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第三話 双子のパパになる

「「――おぎゃあ!」」


「え?」


 僕は突然聞こえてきた声に驚き、立ち止まる。

 今のは……赤ん坊の声?

 こんな時間に? どうしてこんな場所で?


 もしかしたら僕の聞き間違いだろうか?

 いや、それとも……幽霊とか!?


「ご、ゴクリ……」


 僕は思わず唾を飲む。


「おぎゃあ!」

「おぎゃああ!」


 ――いや、これは幽霊の声なんかじゃない。

 間違いなく本物の赤ん坊の泣き声で――しかも二人分ある。


「まさか……ウソだろ!?」


 僕は近くのゴミ捨て場(・・・・・)へと走り、無造作に積んであったゴミを退かしていく。

 すると――――




「「おぎゃあ! おぎゃあ!」」




 なんと、そこには二人の赤ん坊の姿があった。

 布に包まれ、辛そうな声で泣き声を上げている。


「ど、どうしてこんな場所に赤ん坊が……! いや、コレは――」


 言うまでもない。

 捨て子(・・・)だ。


 まだ生まれたばかりであろう二人の子供を、どこかの親が捨てたのだ。

 しかも、あろうことかゴミ捨て場に。


「なんて酷い……! こんなの、許されていいはずがない!!!」


 僕は激しい怒りを覚えながら、急いで二人の赤ん坊を拾い上げ、抱きかかえる。

 二人分にも関わらずとても軽く、僕の貧弱な腕でも軽々と持ち上げることが出来た。


「「おぎゃあ! おぎゃあ!」」

「おー、よしよし。泣かないでおくれよ。ホラ、もう大丈夫だから」


 僕は二人の赤ん坊を揺らし、なんとか泣き止ませようとする。

 赤ん坊の世話なんてやったことないから、どうすれば泣き止むのかわからない。

 そもそも僕はまだ十九歳で、彼女も出来たことないんだぞ。


 え~っと、こう揺らしてやればいいのかな?

 それともこんな感じかな?


 いや、もしかするとお腹を空かしているのかもしれない。

 じゃあオッパイを――――って出るワケないだろ!


 僕はセルフ混乱状態になり、自らにノリツッコミを入れていると――


「「……すぅ」」


 二人の赤ん坊は、なんとか眠りについてくれた。

 綺麗に、全く同じタイミングで。


「……双子、なんだろうな。顔もよく似てる。性別は――どっちも女の子か」


 一応言っておくと、僕は決してやましい気持ちで性別を確認したのではない。

 いやだって、見なきゃいけないじゃん? 念のため。


 っていうか赤ん坊にそういう気持ちを抱くなんて、普通無理だろ?

 もしやましい気持ちになったりしたら、かなりヤバいと思うぞ? 


 ――それはさておき、


「さて、どうしたモンか……。孤児院――に連れてくのは、ちょっとなぁ」


 ゴミ捨て場などに捨てられていた以上、実の親を探すなど論外だろう。

 見るまでもなく、ロクでもない奴に決まってる。


 となれば孤児院に連れていくべきだが……正直、それは止めたい。

 このご時世、孤児院は良い噂を聞かないのだ。


 そもそもが教会の慈善事業であるため貧乏で、子供達は何もかもを我慢して育つことになる。

 環境の悪い場所では、満足に食事を与えない場合もあるとか。

 里親だってマトモに探してくれるかどうか……


 そのせいなのか、孤児院を出た子供は野党や犯罪者など悪行の道に走ることが多いという。


 所詮は噂だし、全ての子供がそういう境遇になるとは限らないだろうけど。

 でも――

 

「生まれた時から夢も希望もないなんて、そんなのクソ過ぎるだろ」


 憐れむ、なんてのはこの子達に失礼なのかもしれない。

 ただそれでも、可能性ある未来を潰すなんて、僕は容認できない。

 

 この子達の人生は始まったばかりだ。

 これから、無数の可能性がある。

 夢も希望も持つ義務があるはずなんだ。


 そう――――僕とは違う。


「……これも、なにかの縁ってヤツなのかな」


 パーティをクビになった直後に、赤ん坊を拾うなんてさ。


 ――僕の腹は決まった。

 運命、のようなモノを感じたからだ。


「……この双子は、僕が育てる。僕が立派に育てて、夢を持てる女性にしてみせる」


 僕は双子の頬をそれぞれツンと指で優しく押してやる。

 彼女達はそれに反応して、僅かに頭を動かした。


「理想の【黒魔導士】にはなれなかったけどさ、"父親"くらいにはなってやりたいよな」


 それが、僕の新しい目標となった。


 僕は双子を抱えて歩き出す。





 ――僕ことエルカン・ハルバロッジ、この時まだ十九歳。

 夢に破れて、父親になることを決意する。


 けれどこの時、僕は想像もしていなかった。


 この双子が将来――Sランクの大賢者になってしまうなんて――


 この子達が――とても嫁に出せないほど、僕を愛するファザコンになってしまうなんて――



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