第四十一話 お父様のためなら、こんなのダメージの内には入りません
「コロナ! 危ない!!!」
僕は咄嗟に彼女を庇い、コロナの身体を覆うように床へと伏せる。
間一髪、僕らは瓦礫を避けることが出来た。
しかし――僕は、肩と額を瓦礫がかすめる。
「痛――っ!」
血が吹き出て、文字通り裂かれた痛みが被弾箇所に走る。
だが、行動不能になるほどのダメージではない。
「ぱ、パパ!」
「僕は、大丈夫……! それより、次の攻撃が来る……っ」
僕の流血を見て心配してくれるコロナだが、今はファラドへの対処が先だ。
痛いけど、親の僕が弱音なんて吐いてる場合じゃない。
『…………』
ファラドは無言のまま、再び瓦礫を魔力で浮かべる。
しかも今度は――――何十という大小の"瓦礫の束"を。
次は、瓦礫の砲弾の雨が来る。
そんなモノ、避けられるワケがない。
コロナの防御魔術も間に合わないだろう。
《略唱》を使うなんて論外だ。
「く、くそ……!」
――どうする。
――――どうするんだ、考えろ。
僕は額と肩から血を流し、激痛に耐えながら必死で頭を回す。
その時――
「……《略唱》、発動術式・壱号・九番――《ファイヤー・バースト》」
詠唱が聞こえたかと思うと、三発の火球がファラドを背後から襲う。
その火球は着弾と同時に爆発し、彼の周囲に浮いていた瓦礫を吹き飛ばした。
『……!』
ファラドにダメージらしいダメージはない。
しかし瓦礫が粉砕したせいで粉塵に包まれ、彼は僕らを見失う。
同時に、その煙の上を飛び越えて、僕らの前に着地する人影――
「……ご、ご無事ですか……お父様、コロナ……!」
そう、セレーナだ。
彼女が魔術を放ってくれたのである。
「セレーナ! き、キミ、怪我は――!」
「私は大丈夫ですわ。お父様のためなら、こんなのダメージの内には入りません♪」
彼女は僕に向けて、パチッと可愛らしくウィンクしてくれる。
けれど、彼女の見るからにボロボロだ。
衣服や髪は所々黒く焦げ、肌には火傷も見られる。
なにより呼吸の乱れや僅かに震える手足が、ダメージを引きずっている他ならぬ証拠だ。
とてもじゃないが、これ以上彼女に無理はさせられない。
セレーナはキッと煙の方へ振り返り、
「それより、お気を付け下さいませ。アレはただの煙幕作りに過ぎません。すぐに――」
彼女が言いかけるや――振り払われるように、粉塵が消え失せる。
そして姿を現したファラドは、
『……あな楽しや。やはり人の子との戯れは、七千年経てど色褪せるモノでなし』
そう語るファラドの口ぶりは、今までの無機質さと比べればどことなく違った風に聞こえた。
彼は――この状況を本当に楽しんでいるようだった。
『……コレは"褒美"なり。我が力の真髄――――とくと、味わうが良い』
ファラドは右腕を掲げ、僕らへ向ける。
――彼の手の平に、魔力が収束していく。
その規模は、これまでの比ではない。
収束した魔力はどんどん巨大な"雷の渦"となり、帯電されていく。
――今までで、最大の攻撃が来る。
それは、誰の目にも明らかだった。
「……セレーナ、なんか特大の一撃が来るっぽいよ?」
「そうですわねコロナ、でしたら――二人で"盾"を作りましょうか」
セレーナとコロナは互いの意志を合わせる。
彼女達は、防御魔術で受けるつもりだ。
「お父様、攻撃力の弱体化はまだかかっていまして?」
「あ、ああ……それはまだ大丈夫だけど……」
「なら、あとはアタシ達の仕事だよね。ちょっとは【賢者】らしい所を見せなくちゃ」
コロナはそう言って、申し訳なさそうに笑う。
セレーナもコロナは、僕の前に立つ。
彼女達は息を合わせ、
「――"万斛の災厄を退けし力よ、あらゆる攻撃を防ぐ堅牢なる盾、我が名の下に、惨害からこの身を護り給え"」
「――"万斛の災厄を退けし力よ、あらゆる攻撃を防ぐ堅牢なる盾、我が名の下に、惨害からこの身を護り給え"」
まったく同じ呪文を詠唱する。
声を重複させ、意識を合わせ、ただ一撃を防ぐために。
「「――――《プロテクション・イージス》」」
彼女達が詠唱を終えると、先程と同じように"魔術の盾"が出現する。
その"盾"はさっきより大きく、厚く、それはまるで要塞のように――
「さあ、【雷の精霊】よ――」
「貫けるモンなら……貫いてみなよ!」
これはセレーナとコロナからの、ファラドへの最後の挑戦状。
それを受けたファラドは、
『…………その心意気や、良し』
魔力を最大限にまで収束した"雷の渦"を――――放った――――
『……我が雷は、神羅万象を穿つ閃光となりて――――《ガンマ・レイ》』
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次回のタイトルは『パパと精霊』です。




