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第十二話 ようこそ『ハーフェン魔術学校』へ

 僕はセレーナとコロナに連れられ、『ハーフェン魔術学校』の敷地内へと入っていた。

 

 城門のような巨大な正門をくぐると、そこに広がっているのは学校――というより、ちょっとした経済圏として成り立っている学生街。

 ローブを着た学生達が談笑しながら道を歩き、そんな彼らの生活を支える多くの商店も立ち並んでいる。

 だから歳若い学生に交じって商人らしき大人も一定数見ることができ、まさに"都市"の様相を醸したてている。


 流石は世界三大魔術学校の一つ。

 学校とはいえ、規模も資本力も桁違いだ。


「はぁ~……二年振りに来たけど、ココは本当に都会みたいだなぁ」


 僕は思わず感嘆のため息を漏らす。

 この『ハーフェン魔術学校』に僕が来たのは、これで二度目である。


 そう、セレーナとコロナに入学試験を受けさせるため、彼女達の保護者として一緒に来たのが最初。

 その時も随分驚いたが――やはり田舎暮らしが長くなると、人や建物が多い場所は気圧されてしまう。


 この歳になると、正直田舎の方が落ち着くんだけどなぁ……などと思いつつ、僕は歩を進める。


「ウフフ、どうですかお父様? 二年振りの『ハーフェン魔術学校』は」


 隣を歩いていたセレーナが、ひょいっと僕の顔を覗き込む。

 

「いやあ、何度来ても圧巻だね。……ただ、やっぱり連れてくるなら先に一言欲しかったかなぁ……」


 僕は気まずさを隠そうともせずに言う。


 ――そうなのだ。

 さっきから、周囲を歩く『ハーフェン魔術学校』の生徒達の視線がやたらと痛い。

 すっごく見られている。何故か。

 明らかに奇異な物を見る目というか、物珍しい物を見る目というか……


 とにかく、若い子達からジロジロ見られるのは精神的にキツい。

 もう三十半ばを超えたおじさんなら、この感覚はわかるのではなかろうか。


「……なんか、若い子達からの視線がツラくてさ……せめて外出用の服装にでも着替えてきたかったよ」

「え~? 服なんて別になんでもいいじゃん。パパはなに着たってカッコいいんだしさ!」

「こ~ら、コロナ。あなたのズボラな感覚で言わないでくださいな。そうですわね、これから"先生の研究室"に向かうのですし、お店で衣服を買っていきましょうか」


 セレーナがコロナを戒めてから、さらりと言う。


 僕も彼女に賛成だ。

 しかし問題がある。

 あまりにも突然に連れてこられたせいで、今の僕は財布すら持っていない。

 そう、つまり無一文なのだ。


「そうだねぇ……買えるモノなら買いたいけど、生憎と財布を持ってきてなくてさ」

「あら? ご心配には及びませんわ。(わたくし)達がお支払い致しますもの」


 そんなセレーナの言葉を聞いて、僕は慌てて拒否する。


「そ、そんなワケにいかないよ! 娘に払わせるなんて、親の面目が立たないじゃないか!」

「ダイジョ~ブだよ~。どうせ"研究費用"って名目で、お金なんて学校がたくさんくれるし。だから問題ナッシン♪」

「【賢者】である(わたくし)達が学校に所属すること、及び研究に協力することは、『ハーフェン魔術学校』にも大きなメリットになるのです。少なくとも今は多額の資金援助を受けておりますし、ご心配には及びませんわ」

 

 うおぉ……流石は【賢者】……

 確かに彼女達が『ハーフェン魔術学校』に居てくれるのは、学校側からすれば最高の宣伝材料になるのだろう。

 

 "当魔術学校は、二百年振りに【賢者】を輩出しました。それも双子です"


