1話
愛に歳の差は関係ない?
それは本当なんだろうか。
私には理解出来ない。恋愛自体面倒だし、わざわざそんな苦労する恋愛をしたいとも思わない。
そんな私が…まさか10も年下の男を好きになるなんて…あり得ないでしょ…
「っとにもう!あの人また弁当忘れてる!」
私の母親は保育園で働いている。今日は…というか結構度々母さんが忘れ物をする為、中学校へ行く前に私が保育園まで届けている。
まあいつもの事だし、保育園は通り道でもあるし別にいいか。
そこで今日…運命の出逢いをするとも知らずに、面倒くさそうに保育園まで向かう私。
「あっ!葉癒、ありがとね〜」
「いつもいつも弁当忘れないでよね!」
保護者と園児達を朝早くから門で待っている母さんが大変なのはよく分かっている。だけどこんな頻繁に忘れるなんて…大丈夫なの?
ぶつくさ言いながら保育園を出ようとすると、不意にスカートを引っ張られているような感覚がした。
思わず下を見ると、小さい子供が案の定私の制服を掴んでぎゅーぎゅー引っ張っていた。
「何なの?離してよ」
「ちゃみ、ちとめぼれちてしまいまちた」
「はぁ?」
「おなまえ、おちえてくだしゃい」
「名前?野村葉癒だけど…」
一目惚れ?何言ってんのこのガキ。名前を教えてと言われてつい答えちゃったけど…
こんなガキ無視して早く学校行こう。
「はゆ…」
「は?いきなり呼び捨て?」
「はゆ…ちゃみとおつきあいちてくだしゃい」
どうやら私を呼び捨てにする気らしい。
てか、お付き合いって…凄いマセガキ。
新しい言葉覚えて、こうやって誰彼構わず言って楽しんでるんでしょ。
ほんと、ガキって単純で羨ましい。
「いい?お付き合いはね、自分が本当に好きな人とするのよ。私、子供には興味ないから」
「はゆ、まってくだしゃい!ちゃみ、ほんとうにしゅきなの!はゆにちとめぼれちたんでしゅっ…」
あぁーほんと、めんどくさい。
私はその子供を完全に無視して手を振り払い、スタスタと学校に向かった。
今日は朝からろくでもない事ばかりだ。あんなガキの言う事を真に受ける程、私は馬鹿じゃない。
「ねぇ葉癒、今日茶美君に何言ったの?」
「茶美君?」
学校が終わって家に帰ると…母さんがそう尋ねてきた。
茶美なんてクラスメイトに居たっけ?私には誰の事だかさっぱり…
…あ、思い出した。今朝のあの子供の事?確かに自分の事を茶美と言っていた。
「柚木茶美君っていうの。なんかね、あんたに一目惚れしたって私にコソッと言ってきたのよ」
「マジ?あの子、そんな事言ったんだ?母さんなら分かるでしょ。ただ面白がって言ってるだけだって。母さんから適当に言っといてよ」
「それがね…どうも本気みたいなの。あの子、子供だけど凄く真面目でいい子なの。私に真剣に言ってきたから」
「うわ、めんどくさい…ままごとの延長しないでって私の代わりに言ってくんない?」
「うーん…」
あんなガキに振り回されるなんて、あり得ない。
母さんは保育士だから、そんな子供を傷つけるような言葉を言えないのは分かるよ。
母子家庭だから、それが問題になって職を失う訳にもいかないしさ。
分かった、私が我慢するよ。今後あの茶美とかいう子供に会ったとしても適当にあしらうよ。
分かってる。我慢しなきゃいけないのは私。
いつだって私なんだから。