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第四十四話 最期まで、せめてパパらしく①


「な…………なんだよ……それ……!」


 僕は一瞬、ファラドの言っていることの意味がわからなかった。


 彼女達を、"贄"とするなら――だって――?

 つまり、セレーナとコロナを生贄に差し出すなら、僕の命を助けてやるっていうのか――?


「ふ……ふざけるなッ!!! あの子達はこんな、ボロボロになるまで戦って……なのに、生贄すれば許してやるだと!? 彼女達を認めたんじゃなかったのか!?」

『……認めたが故に。古来より人の子は、神々に供物を捧げてきたのだ。……【精霊】である我に捧げることに、なにを驚くことがある?』


 ファラドの言い草に、僕は怒りを隠せなかった。


 確かに、信仰の対象である神に対して生贄を捧げる儀式は、大昔は行われていた。

 "天空の神々よ、無垢な子供を捧げます。だからどうか、私達に貴方様の恩恵をお与え下さい"

 そういう類の話だ。


 でもそんなの遥か昔話だし、【精霊】を相手に生贄を捧げた話など聞いたことがない。


 なにより――ファラドが、こんなことを言う奴だとは思わなかった。

 そりゃ【精霊】の考えていることなんて理解出来ないし、伝承が残っていないだけで昔は生贄を求めるのが当たり前だったのかもしれない。


 けど、自らが認めた相手を、しかもその父親に対して交換条件を提示するという軽薄な行為に、僕の腸は煮えくり返った。


「断る! 絶対に、娘達を生贄になんてさせるか! 僕に失望したなら、僕を殺せばいいだろう!」 

『……それが、我が認めた娘らの意志に、反するとしてもか?』


 ――――その言葉に、僕は返答を詰まらせた。


「…………な……に……?」

『……娘らはその命を懸けて、汝のために戦ったのだ。然らば、娘らの願いを叶えてやるのが、道理であろう』


 ファラドはどこまでも落ち着いた声で、語る。


 ――そうか。

 それが、セレーナとコロナを認めたが故の道理(・・)なのか。


 彼の言い分は、決して間違っているワケではなかった。


 確かに彼女達は僕のために危険を冒してくれたのだ。

 ならば、そこに敬意を払うのならば――そんな彼女達の意志を尊重すべきではある。


 もしこの場で、セレーナとコロナに意識があったなら――――肯定してしまっているかもしれない。



 "(わたくし)の命と引き換えに、お父様に力を授けて下さい"


 "アタシの命と引き換えに、パパが攻撃魔術を使えるようにして"



 ――ダメだ。

 それは、それだけはダメだ。


 セレーナとコロナを生贄にするなんて、僕は絶対に認められない。


「ぼ……僕は彼女達の父親だぞ……!? 父が娘を生贄になんて、出来るワケないだろ……!?」


『……汝らは、"夢"を語ったな』


 ――僕の心臓が脈打つ。

 

 ――――"夢"。


 今その言葉を、彼の口から聞かされるとは――


『……汝は、"力"を得るためにここまで来たのだろう?

 ……それが、娘らの"夢"でもあるのだろう?

 ならば……叶えてやろう』


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