三話 求道者の終着点
ども、黒白鳥です
火灯ちゃん編三話になります
多分、次で火灯ちゃん編は終わります
どうぞー
学校で十分な睡眠をとったあと、俺は一旦家に帰った。手を洗い、水を飲み、ラーメン屋に行く服に着替えた。そして、俺は家を出た。
ラーメン屋は、歩いたら行こうとしたら軽く一時間はかかる。だから自転車で行こうと思ったが、ラーメン屋で、解散にはならないような気がしたので歩くことにした。何軒もはしごすると考えると、自転車はないほうがいいだろう。
俺はラーメン屋に向かって歩き出す。日は傾き、夜の到来が近づいていた。俺は近道をするために、人のあまり居ない裏道を通る。
しばらく歩くと、両手に一本ずつ鉄パイプを持った金髪の若い男が、俺の前に立ちはだかった。俺は学校のルールがあるせいで髪は染めていなかった。何だか負けた気分だ。
「どっちがいい?」
かなりドスの効いた声で、聞かれた。
「男なら拳じゃない」
俺はふざけて、「しゅっしゅっ」なんて言いながら、空中を殴る。
金髪の若い男は、鉄パイプをそこら辺に投げると拳を構えた。ボクシングの選手の構え方に似ていた。ボクシング選手と言えば、一年前くらいにボコられたなあ。あれは今となればいい思い出だ。
「で、俺、何か目つけられるようなことしたっけ?」
俺は言う。心当たりが有りすぎて困る。俺の予想では昨日の不良気取りから金を巻き上げたことだ。大方、仕返しか何かだろう。
「昨日、俺の仲間から金取っただろう」
金髪の若い男は言う。やはりか。
「ふーん」
俺は握りしめた拳を金髪の男に向けて放つ。男は、俺が顔狙いなのを知っていたのか、余裕の表情で俺の拳をよけ、カウンターを返してきた。俺はもう片方の手で、男の拳を弾くと一旦距離を取る。これはかなり手強そうだ。
「お前なんで、あんなダサ坊の仲間してんの?」
俺は何となく聞いてみた。男から、俺と同じような臭いがしている気がしていた。だとしたらあの、不良気取りと仲良くしていることが不思議で仕方なかった。
「あいつらはダサ坊なんかじゃない。俺に、不良の美学を教えてくれた」
俺はイラついた。あんな奴らが美学を語るなんて、片腹痛いを通り越して、俺の腹は煮えたぎっていた。
「ふーん、見るからに弱そうな男によってたかって、金を巻き上げてるのに。たった一回ボコられたくらいで、お前に泣きつく雑魚のくせに。それでも格好いいと言うのか」
「嘘つけ、俺の仲間がそんなことするはずない」
「信じろとは言ってねーよ」
あのボクシング選手にボコられた話には続きがある。そのあと、その人が所属しているボクシングジムに俺は、一人で殴り込みに行ったのだ。けれども、人はほんの数日で強くなれる訳じゃない。案の定、またボコられた。しかし、そのボクシング選手が俺を何故だか気に入って、その後何回か稽古をつけてもらった。これが俺とボクシング選手の話の全貌だ。大した話じゃないが、俺のこの二、三年間の中でも五本の指に入る思い出だ。
「お前、あんなのとつるんで何がしたいの?」
俺はそう言いながら拳を構える。あの時の稽古の感覚を思い出しながら。
「世間一般の人々が、嫌がる不良は本当はいい奴らだって伝えたいんだよ!」
金髪の男はそう叫ぶと、俺に向かって拳を放つ。金髪の男はかなり怒っていて、どうせこのパンチも怒りに身を任せたものだろうとたかをくくっていたら、思ったより鋭いパンチで俺は両腕を顔の前でクロスして防御する。しかし、予想外に鋭いパンチはガード通過し俺の顔面に直撃した。俺は最低限の受け身をとりながら、四歩くらい後退する。これ、普通に殴りあったら勝てないやつだ。ボコボコにされた後にラーメンを食いに行くなんて出来ないから、俺は他の解決法を模索することにした。
「伝えたいってどういうことだよ?」
俺は顔を手で拭いながら聞く。ケガはしてないようだ。金髪の男はまた拳を構えながら、言う。
「今さっき言った通り、本当は優しくていい奴だって分かってもらいたいんだよ」
「お前、あれか。昔、不良に助けられて、その姿に憧れてこっちの世界に来たタイプだろ」
「だからどうした」
こいつは分かっていない。俺らが築きあげた、俺らの世界を。
「人に理解を求めるのはダサい奴がすることだ。俺らは人に理解を求めない」
俺の脳裏に師匠の顔が浮かぶ。彼女は俺を助けてくれなかった。いや、助けてくれたのかも知れないが気づくことは出来なかった。本当に人の為を思って行動するのなら、それは人に理解されてはいけない。人の目に映る優しさは打算が見え隠れしている。だから俺らは理解される事を求めない。
「そんなことはない。人に理解されないと一生周りの奴らから白い目を向けられるだけだ!」
