表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/95

第三十五話 "親子"の力を示せ


「アタシ達がパパを冒険に連れ出した。無理を言って、困らせて……。だから、パパが道を見失ったら、アタシ達二人がその道を作る」

(わたくし)達は、その決意があってここにいるのです。……(わたくし)達には、そうしなければならない理由がありますもの」


 セレーナとコロナは、まるで僕を護るように、僕の前に立つ。

 その、小さくて華奢な少女の背中で、僕を護るように。


 そして――――セレーナは、驚くべきことを口にする。




「……(わたくし)とコロナは、お父様に命を拾われた――"義理の娘"なのですから」




 ――その言葉を聞いた時、僕の心臓はドクンと強く脈打った。


「せ、セレーナ……!? それは――っ!」

「……ごめんなさい、お父様。実はずっと昔から、薄々気付いていたのです。確証を得たのは『ハーフェン魔術学校』に入る直前でしたけれど」

「デイモンドおじさんに問い詰めちゃったんだ。どうしても教えてくれなきゃ、学校で専門分析にかけるぞ、って。……そしたら最後の最後に、知っているだけのことを教えてくれたよ」



 デイモンドさんが――


 僕と彼女達の血が繋がっていないことは、周囲には基本的に秘密にしている。

 だけどごく少数、それを伝えている人もいる。

 その一人が、『リートガル』の街医者であるデイモンドさんだ。


 確かに、彼は普段口の軽い陽気なおじさんだった。

 それでも自らの仕事にプライドを持っていたし、患者のことは絶対に口を滑らせない人でもあった。


 そんな彼が打ち明けたのだから――――セレーナとコロナの覚悟は、よほどのモノと思ったのだろう。


 事実、今その覚悟が、こうして現れている。


 セレーナは苦笑混じりに、


「……十七年前、お父様はパーティを追放された直後に、(わたくし)達を拾ってくださったそうですわね。それからは冒険も【黒魔導士】も諦めて、(わたくし)達を育ててくれたと……」

「パパ、アタシ達は――アタシ達はね――幸せ、だったよ。パパに拾われて、パパに育てられて、本当に幸せだった。ううん、今もとっても幸せ。エルカン・ハルバロッジという人がアタシ達のお父さん(パパ)で、本当に良かった」


 セレーナとコロナは、お互いの手をぎゅっと握る。

 気持ちを確かめ合うように。

 勇気を出し合うように。


「……(わたくし)達のために、かつてお父様が"夢"を諦めたというのなら――その"夢"を叶えて差し上げることが、せめてもの恩返しとなりましょう」

「アタシ達は、パパの"夢"を叶えてみせる。パパを、パパが理想とする【黒魔導士】にしてみせる。それが――――アタシ達の"夢"なんだ」


「セレーナ……コロナ……」


 ――僕の目尻から、涙が落ちた。

 娘達の想いを聞かされて、年甲斐もなく。


 僕は、僕に出来る範囲で彼女達を育ててきた。

 そりゃ大変なことも辛いことも、わからないことも色々あった。


 でも僕はただ彼女達が元気に育ってくれれば、それで良いと思っていた。

 父への感謝など、求めようと思ったことはない。

 求めたことはないつもりだ。


 そもそも……僕は自分が父親としてちゃんと(・・・・)出来ているのか、自信を持てたこともない。


 それなのに、セレーナとコロナは言ってくれる。

 僕が父親で、幸せだったと。


 僕は――


「拾って頂いた命ならば、その全てをお父様に捧げます。身も心も、そして"夢"さえも……」

「パパは絶対に道を踏み外したりしない。ううん、もしそうなりかけても、アタシ達が踏みとどまらせてみせる。

 【雷の精霊(ファラド)】……アンタが思ってるより、パパはずっと分別のつく人だよ。アタシ達二人とも、振られちゃったくらいだし?」


 クスクスとコロナが笑う。


 そしてセレーナとコロナは、ファラドを再びキッと見据え、



「だからさぁ……ゴチャゴチャ言わずに――」


(わたくし)達"親子"の力を、試してみたら如何かしら?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