5話
更にその一週間後、母さん達は役所へ婚姻届を提出し、私と母さんは引越しの準備を進めていた。
今後はあのチビと父親の暮らす家で私達二人も暮らす事になる。
当然ながら私の苗字は野村から柚木に変わり、本当に家族になっちゃったんだ…と実感している。
「はゆのにもちゅ、ちゃみがはこびましゅ」
「あっ!ちょっと!子供がそんな重い段ボール持ったらダメ!転ぶわよ!」
「だいじょうぶでしゅ。ちゃみ、はゆのやくにたちたいんでしゅ」
チビは私の荷物を部屋に運ぼうと、両手でフラつきながら抱えて…案の定安定感の無い足取りでビタンッと派手に転んでしまい、慌てて駆け寄った。
「ぅ…わぁぁんっ…」
ったく!だから言わんこっちゃない!こんな子供が重い荷物を運ぶなんてどう考えたって無理なのに、何で無茶するのよ!
「うわあぁんっ…ひっく…ひっく…」
「もう…泣かないでよ…怪我してない?見せてみて」
チビを起こして膝を見ると、そこは痛々しく擦りむけて血が出ていた。
急いで消毒液と絆創膏を取りに行き、傷口を消毒すると、消毒液が染みて痛かったのか…私に抱きついてきた。
「ちょっ…いきなり抱きつかないでよ…!男ならこれくらい我慢してよね…」
「ごめんなしゃい…ちゃみ、はゆがやしゃちくてうれしいんでしゅ…」
「あんた馬鹿でしょ…そんな事が泣く程嬉しいなんて…」
「はぃ…ちゃみははゆがしゅきだから…だからうれしいんでしゅ…
はやくおおきくなりたいでしゅ…おおきくなってはゆをちあわせにちたいでしゅ…」
この子…本当に訳分かんない…
私はこの子の姉貴になったのに…この子はそれを理解してない…?
当然といえば当然か…まだこんなに幼いのだから…
ねぇ、頼むから…私の心を掻き乱さないでよ…
私この家では邪魔者だってそう思ってるんだから…
そんな風に純粋に私を好きだなんて言わないで…
「葉癒、そっちは終わった?」
「うん、もう全部片付いたよ。あの子が手伝ってくれたから早く終わった」
その後、あの子供が段ボールを運べない代わりに、私の服や小物とかをタンスや引き出しに仕舞うのを手伝ってくれて…そのお陰で引っ越し作業はスムーズに終わった。
「ふふ、茶美君は本当に葉癒が好きなのね。仲良くなってくれて嬉しいわ」
「別に…仲良くなった訳じゃ…」
「ねぇ葉癒、そろそろ茶美君の名前呼んであげて。あんたはあの子のお姉ちゃんなんだから」
「…考えとく」
名前…か…
茶美って呼んだら、あのチビ…また嬉しそうに喜ぶんだろうな。
よし。呼んでみる、か…