第四十五話 最期まで、せめてパパらしく②
――いつか、セレーナが僕に言った言葉が頭をよぎる。
"父親が父親なりに子を想うならば、子供も子供なりに父を想うのです"
本当に、本当の本当にその言葉を信じるなら、僕はファラドの言う通りにすべきかもしれない。
もしこの提案を断れば、セレーナとコロナに怒られるかもしれない。
……こんなチャンスは、もう二度とないだろう。
僕は、積年の"夢"が叶う。
「…………」
僕は、セレーナとコロナをそれぞれ見やる。
彼女達は力なく倒れたままで、いつもの笑顔を向けてくれることもない。
――ああ、うん。
そうだな――――やっぱり――――
僕は――――
「……ファラド、僕の願いを言うよ」
『……聞こう』
僕は、ひと呼吸ほど間を置く。
フゥ、と静かに息を吐いて、
「――同じだ。何度聞かれても同じだよ。
僕は…………絶対に、愛娘を生贄になんてさせない。彼女達を犠牲にするくらいなら――――僕は僕自身と、"僕らの夢"を諦める。
それが……僕の答えだ」
ファラドに、そう言った。
どれほど考えても――それだけが、僕に導き出せる答えだった。
「言ったろ? 僕達は血が繋がっていないけど、それでも"家族"なんだって。
……だからさ、僕はどこまでいっても、この子達の父親なんだよ。父親っていうのは、叶えたい夢があっても、子供に嫌われちゃっても、自分が命を捨てることになっても……結局、最後は"子供自身"のことが一番大事なんだ。例え結果的に、子供を裏切ることになってもね」
僕は杖を静かに床に置いて、同時にゆっくりと地べたに座り込む。
胡坐をかいて、もう戦う意志がないことを示す。
「……彼女達は僕のために傷付いてくれた。だからこの選択は、そんな彼女達への冒涜になるかもしれない。それでも……彼女達を生贄にするような真似をしてまで手に入れる"力"なんて、僕はいらない」
『…………』
ここまで来て――
戦って、負けて、挫折して――
もうダメだと思った、そんな中で差し伸べられた最後の可能性。
それを、自ら棄てる。
セレーナとコロナの努力と覚悟を、無に帰す。
愚かな行為だと思われるだろう。
しかしそれでも……一緒に冒険して、一緒に戦ってくれた、かわいい娘達の命の代わりになんて、ならない。
最期まで――最期まで、せめて僕は父らしくありたいのだ。
「……もういいだろう。さあ、僕の首をはねろ」
僕は目を瞑って頭を垂れ、首を差し出す。
どうせ逃げられないのだ。
みっともない真似はしたくない。
それにセレーナとコロナは助けてくれると言った。
なら、それを信じよう。
――ごめんよ、セレーナ、コロナ。
せめてキミ達は――新しい幸せを――
そう祈って、自分の最期の瞬間を待っていた。
すると――
『………………正解なりや、人の子よ』
ファラドが、笑う。
「――え?」
『……汝の言う"絆"とやら、試させてもらったぞ』




