第三十五話 "親子"の力を示せ
「アタシ達がパパを冒険に連れ出した。無理を言って、困らせて……。だから、パパが道を見失ったら、アタシ達二人がその道を作る」
「私達は、その決意があってここにいるのです。……私達には、そうしなければならない理由がありますもの」
セレーナとコロナは、まるで僕を護るように、僕の前に立つ。
その、小さくて華奢な少女の背中で、僕を護るように。
そして――――セレーナは、驚くべきことを口にする。
「……私とコロナは、お父様に命を拾われた――"義理の娘"なのですから」
――その言葉を聞いた時、僕の心臓はドクンと強く脈打った。
「せ、セレーナ……!? それは――っ!」
「……ごめんなさい、お父様。実はずっと昔から、薄々気付いていたのです。確証を得たのは『ハーフェン魔術学校』に入る直前でしたけれど」
「デイモンドおじさんに問い詰めちゃったんだ。どうしても教えてくれなきゃ、学校で専門分析にかけるぞ、って。……そしたら最後の最後に、知っているだけのことを教えてくれたよ」
デイモンドさんが――
僕と彼女達の血が繋がっていないことは、周囲には基本的に秘密にしている。
だけどごく少数、それを伝えている人もいる。
その一人が、『リートガル』の街医者であるデイモンドさんだ。
確かに、彼は普段口の軽い陽気なおじさんだった。
それでも自らの仕事にプライドを持っていたし、患者のことは絶対に口を滑らせない人でもあった。
そんな彼が打ち明けたのだから――――セレーナとコロナの覚悟は、よほどのモノと思ったのだろう。
事実、今その覚悟が、こうして現れている。
セレーナは苦笑混じりに、
「……十七年前、お父様はパーティを追放された直後に、私達を拾ってくださったそうですわね。それからは冒険も【黒魔導士】も諦めて、私達を育ててくれたと……」
「パパ、アタシ達は――アタシ達はね――幸せ、だったよ。パパに拾われて、パパに育てられて、本当に幸せだった。ううん、今もとっても幸せ。エルカン・ハルバロッジという人がアタシ達のお父さんで、本当に良かった」
セレーナとコロナは、お互いの手をぎゅっと握る。
気持ちを確かめ合うように。
勇気を出し合うように。
「……私達のために、かつてお父様が"夢"を諦めたというのなら――その"夢"を叶えて差し上げることが、せめてもの恩返しとなりましょう」
「アタシ達は、パパの"夢"を叶えてみせる。パパを、パパが理想とする【黒魔導士】にしてみせる。それが――――アタシ達の"夢"なんだ」
「セレーナ……コロナ……」
――僕の目尻から、涙が落ちた。
娘達の想いを聞かされて、年甲斐もなく。
僕は、僕に出来る範囲で彼女達を育ててきた。
そりゃ大変なことも辛いことも、わからないことも色々あった。
でも僕はただ彼女達が元気に育ってくれれば、それで良いと思っていた。
父への感謝など、求めようと思ったことはない。
求めたことはないつもりだ。
そもそも……僕は自分が父親としてちゃんと出来ているのか、自信を持てたこともない。
それなのに、セレーナとコロナは言ってくれる。
僕が父親で、幸せだったと。
僕は――
「拾って頂いた命ならば、その全てをお父様に捧げます。身も心も、そして"夢"さえも……」
「パパは絶対に道を踏み外したりしない。ううん、もしそうなりかけても、アタシ達が踏みとどまらせてみせる。
【雷の精霊】……アンタが思ってるより、パパはずっと分別のつく人だよ。アタシ達二人とも、振られちゃったくらいだし?」
クスクスとコロナが笑う。
そしてセレーナとコロナは、ファラドを再びキッと見据え、
「だからさぁ……ゴチャゴチャ言わずに――」
「私達"親子"の力を、試してみたら如何かしら?」




