第五十一話 セレーナの悩み①
こんにちは皆様、私の名前はセレーナ・ハルバロッジと申します。
世界三大魔術学校の一つに数えられる『ハーフェン魔術学校』。
そこに在籍する十七歳の生徒で、同時にSランクの【賢者】でもありますの。
学校の人々は、私のことを【伝説の双子の大賢者】と呼びますわ。
"双子"というのは勿論、私には"コロナ"という双子の姉妹がいるから。
彼女もSランクの【賢者】なので、二人揃って【伝説の双子の大賢者】なのです。
そんな私の好きな物は――"お父様"。
好きな料理は"お父様の手料理"。
趣味はお父様のお役に立ったり、お父様とお話したり、お父様の不要になった物品を収集したり、お父様とのめくるめく甘い将来を考えたり、お父様とetc.……などでしょうか。
ああ……考えるだけでも私、恍惚としてしまいます……ウフフ……
逆に嫌いな物は――私とお父様のひと時を邪魔するモノ全て。
具体的にはツァイス先生とか嫌いですわね。
あと、私にはお父様がいると言っているのに、それでも言い寄ってくる学校の男子達も好きではありません。
せめて二十年ほど歳を重ねてから出直してきてほしいモノですわ。
それでも、お父様の魅力には遠く及ばないでしょうけれど。
私とコロナは、『ハーフェン魔術学校』が二百年振りに輩出した【賢者】。
その称号を背負う以上、文武両道・品行方正を地で行くことが求められます。
ですので、学校では有名人扱い。
道を歩けば、生徒達は笑って声を掛けてくれますわ。
「セレーナ様、ごきげんよう」
「セレーナ様、今日も素敵ですわ!」
「セレーナ様、今度魔術を教えてください!」
――と、こんな感じに。
「ウフフ、ごきげんよう。是非、今度お茶をしながら魔術について語り合いましょう」
女生徒達にそう返せば、「キャー!」という黄色い返事が飛び交うのです。
まったく、我ながら完璧な【賢者】っぷりですわね。
この気品なら、お父様も自慢の娘として褒めて下さるはずです。
フフ……自分の才能が恐ろしくなりますわ。
……もっとも、私はお父様のお役に立てるのなら、人気者になど興味はないのですけれど。
――他にも、恋に魔術に冒険にと、ちょっぴり悩みの多い今日この頃。
特に、最近の悩みは――
「……コロナと、ビミョ~~~~に"距離感"を感じますわ」
そうなのです。
【雷の精霊】と刃を交え、お父様が認められてからというもの――なんとなく、コロナが私を避けているような気がするのですわ。
――いえ、"避けている"は言い過ぎかもしれません。
ただ、最近は一緒にいる時間が減った気がします。
単なる気のせい――ならば良いのですが……
「その点について如何お考えですか、お父様?」
「それ、僕に聞くの……?」
椅子に腰掛けられて、テーブル越しに向かい合う愛しのお父様は、やや怪訝なご様子。
フフ、困ったお父様も素敵ですわ……♪
――【雷の精霊】との闘いを終えた私達が『ハーフェン魔術学校』に戻ってきて、早三日。
私とお父様は、『ハーフェン魔術学校』の敷地内にある小さな喫茶店のテラスで、絶賛密会中なのです。
お父様と二人きりの時間……本来ならばとてもとても楽しいひと時なのですが、心配ごとを抱えた私は複雑な心境……
とはいえ、私はあくまで【賢者】。
弱った所など、お父様にも学校の生徒達にも見せられません。
あくまで毅然としていなければ。
「……ねえ、セレーナ……? 出来れば、場所を変えないかい? すっごく生徒の子達が見てくるんだけど……」
「なにを仰られますか。私達は親子なのですよ? 父と娘が、カフェのテラスで家族会議をするなど当たり前……。恥ずかしがることなどひとつもありませんわ。思い切り見せつけて差し上げれば良いのです」
たしかに、道行く人々の視線はこれでもかと感じますわね。
ですが、そんなものは私には関係ありません。
むしろ私とお父様の仲睦まじさを知らしめることが出来て、満足なくらいです。
「しかし、キミがコロナと距離感を感じるなんてなぁ……ちょっと信じられないよ」
「私も信じられませんわぁ……なにをするにも、昔からずっと一緒でしたから……」
それは僕もよく知ってるよ、とお父様も肯定して下さいます。
流石はお父様、私達のことを良くご存じですわ。嬉しい限りです。
私にとって双子の姉妹であるコロナは、正に"魂の片割れ"――と言っても、言い過ぎではありません。
もう一人の自分であり、もしお父様の次に――いえ、もしお父様と同じくらい大事なモノがあるとすれば、それは彼女でしょう。
生まれたときから――お父様に拾われた時から、ずっとずっと隣にいてくれた子。
そんなコロナと距離感を感じる日が来るなんて……
「コロナには直接話をしてみたのかい? そもそも、どうして距離を感じるなんて思うのさ」
「遠回しに聞いてはみたのですが……"そんなことない""避けてなんていない"の一点張りでして……。お父様、なにか心当たりがございませんか?」
そうなのです。
最大の問題点は、どうしてコロナが私と距離を置き始めたのか――その理由がわからない点なのです。
コロナの性格からして、もし私になにか非があれば遠慮なく言ってくるはずなのですけれど……
「……あ~、うん、なんとなく……心当たりはある……かな……」
「え――? ほ、本当ですかお父様!?」
お父様の予想外のお返事に、思わず席を立つ私。
「うん……コロナがキミと距離を置こうとする理由なんて、アレしかないような気がするからさ……。ちなみに、確認までに聞きたいんだけど――」
――聞きたいんだけど、までお父様は仰って、唐突に言葉を詰まらせます。
「……? はい、なんでしょう?」
「…………いや、ゴメン。なんでもない。たぶん、確認するまでもないと思う」
「……???」
「あ、アハハ、困惑させてゴメンよ。とにかく今夜にでも、僕からコロナに聞いてみるよ。セレーナも今は忙しいんだろう?」
それは、少しは忙しいですけれど……と私が答えると、お父様は家族会議をお開きにしてしまいました。
頼もしいお父様……娘のために、こんなにも献身的になって下さるなんて……!
しかし、私もただ黙ってはいられません。
どうしてコロナが私を避けるのか……
お父様がお気付きになられた"心当たり"とはなんなのか……
私は――気になります!
少し視点を変えた番外編を挟みます。