6話
「はゆ〜はゆ〜」
捜さなくても早速バタバタと走って私の元に来たチビ。小さな手には花束を抱えていて…ニコニコしながらそれを差し出してきた。
「何…?この花束、私にくれるの?」
「きょうからはゆとせんしぇいはちゃみのかぞくでしゅ。はゆ…これからもよろしくおねがいちましゅ。ちゃみにできることはなんでもちましゅ」
「…ありがと、茶美」
「はゆ、今…ちゃみのなまえ…」
「嫌…?」
「ちゃみ、しゅごくうれしいでしゅ…わぁぁんっ…」
この子のくれる言葉全てが柄にも無く嬉しくて…名前を呼んであげると泣き始めてしまった。
喜んでくれるとは思ってたけどまさか嬉し泣きするなんて…大袈裟なガキ…
でも、そんな茶美を見て何故か自分の胸が高鳴ったのは気のせいだと思いたい。
なんか…急にこの子が可愛く思えてきて…抱き締めたくなってしまう。
「はゆ…だいしゅきでしゅ…」
「茶美…」
涙を拭って微笑む茶美が本当に可愛くて…花束を机の上に置き、まだ幼い体をギュッと包むように抱き締めた。
「はゆ…?」
「少しだけ…こうさせて…」
「はぃ…ちゃみうれしいでしゅ…」
…分かってる。この子はまだ幼い子供だから…何も知らないだけ。ただ私に懐いてくれてるだけ。
そんな当たり前の事さえも、今は考えたくないよ…
茶美…
子供なんて大嫌いだったのに…あんただけは……
「今日からよろしくお願いします」
その夜、無事に引っ越しを終えた私達は今日からこの家で暮らす為、改めて二人に挨拶をした。
「ああ、こちらこそよろしく。そんなに畏まらないでくれ。君はもう茶美と同様僕の子供だ」
「はい…」
茶美の父親を直ぐに自分の父親だと思う事は出来ないけれど…これから一緒に暮らしていく事でちょっとは慣れるといいな…
そして修学旅行を除けば、初めて自分の家以外で眠る事になる今夜。
まあ今日からは此処が自分の家になった訳だけど…なかなか寝付けなくて何度も寝返りを打っていると、不意にドアが開く音がした。
一瞬ビクッとするが、そのドアを開けた人物の正体に気付いた私は安堵の溜息を零す。
「何よ茶美…ビックリするでしょ…」
「ごめんなしゃい…はゆがもうねんねちたとおもってのっくできなかったでしゅ…」
「別にいいけどさ…どうしたの?寝れない?」
「ちゃみ、はゆといっちょにねんねちたいでしゅ。まくらももってきまちた」
このチビ…胸に枕を抱えて、一緒に寝たいからという理由で私の元に来たみたい。
勘弁してよ…一緒に寝たら私の心臓の音聞かれちゃうじゃない…
こんなに速く脈打つ音を、あんたに聞かれたくないのに…