第四十話 追い詰められる親子
「――――」
放電を浴びたセレーナが、ドサリと倒れる。
あと僅かで刃が届いた、という所で。
「せ――――セレーナああああああああああああッ!!!」
力なく横たわる愛娘を見て、僕は彼女の名を叫ぶ。
――恐れていた事態だった。
僕が、最も見たくないと思っていた光景だった。
最愛の娘が、傷付く瞬間。
その、最期――
セレーナの衣服は電流の熱で黒く焦げ、煙を吹いている。
「ち、ちょっと……ウソでしょ……? ねえ、セレーナ! セレーナってば!!!」
コロナが声を震わせて、セレーナに呼び掛ける。
すると、
「う…………く……ぁ……」
コロナの声に反応するように、セレーナの身体が少しだけ動いた。
どうやら意識はあるらしく、力の入らない手足で必死に起き上がろうとしている。
あ――ああ――
良かった――
彼女は、まだ生きてる――!
僕とコロナは、セレーナが生きているというだけで安堵する。
しかし、
『……次は、汝らなり』
ファラドが動き出し、僕らへと向かっている。
間違いなく、彼には僕の状態異常が効いた。
なのに、たった数秒も拘束していられなかったのである。
相手がもしBランクのボスモンスターなら、確実に数分以上は拘束出来るというのに。
「く、くそ……!」
『……我の動きを止めただけでも、十二分に仙才鬼才なり。だが、まだ認めるには値せず』
【精霊】に褒められるのは悪い気はしないが、今は嬉しいなどという気持ちは一切湧いてこない。
彼に挑戦したのは僕達の方だ。
だから覚悟はしていたけれど――手前勝手であることも理解しているけれど――
目の前で愛娘が傷付けられて、湧いてくる感情など"怒りと悲しみ"だけだ。
「よ――よくもッ! セレーナを――ッ!!!」
コロナがギリッと歯軋りし、地面へと伏せる。
「――《略唱》! 発動術式・肆号・三十一番――――《ハンマー・オブ・ジアース》!!!」
彼女が地面に手を突くと、石板の床をぶち抜いて"巨大な岩の拳"が出現する。
この魔術は、さっきもコロナがボスモンスターに対して使ったA級土属性攻撃魔術だ。
岩の拳がファラドへと突撃する。
当たれば、十分な威力になるだろう。
けど、
「だ、駄目だコロナ! 《略唱》は魔術の級が下がるって――!」
そう、『ハーフェン魔術学校』でツァイス先生の襲撃を受けた時、彼がそう言っていた。
実質的に魔術の級を下げてしまう。
それはつまり――
ファラドの足元の瓦礫が、再び宙に浮く。
それも今度は一つではない。
三つ、四つ、いや――五つの大きな瓦礫が、彼の魔力で浮かべられた。
『――《レール・カタパルト》』
さっきと同じように、瓦礫が撃ち出される。
それも今度は、五発同時に。
撃ち出された瓦礫達は、コロナの巨大な岩の拳を容易に打ち砕いた。
そう――魔術の級が下がるということは、魔術に対して魔術をぶつけられれば、打ち消されてしまうリスクが大きくなるのだ。
「ウ――ソ――」
巨大な岩の拳を砕いた五発の瓦礫は、そのままコロナへと襲い来る。




