紫蘭
誰かが言った
「疲れたのなら その羽を休めなさい」と
あなたが言った
「あなたが思う道を ただ 行けばいい」と
幸せを数えるたびに 涙の色を忘れてしまうのに
どうして あなたは曇らないままで
愛しさを想うたびに 胸に痛みを隠してしまうのに
どうして
明けない夜が あなたを包み
新しい光が わたしを照らす
雨が止むまでは このままでいてほしい
あなたの笑顔を忘れないように
あふれた名前が消えていかないように
夢のなかならいつでも会える
そう願う夜をいくつ数えた?
朝を迎えて 腫れた瞼を
カーテン越しの光が笑った
想い出を並べるたびに あなたの熱を憶えてしまうのに
どうして わたしは変われないままで
温もりを感じるたびに 胸にあなたを描いてしまうのに
どうして
指でなぞった あなたのかたち
まだこんなに鮮明に おぼえている
忘れるくらいなら 苦しいままでいい
あなたの幻に埋もれるように
落ちた花びらにおぼれるように
踵のすり減ったスニーカー 草臥れたマフラー
あなたが忘れていったもの
あなたに向かって伸ばされた手 降り止まない雨
あなたが手放していったもの
明けない夜が あなたを包み
新しい光が わたしを照らす
雨が止むまでは このままでいてほしい
あなたの笑顔を忘れないように
あふれた名前が消えていかないように
あなたの笑顔が雨に濡れないように
ありがとうございました。