「別にいいじゃないか。白い目を向けられようとも、後ろ指を指されようとも、俺らは自分自身を貫くだけだ」
「でも、こんなんじゃ、明らかに損な生き方じゃないか」
こいつは意外といい奴だ。だけど、そこまで好きになれそうじゃないと思った。
「損とか得とかは関係ない。大切なのは自分で自分自身を誇れるかどうかだ。俺ら不良は日の当たらない世界の住人だ。本当の正しさを追い求めたひねくれ者たちの巣窟だ。そこには誰の理解も必要としない強い心がある。俺らは知っている。たとえ輝かなくとも、ダイヤモンドはダイヤモンドだ」
俺らは目に映らない世界に本質をおきたい。人に喜んでもらうことが生き甲斐だなんていう薄っぺらい人間には死んでもなりたくない。どんな時でも自分の誇れる自分でいたい。
人に理解を求めない。それはひどく自己中心的な考え方だ。だか、俺はこの考え方を一番格好いいと思っている。だってこの考え方は人に理解を求めないだけであって、人の理解を拒んでいる訳じゃないからだ。この誇り高い意志は必ず受け継がれる。分かる奴には分かる。それだけだ。
「俺らは悪だ。だか極悪非道な訳じゃない。何かの漫画のセリフであるだろう。『悪には悪の正義が必要だ』って。俺らには俺らなりの正義がある。そんだけだ」
「······そう」
金髪の男はそれだけ言うと拳をおろす。果たしてこいつは俺の言っていることが理解出来たのか。それは分からなかった。
まあ、でも俺はやりたいことをやっているだけだ。それが人に理解されないだけで、それは関係のないこと。それだけだったんだけど、盛り過ぎちゃったかな。
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俺は金髪の男を無視して、歩き出す。俺としてはただ思っている事を言っただけで、何故彼が拳をおろしたのかは分からなかった。でもまあ、触らぬ神に祟りなしとも言うし、触らないでおこう
俺はひりひりする頬を撫でながら、目的地に向かう。
金髪の男の言っていたこと。万人に理解されるということ。それはきっと心地のよいものなんだろう。だが、そのために優しい俺を演じると言うのは間違っている。やはり、人に優しくするときは気付かれてはいけない。だと考えるとあれは失敗だったように思える。澄川を助けたあの出来事は。
なんて考えながら、歩いていると目的地についた。その店は行列が出来ていた。俺が一番乗りかなと、辺りを見回すと、師匠と黒井さんが店の近くに座っていた。
「よっす、火灯。顔腫れてるけど、どしたの?」
「こんばんは、火灯くん」
「ども、師匠に黒井さん」
俺は黒井さんの隣に座る。すると師匠は俺の隣に移った。俺が、黒井さんと師匠にサンドされている形だ。師匠は俺の顔を撫でる。ひりひりして痛い。
「綺麗に入ってるな、結構なやり手じゃなかった?」
「勝てそうになかったから逃げた。ちょっと強すぎだった」
「ダサい」
「まあまあ、大事にならなくて良かったよ。火灯くん、大丈夫だね?」
俺は頷く。こんなになるんだったもうちょい頑張っとけば良かったなと軽く後悔。
「そろったし、並ぼう」
黒井さんは行列の最後尾に向かう。俺と師匠もついていく。このくらいの列だと15分くらいは待たされるかな。
「ところで、マスターは?」
この三人が揃ったならマスターだって誘う筈だ。俺はちょこっと疑問に思ったから聞いてみた。
「あの人、『俺にはこれまでの人生を共にしてきたバーがある。そいつを裏切ることたぁ出来ねえぜ』だとさ」
師匠がマスターの声真似をしながら言う。案外似ていてびっくりだ。黒井さんはツボに入ったらしく、口に手を当てくすくす笑っていた。その笑いが収まると黒井さんは語り出す。
「ついこの前までマスターのところに来ていた、松田くん。大麻で捕まったらしいよ」
松田がパクられる?
思わず俺は聞き返した。
「本当の話。そして僕の末路でもあるよね」
黒井さんのブラックなジョークはとても笑えるものでは無かった。それは師匠も同じだった見たいで、師匠はただ悲しそうな顔をするだけだった。
「大麻のどこがいけないのか。アメリカだったら、州によって違うけど、吸っていいところとかあるのに」
「火灯くん。分かってないなー。非合法の味だから美味しいんだよ」
こんどのジョークは笑えるものだった。俺と師匠と黒井さんは今さっきの暗い雰囲気を払拭するためにか大笑いをする。俺はこいつらと出会えて良かったなと思った。
時が過ぎれば状況も変わる。黒井さんはいつかパクられるだろうし、俺達悪は裁かれるだろう。だけどそれは最終的にそうなるだけで俺達の生き方には微塵も影響を与えることはないだろう。