 ――こんなわかりやすい宣伝文句もないだろう。

 それに釣られて入学してくる魔導士志願者や、学校へ投資を始める者達も現れ始めるはずだ。


 資金援助以上の見返りがある、ということなんだろうな。

 ……個人的な感情で言えば、娘達をそういう風に扱われるのは、少し癪だけど。


 セレーナはキョロキョロと辺りを見回すと、


「さて――では(わたくし)は、最寄りの商人ギルドでお金をおろしてまいります。コロナ、近くの服屋へお父様を案内して差し上げて」

「え~? アタシ服屋なんてあんまり知らないよ~?」

「もう……この辺りなら、そこの角を曲がった先に二階建ての服屋があったはずよ。それとも、これ以上お父様に恥ずかしい思いをさせたいのかしら?」

「むぅ~……りょ~か~い」


 コロナはやや不服そうに了承する。

 まあ、昔から彼女はお洒落に興味を示さなかったからなぁ。

 その点で言えば、セレーナの方が身なりに気を使っていると言えるかもしれない。

 相変わらず対照的だ。




 ――セレーナと一時わかれた後、僕はコロナに連れられて服屋に入っていた。


 二年前に来た時はこういう店は見なかったけど……いやはや、驚いた。

 服屋の店内は中々に広く、しかも二階建て。

 普段着から魔導士が着るグローブ・ブーツ・ローブ等の衣服まで、実に様々な服が売られている。


 学校の敷地内にある服屋なんて、学校指定の服しか売られてないのかと思っていたが、これほどの品揃えとは。

 さらに若者向けの服以外にも、僕のような大人が着てもおかしくないデザインの服も置いてある。

 商店等を経営する商人向けなのかもしれない。

 

「凄いね、学校の中の服屋なのに、こんなに色々置いてるなんて……」

「『ハーフェン魔術学校』は、もう学校そのものが都市化しちゃってるからねぇ~。これくらいじゃないと、皆生活できないっていうか~」

「はあ、なるほど。そういえばセレーナも商人ギルドにお金をおろしに行くって言ってたけど、都市と考えれば納得だ。銀行が出来るくらいだから、物流も豊富なんだね」


 もはや、ギルドの小さな集合体――とでも形容すべきか。

 

 ……こんな場所で魔術を勉強できたら、それはそれは楽しい青春時代になるのだろう。

 正直、ここの学生達が羨ましい、と思ってしまう。


「それじゃあ僕は少し服を見てるから、コロナは二階の女性向けコーナーを見てくるといい」

「えぇ~? いいよぉ、パパと一緒にいるもん」

「キミも年頃なんだから、ちょっとはお洒落しないと。ホラ、行っておいで」

「むぅ……はぁい……」


 相変わらず不服そうに頭の後ろで両手を組み、むすっとした顔のまま階段を上っていくコロナ。


 ……今は別に"そのまま"で良いんだろうけど、あと数年もしたら嫁ぎ先も考えねばならなくなる――かもしれない。

 そんな時、少しでも良い人(・・・)と巡り会ってほしいと思うのが、親心というモノだ。

 だから"自分を美しく見せる"ということに興味がなさすぎるのも、考えものなのである。

 まあコロナは、素のままでも十分過ぎるほど美人ではあるが。


 ……

 …………

 ………………いや、本当は娘が嫁いでいく所なんて、考えたくないし想像したくない。

 本音を言えばずっと傍にいてほしい。

 だって可愛い娘だから。

 だけどそうもいかないのが現実。

 

 ――ああ!

 この父親特有のジレンマ!

 自分がどうしようもない親バカだと自覚する瞬間!


 娘は大事!

 でも娘の将来はもっと大事!


 チクショウ!

 僕は一体どうすればいいんだ!?

 誰か教えてくれ!!!


 服屋の中で一人、想像を膨らませて悶え苦しむ中年の姿。

 ……傍から見れば、「このおじさん、どうしちゃったんだろう……?」とか思われそうだ……


 ――なんて、僕が脳内一人芝居をやっていると、




「あ、あの……ちょっとよろしいですか……?」




 不意に、知らない声に話しかけられた。

 

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