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大切なもの  作者: えりか
2/9

2話

「あっ、醤油切れてるの忘れてたわ。葉癒、お母さん買ってくるわね」


「私が行くよ。母さん疲れてるだろうから休んでて」


「ありがとう、葉癒」


母さんは本当に忘れっぽい性格をしている。その上優しいから、どんなに疲れていてもそれを表情に出す事はないし、私が自主的に動かなきゃ全部自分で何とかしようとする。


いつも、ありがとうありがとうって。そればっかり。


そんなんだから、あの男に捨てられるんだ…


あの時、私が早く気付いていたら母さんにこんな苦労させずに済んだのに…


何で私、母さんが捨てられた時…何も分からないただの子供だったんだろう。

何で…涙の意味さえも分かってあげられなかったんだろう。


母さん…早くいい人見つけて幸せになってよ…

私に遠慮する必要なんてないからさ…

母さんまで我慢しなくていいんだ…





「うーんと、あっ醤油発見。ついでに野菜も買っていこう」


スーパーに着いた私は目的の醤油を買い物カゴに入れ、もやしやぶなしめじ等、価格の安い野菜もカゴに入れていく。


ありきたりな物しか作れないけど、一応料理は小さい頃から出来る。


「はゆ…?」


「ん…?あ、君は今朝の…」


そろそろレジに並ぼうと思ったら偶然にも今朝の子供に出会い、咄嗟に視線を逸らすが、ガキは又しても私に駆け寄ってスカートを引っ張った。


「ちょ、離して…」


「ちゃみ、おちゅかいにきまちた」


「は、お使い?保育園児のくせにもうお使いしてんの?」


「はぃ…ちゃみにはぱぱしかいないから…。はゆもおちゅかいでしゅか?」


「私はもう中学生だから、お使いなんてしないよ。ただの買い物。じゃあね」


「まってくだしゃい!はゆ…ちゃみとおつきあいちてくだしゃい…」


またそういう事言うの?

めんどくさい…


「あんたねぇ、まだ3歳か4歳でしょ。10も離れた人に告白なんてするもんじゃないわよ。それじゃ」


「ちゃみ、はゆならいいもんっ…はゆならとしうえでもいいんでしゅっ…」


冷静に、適当にあしらうつもりだった。


母さんの仕事に支障が出ると困るし、相手にしなければいいだけの事なのに…


「…ふざけないでよ」


「はゆ?」


「何も知らないガキのくせに…。あんた、世間がどれだけ厳しいか何も知らないでしょ!物心ついてから後悔したって遅いの!!」


何も知らなかった幼い頃の自分。

父親がどんな人間かも知らずに慕って大好きだって言って、母さんを苦しめた…


あの時の無知な自分と、目の前の子供が重なって見えて…こんな小さい子に怒鳴ってしまった…


「は…ゆ…っ…」


「ごめん…怒鳴ったりしてごめんね…」


ビクビクと震えるその子を見て、何やってんの私…って何度も自分を罵った。


…だから嫌だったんだ。だから子供と関わるのは嫌なんだ。


「はゆ…ちゃみなかないよぉ…。ちゃみよりはゆのほうがなきしょうでしゅ…。だからちゃみはなかない…

はゆ…ちゃみをだっこちてくだしゃい。ちゃみがなみだをふいてあげましゅ…」


「っ…」


普通だったら大声で泣いてもおかしくないのに、私が傷つくと思ったからなのか、自分は泣かずに私の涙を拭おうとしてくれてる。


なに、この子…

あんな酷い事言ったのに、私の事嫌いにならないの?


ずっと手を伸ばしてるこの子を抱っこしようとすると、「茶美君!此処に居たのね!お父さんから連絡があってずっと捜してたのよ!」という声が…


その声には聞き覚えがあった。だって毎日聞いてるんだもの。


振り返ると、そこには想像通りの人物…母さんが息を切らしながら私達の元に駆け寄ってきた。

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