第四十七話 七千年振りの――
『……七千年前、我は人の子に教えられた。人の子が持つ"意思"と"繋がり"こそが、不可能を可能にするのだと。
……人の子は脆く、弱い。過ぎたる"力"を持てば"心"が消え、屈強なる"心"があっても"力"がなくば意味がない。
――汝は"力"を知らぬ。汝はいずれ、"力"に溺れる日が来るだろう。だが、娘らが汝を止めてくれるはずだ。
逆も、また然り。その時、汝らが互いの言葉を聞けるや否や……再び試されることになるだろう。
そう…………七千年前に、八大精霊が力を授けた者達のように』
「…………」
――ああ、そうか。
やっぱり【始まりの賢者】も、【精霊】に挑戦したんだ。
そして認められた。
【始まりの賢者】にも、信じ合える仲間がいたんだ。
本当の"絆"で結ばれた人がいたから――"家族"と呼び合えるほどの人がいたから――
ファラドは最後に僕を見て、
『……人の子よ、汝は"他の【精霊】"にも挑むつもりなりや?』
そう聞いてくる。
――"他の【精霊】"。
魔術には八つの属性が存在する。
『炎』『水』『風』『土』『雷』『氷』『光』『闇』――
この中でファラドは『雷』の属性を司る精霊である。
それはつまり、他の七つの属性を司る【精霊】がいるということだ。
僕が全ての攻撃魔術を扱えるようになるには、全属性の【精霊】に認められなくてはならないのだろう。
ファラドと戦うだけでも、僕らは限界まで追い詰められた。
なのにあと七体もいると思うだけで、眩暈がする。
でも、
「……ああ、僕は八体全ての【精霊】に会うつもりだ。そして、全員に僕を――いや、僕らを認めてもらう。それこそ見果てぬ"夢"ではあるけど……この子達と一緒なら、出来る気がするんだ」
僕はセレーナとコロナを見る。
彼女達の意識は、まだ戻らない。
この瞬間を一緒に経験出来ないのは、残念で仕方ない。
……これからも【精霊】と会うための冒険を続けるなら、彼女達を危険に晒し続けることになる。
今回のようなことが繰り返されるのかもしれない。
彼女達が傷付くのは、怖い。
それでも、僕は冒険を続けるだろう。
セレーナとコロナと一緒に。
危険だったとしても、無謀だったとしても――
僕らが――信じ合える"家族"だからこそ。
『……愚問であったな。汝らが【精霊】を求める以上、八大精霊自らが汝らを誘うであろう。
…………楽しいひと時であった。汝らに会えて――良かったぞ』
ファラドはそう言い残すと、ぼんやりとした神々しい光に包まれる。
そして眩い光を放つと――――その姿を、僕の前から消した。
礼拝堂には僕らだけが残される。
今までの轟きがウソのように、静寂が辺りを包み込む。
「……会えて良かった、か。【精霊】に言われるとか、照れちゃうなぁ」
僕は頭をポリポリとかく。
これは自慢話に出来そうだ。
【精霊】と会って認められたなんて話を、信じてくれる人には。
「さて、それじゃあセレーナとコロナを連れて外に――――って、あ、アレ……?」
僕は最後まで頑張ってくれた愛娘達を外に連れていこうとするが、すぐに自らの意識も遠ざかるのを感じた。
あ、ヤバい。
思った以上に僕もキテる。
でもダメだ。
彼女達を背負っていかなきゃいけないのに。
だから、僕が意識を保たなきゃ――
そう思って僕は一歩踏み出すが、そのままバタリと床の上に倒れ込んでしまう。
そしてそのまま――――僕の意識は深い闇の中へと落ちていった。




