第十一話 可能性を広げてくれた場所
「うわああああああああああああああああああああッ!!!」
――――ズバアアアアアアアンッ!!!
僕の全力の悲鳴は、セレーナ+コロナ+僕の三人が地面に直撃する音であっという間にかき消された。
濛々とした砂煙が立ち上がり、周りが何も見えない。
着地――いや、落下の衝撃で身体の節々が痛み、ズキズキする。
オマケに――僕はセレーナとコロナの下敷きになってクッションの代わりを果たしているので、痛い&重い。
「痛たたたた……っ。もう、コロナ! ですから着地の衝撃を調節しなさいと、いつもいつも――!」
「あ、アハハハ……《ソアリング・フライ》は魔力のコントロールが難しくってさぁ~……てへ☆」
僕の上で、重なり合った状態でコロナを怒るセレーナ。
ちなみにコロナが使った《ソアリング・フライ》という魔術は風属性のS級魔術で、一言で説明すると"空を飛ぶ魔術"だ。
そう、魔力を消費して飛翔する。
ただそれだけ。
言葉で言えば至極単純な魔術だが、実際は非常に高度な技量と大量の魔力を要する。
まず、飛んでいる最中はずっと魔力を消費し続ける。
それがとんでもない極悪燃費で、しかも飛翔速度を上げるに連れて消費量も上がるのだ。
だからその間、術者は体内で風属性の魔力を練り続けながら、飛行のコントロールも魔力で操作しなくてはならない。
さらに、着地の際も衝撃を緩和するために魔力を使う。
この着地の瞬間が難しく、過去には魔力が不足したりコントロールを誤ったりなどで、地面に着いた瞬間ミンチになってしまった魔導士もいたらしい。
そう書物で読んだことがある。
セレーナは着地の魔力調整が上手くいっていないと怒っているが、これでも十分過ぎるほど成功と言えるはずだ。
S級魔術の位は伊達ではないのだ。
だから世界中を探しても、《ソアリング・フライ》を使いこなせる魔導士は多くないだろう。
そんな上級魔術を使えるのも、コロナが【賢者】である証と言える。
――で、だ。
僕は家の裏庭でセレーナとコロナに捕まり、《ソアリング・フライ》で何処とも知れぬ場所へと"ひとっ飛び"した次第である。
正直すっごく驚いたし、すっごく怖かった。
いやホント、空の上ってあんなに怖いんだな~と……。
良い経験――いや、悪い経験になった。
「まったく……次からは私がやりますわ……。……ところで、お父様は何処に……?」
「アレ……? おっかしいな~、ちゃんと手を繋いでたはずなのにぃ……」
セレーナとコロナはキョロキョロと辺りを見回す。
「お~い……僕はキミ達の下にいるぞ~……」
僕が潰れたカエルのような状態で、弱々しく声を上げる。
男としても父としても情けない体勢だが、もうあまり気にならない辺り僕も歳なんだと思う。
「ハッ!? お、お父様!? も、ももも申し訳ございません!!!」
「うにゅ? おぉ! こうしてパパの背中に寝転ぶの、久しぶりぃ~♪ ゴロゴロ~」
慌てて退くセレーナに対し、楽しそうに僕の背中に身体を密着させてくるコロナ。
う~ん、やっぱり対照的だなぁ。
「ああもう、さっさとお退きなさいコロナ! お父様が迷惑しているではありませんか!」
「むぅ~、もっとパパとくっついていたいのにぃ~」
セレーナに力づくで引っぺがされるコロナ。
ようやく、僕は身体が軽くなる。
「やれやれ……まさか、かの飛翔魔術を体験出来る日がくるとは思わなかったよ。……それで、色々説明してくれる?」
僕は身体を起こしながら、二人に説明を求める。
どうしていきなりこんなマネをしたのか、いかに娘達を愛する僕でも問い詰めないワケにはいかない。
コロナは変わらず笑いながら、
「昨日二人で話し合ってね、すぐに動くことに決めたの! 大丈夫! お店の入り口に"しばらく休業します"って掛け看板しておいたし、ご近所さんやデイモンドおじさんには伝えてきたから!」
そうか、なるほど。
どうりで一時コロナの姿が見えなかったワケだ。
「……うん、そっか、とりあえず勝手に店を休業扱いにしたのは後で怒るとして……僕は一体、何処に飛ばされたんだい?」
周囲の砂煙がまだまだ晴れないせいで、自分がどんな場所にいるのかまるで把握できない。
上空を飛んでいる間に視認しろって?
なんの心の準備もないまま、いきなりとんでもない速度で飛行させられた中年おじさんに、それはキツイと思う。
眼鏡とかズレまくりだったしさ。
「……断りもなく、突然お父様を連れ出してしまったことは、本当に悪く思っておりますわ」
セレーナが、コロナとは対照的にバツ悪そうに言う。
「私達も、もっと実家とお父様の香りに包まれて癒しの時間に浸っていたかった……。ですがお父様の気が変わらない内に、一刻も早く既成事実を作ってしまおう、と思い立ったのです!」
う~ん、何を言いたいのかはわかるが、言い方に多大な問題があるなぁ。
やはり細かい部分で育て方を間違えたのだろうか……
いや、自信を持つんだエルカン・ハルバロッジ。
彼女達はこんなに可愛くて父想いで、しかも【賢者】にまでなってくれたんだ。
そんな出来た娘はいないぞう。
僕は自分にそう言い聞かせた。
コロナはスッと指を掲げ、
「だからね、口で説明するよりも、手っ取り早くパパが攻撃魔術を使えるようになるのがベストだよねって♪」
「ですから、ここにご招待させて頂きました。お父様が、私達の可能性を広げてくれた"この場所"に」
セレーナが続ける。
そしてコロナが指を振ると、一瞬にして砂煙が吹き飛ばされる。
直後、僕の目に映ったのは――――
白レンガで建てられた長大な城壁と、何十もの塔に囲まれた、巨大な城塞都市。
街の中央には巨大な時計台が建ち、他にも大聖堂や、橙色の屋根が乗った市街地の家々――
僕は、この場所を知っている。
二年前、僕が娘達を送り出した場所。
世界三大魔術学校の一つに数えられる名門校であり、"双子の【賢者】"を輩出した場所。
学校という名前を与えられた都市。
僕は今、崖の上からその荘厳なる全体像を遠望している。
ここは――――
「ようこそ、お父様――――私達の母校、『ハーフェン魔術学校』へ」
「ここから――――パパの"新しい人生"を始めよう」
セレーナとコロナは、僕に初めて見せる不敵な笑みを浮かべた。




