第十八話 二つの打開策②
「さて……それじゃあ先生、本題に入っても良いでしょうか」
ようやく、といった感じで僕は切り出す。
「僕は、セレーナとコロナから"僕でも攻撃魔術使える方法がある"と聞いて、ここまで来ました。それが先生の研究でもある、と」
「そう、セレーナちゃんと、コロナちゃんの、おかげで、"打開策"を見つける、ことは出来た」
クレイチェット先生はコクリと頷く。
「けど、間違えないで、ほしい。ワタシ達が、見つけたのは、あくまで"打開策"に、すぎない。根本的な解決は、まだムリ」
「しかし、お父様が攻撃魔術を使えるようになるのは事実です。それに……フ、フフフ……! 結果的には解決策になるというか、オールOKになるやもしれませんし……!?」
セレーナが笑いを――いや、喜びを抑えきれない様子で言う。
「そうそう~、そのためならぁ~、アタシ達は身も心も捧げるつもりだよぉ~?」
コロナも嬉しそうに、可愛らしい表情でニコニコ笑う。
が、明らかになにかを画策してるというのが、微妙に表情に出てしまっている。
我が娘ながら素直な子だ。
そういえば、二人が僕を冒険者パーティに誘った時も、こんな感じだったけど……
なんだか段々と怖くなってきたなぁ。
しかし、マゴマゴしていても埒が明かない。
僕は思い切って、先生に聞くことにする。
「そ、それで、その"打開策"とは?」
「――"二つ"、ある。見つけた方法は、二つ」
クレイチェット先生はピッと人差し指と中指を掲げ、"二つ"を意思表示して見せる。
「片方は、比較的容易で、確実性が高い方法。もう片方は、難しい方法。……どっちが、いい?」
「……? では前者の、比較的容易な方を教えてください」
何故、簡単で確実な方法があるのに、わざわざ二択を提示したんだろう?
僕は不思議に思ったが、とりあえず前者を選択しておいた。
すると――クレイチェット先生が、"もじもじ"と身体を揺すり始める。
「そ、そもそも、ワタシ達は、魔導士が持つ先天的素質を、調べている中で、《魔脈》という、体内を循環する魔力の流動を、見つけた。どうやら、コレが、先天的素質に、大きく関係する、みたい」
《魔脈》――
初めて聞いた用語だ。
これまで魔導士や魔術に関する本は山ほど読んできたが、少なくとも僕は見たことがない。
似たような用語も……思い出せる範疇では、ない。
流石は『ハーフェン魔術学校』の教師、その発見だけでも十分に表彰モノだ。
「ほう……では、その《魔脈》になんらかの方法で干渉できれば、先天的素質を変えられる……?」
僕が聞くと、クレイチェット先生は首を横に振る。
「先天的素質を変えるのは、まだムリ。でも、干渉して、使えなかった魔術を、使えるようにする方法は、見つけた」
「そ、それはどうやって――!」
もう待てない。一刻も早くそれを知りたい。
僕が身を乗り出して聞くと――――
「そ……そ、そ、そ、それは、それ、は……」
クレイチェット先生は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに口をどもらせる。
「……自分の《魔脈》に、他の魔導士の、《魔脈》を、魔術で繋げて、あげればいい。そうすれば、一定の距離内に、お互いがいる限り、魔術の貸し借りが、出来る」
「そこで私達の――」
「――出番ってワケだよ、パパぁ♪」
両横から、ガバっとセレーナとコロナが抱き着いてくる。
――そうか!
【賢者】であるセレーナとコロナは、あらゆる魔術を使える。
そんな二人と《魔脈》を繋げれば、僕でも攻撃魔術使えるってことだ。
これは、本当に凄い発見だぞ。
「け、けど、デメリットはないのか!?」
「そうですわね、あるとすれば先生の仰ったように、お互いが一定の距離内にいなくてはならないのと、消費される魔力も相手のモノ、という点でしょうか」
「でもでも、そんなの問題にならないよねぇ。アタシ達の魔力ってばスッゴイし、しかも双子だから二人分あるし!」
僕の疑問に、セレーナとコロナが答えてくれる。
もしそれが本当なら、確かに僕でもS級の攻撃魔術を使えるだろう。
《ソアリング・フライ》を扱えるほどの魔力を有する彼女達なら、よほど高燃費の魔術を乱発しない限り魔力の枯渇を起こさないはずだ。
一緒にパーティを組んで冒険しようと誘ってくれたのも、一定の距離内にお互いがいなきゃならないから。
なるほど、とても納得した。
まあ、娘達の魔力を借用することへの抵抗はあるけど。
「す――凄いですよ! この発見は! それで、どうやってお互いの《魔脈》を繋げればいいんですか!?」
僕はクレイチェット先生を称賛し、その方法を聞く。
しかし、
「~~~~~~」
クレイチェット先生は羞恥の色で顔を染め、完全に下を向いてしまう。
……さっきから、どうして恥ずかしそうにしてるんだろう……?
僕は、そんなに聞き難いことを聞いているのか……?
でも、それが先生が見つけた方法だって言うし……
「あ、あの……?」
「…………《魔脈》を、繋げるには、お互いの身体に、魔術陣を描いて、それから――そ、そ、そ、それから――お、お、お互いの、"粘液"を、ここ、交換、する、の……!」
「…………………………はい?」
あ、僕は今、なにか言葉を聞き間違えたな。
僕の頭はそう解釈した。
「先生、すみません。よく聞き取れなかったのですが……お互いに魔術陣を描いて、それからなにをすると仰いました?」
「~~~~お、お互いの、"粘液"や、"粘膜"を、触れ合わせる、の……! それが、《魔脈》を繋げる、方法……!」
「…………」
"粘液"や"粘膜"か~
植物とかでたまに聞く言葉だな~
ヌルヌルヌメヌメの植物とかあるよな~
え~っと、人体ではなにがあったっけかな~
よく思い出せないな~
「……先生、本当にごめんなさい。具体的に、僕になにをしろと?」
「~~っ、み、ミスター・ハルバロッジの、えっち……! 変態……!
そんなの……言えるワケ……ない……」
「つ・ま・り、ですわお父様――」
セレーナが、ぐっと僕の腕に胸を押し付けてくる。
「お父様は――私達と、一晩"同衾"をして下されば良いのです♪」
続けて、コロナが反対側の腕に身体を密着させてくる。
「ダイジョ~ブだよパパ♪ 天井のシミを数えてる間に終わるから♪」
――何故、クレイチェット先生がわざわざ"二択"を提示したのか、よくわかった。
僕はこれ以上ないほど、キリッとした真剣な顔で、
「クレイチェット先生、もう片方の"難しい方法"を教えてください」
そう懇願した。




