った。
羨ましいと、思っても良いけど、妬んじゃ、ダメ」
先生に言われて、アタシは口をへの字に曲げる。
……そんなの、わかってるつもりだもん。
それに――セレーナのことを誰よりも認めてるのは、アタシなんだから。
…………なんだか、頭と心がバラバラになっちゃったみたい。
「ん~~~~……あ~、もう!」
アタシはガバっと立ち上がって、
「もう頭の中がゴチャゴチャだから、ちょっと外の空気吸ってくる! いざ、気分転換~!」
そう言い残して、アタシは研究室から飛び出していく。
考えても良くわかんないことは、もう考えない!
これがコロナ流【賢者】の思考術なりぃ!
◇ ◇ ◇
「……行って、らっしゃい」
一人研究室に残されたクレイチェット先生は、既に居なくなったコロナに向けて小さく手を振る。
「……良いなぁ……青春……」




