番外編 元パーティは全滅しました
――エルカンを追い出した翌日。
再びAランクの地下ダンジョンに潜った、ジョッシュ達四名のパーティであったが――
「――ち、チクショウ! ハミルトンがやられたァ!」
すぐに、窮地に陥っていた。
何体ものアース・ゴーレムに囲まれ、さっそく【重装士】のハミルトンがダウンする。
「む、無念……」
ボロボロの状態になり、ハミルトンはぐったりと横たわる。
「ちょっと、どうなってるの!? こんな奴らに苦戦するなんて!」
「昨日は何体も倒せたってのに、どうして剣も弓も通らねえんだ!? それに攻撃力が桁違いだぞ!?」
イザベラもコンラルドも困惑し、恐怖していた。
昨日同じ地下ダンジョンに潜った際も、このアース・ゴーレムの群れと遭遇していた。
だがその時は余裕で蹴散らすことが出来たのだ。
コンラルドの剣は、まるでバターを斬るように容易に両断した。
イザベラの弓矢は、風船に穴を空けるように簡単に貫いた。
ハミルトンの大鎧と大盾は、子供を相手にするかのように軽々と攻撃を防いだ
無論、リーダーであるジョッシュも苦戦とは程遠い無双を繰り広げた。
それがどうだ。
今日も全く同じ相手と戦っているのに、まるで悪魔と戦っているのかと思えるほど強い。
完全に別次元の強さで、手も足も出ない。
――昨日までのコイツらは、攻撃力も防御力も素早さも命中率も、全てのステータスが四~五割ほど低かったはずだ。
コンラルド達はそう感じていた。
オマケに状態異常等の足止めがないため、アース・ゴーレム達はピンピンした状態で動き回る。
いよいよ追い詰められた状態の中で、
「……そうか、やはりこれが我々の実力なのだな」
諦めたような口ぶりで、ジョッシュが言った。
「自分のリーダーシップの無さを呪うよ。私が断固たる意志でエルカンを重用していれば、な」
ジョッシュの言葉を聞いたコンラルドは仰天し、耳を疑う。
「なっ、何言ってんだよリーダー!? こんな時にアイツがいたって――!」
「では昨日と今日、なにが違う? お前が無能と言い捨てた【黒魔導士】がいないだけではないか?」
「そ、それは……!」
「我々がここまで戦えたのは、彼の弱体化のお陰だったのだよ。それを……自らの実力と勘違いしてしまったのが、運の尽きだ」
ジョッシュは手にしていた片手剣と盾を捨て去り、アース・ゴーレムの前へと歩み出る。
「……すまなかったなぁ、エルカン。お前こそが本当の――"天才【黒魔導士】"だったよ」
次の瞬間、ジョッシュはアース・ゴーレムの巨大な腕に殴り飛ばされる。
明らかに、致命的な一撃だ。
「リーダー!!! ――きゃあッ!」
隙を突かれ、今度はイザベラが別のアース・ゴーレムの攻撃を食らってしまう。
こちらも、もう立ち上がれないだろう。
「う……ウソだ……ウソだぁ!」
コンラルドは必至になって、一体のアース・ゴーレムへと斬撃を加える。
だが岩のように固い皮膚によって、まるで刃は通らない。
「ありえねえ! あんな役立たずの――あんなゴミクズのお陰で、俺達はAランクまで来れたってのか!」
何度も、何度も何度も攻撃を繰り出すコンラルド。
その全てが無意味と理解しても、手を緩めない。
「コレは俺達の実力なんだ! 俺達の実力で、俺達の力で、俺達のパワーで――!」
言い切るよりも早く、コンラルドはアース・ゴーレムに殴り飛ばされた。
まるで虫をデコピンで吹っ飛ばすように、あまりにもあっけなく。
殴り飛ばされ、壁に叩きつけられたコンラルドは血反吐をぶちまける。
「ガッ――ゴホッ、オエッ!」
立ち上がる力もなく、そのまま壁にもたれかかるコンラルド。
そんな彼を、何体ものアース・ゴーレムが取り囲む。
「ヒィッ……! わ、悪かった、俺が悪かったよぉエルカン! だから戻ってきてくれ! 助けてくれぇ!」
コンラルドは錯乱して、この場に居もしない相手に助けを求める。
つい昨日率先して追い出し、無能扱いした【黒魔導士】に。
もはやプライドもなにもなかった。
――アース・ゴーレム達の巨大な腕が、振り上げられる。
それを受ければ絶対に助からないと、誰が見ても本能でわかる。
「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ! 嫌だああああああああああああッ!!!」
そして――コンラルドへと、巨大な腕は振り下ろされた。
◇ ◇ ◇
奇跡的なことに、ジョッシュ達は通りがかった他の冒険者パーティによって救助され、九死に一生を得る。
それでも皆が重傷なことに変わりはなかった。
特にコンラルドが受けたダメージは最も酷く、回復しても日常生活に支障をきたすほどだった。
彼が【剣士】として冒険者に復帰するのは、永久に不可能であろう。
そんな事実を、エルカンは最後まで知る由もない。